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第五話 遠い日の思い出


 ミドルドーナを出発してから、一週間が過ぎた。


 ガタン、ゴトン。

 ガタン、ゴトンと。


 馬車に揺られながら、俺たちはひたすら西へと旅をする。

 基本的に座っているだけなので尻や腰や諸々が痛い。


 無論、現代日本と違ってアスファルトで整備されたような道ではなく、地面は文字通り土である。だから余計揺れる。

 まぁ、アスファルトの街道を馬が走れるかと言われたら疑問が残るので、自動車など存在しないこの世界ではそれでいいのだろう。


 ちなみに運転してくれているのはガンラートだ。

 あいつは何でもできるな。


 さて。

 シャルマーニは海に囲まれた地域だが、西側には山がある。

 その山脈を隔てて、ポルタニアという領土が存在しているのだ。


 おかげであまり国交が盛んだったわけではなく、植民地となった今でも、ポルタニアの情報は多くない。一般的に知られているのは文献に記載されているレベルの事だ。信仰している神獣がいるとか、先代魔王との決戦の地だとか。


 もっとも、国の上層部はもっと詳しく知っているはずなので、カリウスに取り入ればもっと情報を入手する事が出来ただろう。

 が、それはしたくないし、そんな必要はない。


 俺たちには、ポルタニア出身の心強い味方がいるのだから。


「ポルタニアってどんな国?」


 御車台の窓を開いて、俺はガンラートに尋ねる。


「そうっすねー……神獣信仰があります。

 それ以外でも、シャルマーニとはかなり毛色が違いますわ」

「具体的には?」

「もう何もかも違う……けど、似てる部分もあるって感じっすね。

 ちょっと言葉で説明できません。

 こればっかりは見てもらわないと」


 アバウトな解答だなぁ。

 全然想像できないんだが……うーん。


 シャルマーニは、いわゆる中世ヨーロッパって感じだ。

 でも、どこか違う。

 街中は別に汚くないし、俺が歴史で習ったよりも文明が発達していると思う。


 多分魔法という超科学が発展したせいだ。

 そのせいで、なんかゲームみたいな世界になっている。

 ミドルドーナの魔術師を動員すればインフラの整備は容易いし、通信や転移魔法の関係で長距離の連携にもそうそう困らない。技術か、金か、コネさえあれば。


 逆に、地球のような科学方面はてんでダメだ。

 魔法科学ハイブリッドが発達してもいいものを。。

 だから馬車なんかでわざわざ長距離移動しなければならない。

 電車とは言わないが、汽車ぐらい出来そうなもんだけどな。


 ……発想の問題か?

 でも、過去にも勇者として異世界から召喚された人間はいると聞く。

 料理を考えるに地球出身だろうし、そいつらが汽車とか電話とか伝えなかったのだろうか。


 そうだな、専門的な部分が大きいから、説明できなかったのかもしれない。

 俺だってそういった科学技術の詳細な解説は出来ない。

 遥なんて言うまでもない。

 勇者召喚される人間の、共通的な特徴なのかもしれないな。


 と、色々と考えていると、馬車が急停車した。


「お頭。敵です」


 窓から覗いてみると、魔物がわらわら。

 既に安全地帯というか、町村の管理地域から抜け出しているからな。

 駆除が追い付いていないのだろう。


 当初のアジト周辺のようなものだ。


「手伝う?」

「そうですね、。

 俺一人でもいいですが、お頭が手伝ってくれたらもっと早く片付きます」


 ならやろう。

 身体が鈍っていたところだ。

 この辺りで運動不足を解消したい。


 俺は馬車から下りて、聖剣を出現させる。

 超自然的な力が身体中に漲るのを感じる。


 ――考えた事もなかったが。


 この、聖剣のチート級の力は、いったいどこから捻り出しているのだろう。

 魔力ではないし、もちろん呪力でもない。

 そうでないという事は、この世界にはそれらではない第三の力があるのだろうか?


 ユーストフィアに召喚されて、もう半年以上過ぎている。


 事件の多発やお偉いさんとの出会いにより、かなり知識が増えたが、それでもまだまだ知らない事の方が多い。当然だ、世界は広い。

 日本の事さえたいして知らなかった俺が、こんな短期間でユーストフィアの全てを知ろうなんて無理に決まっている。


 俺が必要最低限の事しか聞かないせいでもあるが。


 それを抜きにしても、勇者に関する情報は少ない。

 知識量ではトップレベルであろうセレーネでも大したことは知らない。

 初代勇者イーリアスが創設した、教会が残さなかった知識。


 勇者ってのは、いったい何なんだ?


「お頭ぁ! 手伝ってくれるんじゃねぇんですか!?」


 思考が飛んでる隙に、ガンラートが魔物をなぎ倒していた。

 やっべ。


 慌てて駆け出して、刹那の間に魔物の首を飛ばす。


「君の活躍の場を奪っちゃ悪いと思ってね!」

「汚名返上は大物でやるんで、ここはさっさと片付けて下せぇ!」


 ガンラートは強い。

 俺の知る限り、直接的な戦闘能力では右に出る者はいないと思う。

 魔法が使えないのがネックではあるが、それを補って、余りある戦闘力を持つ。


 今だからこそわかる事だ。

 俺もかなり強くなったし、見る目も肥えた。


 ガンラートの強さは、そんじょそこらの、なんて次元じゃない。

 一対一ならミドルドーナの幹部連中さえ倒せそうだ。

 というか、下手するとスクリが魔法を発動する前に殺せるかもしれない。


 ただ……なんというか。

 これも今だからこそわかることだが。


「ねぇガンラート!」

「何すか! 口より手を動かしてくれませんかねぇ!」

「君のメイン武器って槍じゃないでしょ?」


 その槍が牛型の魔物の心臓を一突きにしたかと思うと、ガンラートの動きが止まった。


「……よくわかりやしたね?」


 彼は視線を向ける事もなく、背後から襲いかかる犬型の魔物を即死させた。

 こいつの目はどこについているんだ。


「俺も成長してるって事だよ」

「そうっすねぇ……ポルタニアに到着すれば、多分わかると思いますよ。

 あそこらへんで一番有名な武器が、俺の愛用してるもんなんで」

「なんで槍を使ってるの?」

「シャルマーニでは普及してないんすよ!」


 ちなみに高速移動中の会話である。

 多分、常人だと俺たちの姿を見る事さえ出来ないだろう。


 そんな感じで、一分ぐらいで呑気な魔物討伐は終わった。

 楽勝である。

 いい運動になった……と言えない程だ。


「ま、ポルタニアに着くのを楽しみにしてるよ」

「そうして下せぇ」


 焦る必要などない。

 そう遠くない未来に、彼の正体がわかるのだから。



---



 その晩。


「たまには野宿だっていいじゃん!」


 冒険気分を味わいたいというセレーネの謎の主張により、今日はアジトに帰らない事になった。意味わからん。地べたで寝るよりは、木製でギシギシ鳴るとしてもアジトの自分のベッドで眠りたい。


 という俺の主張は、なぜか全員が却下した。

 どうもこの世界で書籍化されている勇者一行の英雄譚では、移動の最中、野宿するのが通常らしい。


 そんな冒険活劇に憧れを抱くエン。

 別にどこで寝ようと関係ないというガンラート。

 お譲様のくせになぜか文句ひとつ言わなかったカシス。


 彼らの同意により、本日は野宿となった。

 これを民主主義の暴力という。


「じゃあ……俺とガンラートがその辺から食えそうなものを取ってくるから、セレーネが料理、カシスが火起こし、エンはテントを張って」

「了解!」

「あ、それと、今日は戻らないって事をアジトの魔術師に伝えてくれ」

「わかったわ」


 何でこんな事をしなければならないのだろうか。

 納得できないままに俺は指示を出す。


 ちなみに、テント等の野宿するための道具は元々馬車に積んであった。

 以前はそんな感じの旅をしていたからな。

 器具一式が初めから用意されているので困る事はないが……いや、本当に納得いかない。


 内心で愚痴愚痴と思いながら、俺はその辺の食えそうな木の実を拾う。


 この世界で自然に育っている木々には、どういうわけか食用の木の実が生る事が多い。

 魔力が関係しているのかもしれないが、細かい事は知らないし興味ない。


 見上げた木の枝にじゃがいもっぽい食物が実っていても、今更驚かない。

 畑でも木でも実るじゃがいも……。

 この技術を地球に持ちかえる事が出来れば農業革命を起こせるような気がするが、俺にそこまでする義理もなければ興味もなかった。


 無論、中には毒性が強いものもあるが、これだけの期間いればある程度は覚えるし、そうでなくてもガンラートはサバイバル力が高いので、彼に聞けば安全である。


「……何でこんな事を……アジトに帰ればいいじゃん……」

「いいじゃないすか。あ、それ食ったら即死するやつです」

「マジでか」

「マジです」


 さすが俺の右腕。

 お前より頼りになる奴はいないだろう。


「懐かしいっすねぇ……」


 木のぼりしながらじゃがいもを収穫していると、ボソッとそんな事を言った。


「何が?」

「いやぁ、昔はこんな感じで生活する事が多かったんで。

 お頭が来てからはすっかりそんな事も無くなりましたが」

「ふーん……どっちがいい?」

「言ったでしょう、俺は現状に満足してますぜ」


 彼は少し遠い目をしながら答える。


 まぁ、ポルタニア出身でシャルマーニに住んでいたんだからな。

 しかも盗賊だ。

 ろくでもない生活をしていたであろう事は察せる。


「こんな生活が、いつまでも続けばいいんすよ」


 ガンラートは、多分俺に言っていたわけではないのだろう。

 どこか懐かしい過去を思い出す瞳をしながら、そう呟いた。


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