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第十八話 終焉魔法


 俺たちはレヴィアタンの背に乗って、津波の眼前まで向かう。

 目など無いが。


 近付けば近付くほどわかるが、これって災害だよな。

 人間にどうこうできるレベルの話じゃない。

 スカイツリーより高いと思う。右を見ても左を見ても端が見えない。


 大自然って怖い。


「勇者よ。どうするつもりだ?」

「勇者って言うな。

 レヴィアタン、魔力は余ってるよね?」

「使う体力がないのでな。

 有り余っていると言えよう」


 もう一度言おう。

 海竜のくせに情けない。


 まぁいい、好都合だ。


 さて、この世界には五つの属性魔法がある。

 火、水、風、土、そして聖。

 そしてこれ以外の属性魔法は存在しない。


 厳密には支援魔法があるが、あれには属性が存在しない。

 あえて言えば無属性である。


 で。

 遥も、スクリもそうだが、どうもこれらとは別種の魔法を使っていると思われる。

 いや、水は水だった……のだが、水に上乗せされている力がある。


 恐らく、呪力だ。


 最初に遥に使われた時は、魔王特有の何かだと思っていたのだが、さっきスクリも使ってきた。だから違う。無論、もしかしたらスクリが魔族となっていた事に起因している可能性はある。


 可能性の数を考えるとキリがない。


 これ以上考えていられる余裕はないのだ。

 俺の考察が間違っていない事を祈る。


 その上で。


「エン。君は呪力を使って他人を守れるよね」

「うん」

「俺に直接送れる?」

「……出来ると思うけど」


 やらない方がいい、と言外に伝えてくる。

 ゴーストには関係ないが、呪力は人間には害でしかない。

 らしい。詳しくはわからない。


 それに耐えられる遥やスクリは何だというのか。

 いや、呪力を受け入れた結果、あぁなってしまったのかもしれないが……。


 とにかく。

 今だけでいいのだ。ほんの一瞬、津波を押し返せる火力が出れば。


「じゃあやろう。カシス、頼む」

「どうなっても知らないわよ」

「大丈夫。死なないから」

「……あんたはそれに頼りすぎよ」


 そして彼女は杖に力を込め。


「『魔力吸収アブソーブ』、『魔力譲渡オーバーフロー』」


 セレーネとレヴィアタンから魔力を根こそぎ奪い取り、自身の魔力も併せ、全てを俺に送り付ける。


 受け入れた瞬間、内臓が爆発したかと思った。


「ごふっ……おいマジか」


 目と、耳と、口と、鼻から、身体中の血管から一気に血が吹き出た。

 膨大な魔力が体内で荒れ狂っている。

 再生能力がなかったら確実に死んでいるぞこれ。


 この魔力の殆どを抱えているレヴィアタンって頭おかしいんじゃないの?

 それが神獣の器か。

 敵に回らなくて良かった。


「身体が弾け飛ばない事が不思議なくらいよ」

「死んじゃダメだよ!」

「死なないって……かはっ」


 俺が吐き出した血が一面を濡らす。

 長時間は無理だ。

 血涙を拭ってエンを睨む。


 彼は一瞬躊躇するが、小さな両手を俺の両肩に乗せ。

そして、その力を、渦巻く人々の感情を注ぎ込む。


 負のエネルギーが流れ込んできて。


「あああああああああああああああああ! アガ、あ、あァああAぁあアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

「ユタカ様!」


 憎い!

 憎い!

 この世界の全てが憎い!


 俺を食いちぎった魔物が、私を辱めた人間が、船から突き落としたあいつが、金のために捨てた家族が、自然を荒らすくだらない生命の全てが!


 誰も彼もが信じられないこの世界が!

 勝手な奴ばかりのこの世界が!

 誰かの都合だけで振り回してくるこの世界が!


 こんな津波なんて放っておいてもいいんじゃないか?

 滅んでしまった方が、よっぽど救いなんじゃないか?

 もう、ユーストフィアも、地球も、日本も、どうだっていいんじゃないか?


「ユタカ!」

「兄ちゃん! やっぱり無理だよ!」


 うるさい。耳触りだ。


 俺はただ遥と一緒にいたいだけなんだ。

 なのに何で! 何でこんな事をしなけりゃならない!

 どうして俺たちの人生を奪われなければならない!


 俺たちはただ、普通に暮らしていただけなのに!

 気ままな明日を、望んでいただけなのに!


 遥! ハルカ――。


 ――必ず殺しに来てね――


 何で……何でそんな寂しい事を言うんだ。

 殺したくなんてない、戦いたくなんてないんだよ。


 ――帰れるなら、帰りたかった。

  豊に会いたかった。ずっとずっと――


 俺だって会いたい。会いたくて会いたくて仕方ない!


 ――誕生日はまだ先だけど――


 そうだ。もうすぐ遥の誕生日なんだった。

 二年、祝ってなかった分も含めて、今度はちゃんと。


 ちゃんとこの世界で祝ってやらないと。


 だから、だから。だから。


「まだ、世界を諦めるわけにはいかない」


 体内を破壊する莫大な魔力と、世界に刻み込まれた人々の感情を手繰り寄せて。

 災害を引き起こせるだけの風を収縮し、解き放つ。


「『終焉・颶風テンペスト』」


 発動と同時に、カシスが転移魔法を使った気配がした。



---



 意識が戻った時には、視界の先に雨粒、背中に砂の感触。

 横に顔を向けるとセレーネもカシスも死んだように眠っていた。

 余波でも受けたのか知らんが、モブどもも全員気絶してる。


「兄ちゃん、起きた?」

「エン。津波は?」

「爆発した」


 どういう状況だ。


 と思うも、だいたいわかる。

 別に上空に雨雲はない。

 だから、この降り注ぐ雨は、俺の風で相殺された津波の残りカスだろう。

 そのうち止む。


 何とか、なったか。


「呪力は返してもらったよ」

「お前はよくあんなの抱えてられるな……」


 何もかもが嫌になった。


 遥やエンが見ている世界はあんな感じなのか、と戦慄する。

 俺も大概ユーストフィアが嫌いだが、それとは比べられたもんじゃない。


「おれは何も感じないんだ」

「そうなの?」

「うん。ただの不思議なエネルギーだよ」


 人間にだけ害があるのか。

 じゃあ遥は……遥はどんな存在になっているんだろう。


 戦った時は完全に人間だと思った。

 スクリとは違う。

 スクリは身体が半分魔物だったし、剣を入れた感触もどこか違った。

 でも遥にはそんなものを感じなかった。


 人間のまま、なのか?


「あれ、そういやレヴィアタンは?」


 見回してもどこにもいない。あの巨体を見逃すとかありえない。

 魔力だけもらって放置してしまったから、死んだか?


「帰るって。あの、スクリって人も連れて行った」


 そういえばスクリの死体もない。

 海に還すのかもしれないな。

 きっと、海も愛する彼女を穏やかに受け入れてくれるだろう。


 多分。

 正直、海の好き嫌いとかよくわからない。


 というか、俺はあいつに話があったんだが?

 逃げたの? 今度会ったら殺すよ?


「それで、伝言だよ。

 『賢者に会いに行け』ってさ」

「賢者? 誰それ?」

「ハルカ姉ちゃんの仲間だった人だよ」


 あー。

 そうか。うん。スクリがいれば、そりゃ他にもいるよな。


 また魔族との戦いになるんですかね……。

 ゲームの四天王じゃねーんだぞ!

 スクリは我らの中で最弱、ってか。


 やってられん。

 そんな展開はごめんこうむる。絶対に。


「兄ちゃん、もう二度とやらないから」

「んー、また頼むかも」

「ダメだよ。兄ちゃんがいなくなったらメイも泣くし」


 基準はそこなのか。

 シスコンの鏡だな。


「とにかく。もう終わったんだよね?」

「うん。カシスが起きたら……帰ろう」


 久しぶりに。

 凄く疲れたな。



---



 アジトへ戻って、三日は寝たきりだった。

 セレーネもカシスも似たようなもんで、ガンラートやエン、メイが時々様子を見に来ていたらしいが、本気で死んだと思ったらしい。


「またえらい相手と戦ったんすね」

「知ってるの?」

「そりゃあ、有名ですからねぇ」


 リックローブと並ぶぐらいの名家だっけ。

 知っていてもおかしくないか。


 正直、スクリが本気でかかってきたら、俺以外はあっさり死んでいたと思うんだよな。

 それならそれで全員転移で帰していたけど。


 俺一人だったらどうなっていたんだろう。

 負けはしない……と思う。

 指輪のせいで俺は死なないし、躊躇せず殺す気で一撃当てれば殺せた。

 たとえ聖魔法が無かったとしても、恐らくは貫通できた。


 大津波は一人ではどうしようもなかったが。


 つまり下手するとシャルマーニで俺だけが生き残るような状況になったかもしれないと。

 はは、笑えん。


 考えていると、バンッと俺の部屋の扉が開かれる。

 セレーネとカシスである。


「ユタカ。今回の件について報告が欲しいって、シャルマーニから」

「そのうち行くって言っておいて」

「次は私は行かなくていいよね」

「ダメです」

「なんでさ!」


 ただの嫌がらせです。


 またブーブーと不満を言うセレーネに笑いかけながら、ひとつの大きな仕事の終わりを実感していた。


あとは閑話も投稿して、二章終わりです

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