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惑星センドロイドウ  作者: 笛吹一風
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2/2

運び屋

 次の日の朝。

 二人の男は「神聖」から放たれる輝きを暑いマントの上から感じた。

 暑い。ジュウドウはそれをそれとなく察し、キンキに水を渡す。しかし、キンキは水売りの子だ。水の大切さを知っている。彼は水を我慢できるまで断った。

 しばらくラクダに揺られていると、前方に小さな森林地帯が現れた。

「あそこに寄るぞ」

 ジュウドウはキンキに言った。キンキは頷く。

 もし自分に父親がいたらこんな風なのだろうかとキンキは感じた。ジュウドウの大きな背中を見ているとそう思うのだ。固い大きなその背中が彼にそのような想像をもたらしたのだ。

 森林地帯に入る。木陰が二人の身体を涼ませた。そしてどんどんと中腹に進む。

 そこには青い清んだオアシスがあった。そしてそこここにはラクダを連れた人間たちが和やかに話をしていた。

「おおい、ジュウドウ。やっと来たかあ」

 二人のマントを被った人間がジュウドウに近づいてきた。顔見知りらしい。

一人は痩せこけた若い男で、細い眼が笑っているのか普通なのか表情の読めない男だった。そしてもう一人は髭もじゃの中年で、赤ら顔の男だった。

「ケンケン、ワシオ、やっぱり来ていたか」

「いやあ、おれはあ、久しぶりだあ」

 ケンケンと言われた痩せ男は眼を糸のように細めてジュウドウの到来を喜んだ。

「ジュウドウ、なんだその子は? お前の子供かあ?」

ワシオはキンキの顔を覗き込んだ。

「違うよ、これは、まあ、配達物さ。それより、もう飲んでるのか?」

「そうよお! 飲んでるよお! 飲まずにいられるかい! 今日はここに一泊だからな!」

 ワシオは叫んだ。周りの人間たちが彼を見た。しかし、ワシオは別段気にしていない。

「ジュウドウさんもお、泊まってくんでしょうお?」

 ケンケンが訊ねる。

「どうしようかなあ。まだ日も落ちてないなあ。しかし、こいつは結構急いでるみたいだしな」

 ジュウドウはキンキをちらりと見た。

「おれはあんたに運んでもらってるんだ。行く時もあんたが決めていいよ」

 キンキはそう言った。

「そうか、すまないな」

「おお! じゃあ決まりだな! ほうれ、飲め飲め! 小僧! お前も飲め!」

 ワシオが水筒を二、三本投げた。ジュウドウはそれを器用に受け取り、一本をキンキに渡した。

 キンキはその水筒の口を開ける。中から腐った卵のような臭いがした。

「ぐいっといけえっ!」

 キンキは不安そうにジュウドウを見上げる。しかし、すでに彼は一つの水筒を開け、それをうまそうに飲んでいる。

 キンキもジュウドウをまねして、中の液体(?)を飲んだ。臭いはきついが甘く、胃の中に入るとそれは熱を持ったかのようだった。

「ゲドルサバルの血が入った酒だ! 精力つくぜ!」

 ゲドルサバルがなんなのかわからなかったが、その液体は彼の身体と頭を幸福にした。そして気がつくと四人でその水筒を回し飲みしていて、上を向くと夜になっていた。

 星が綺麗だ。キンキはそう思った。そして星をつなげてアンリの顔を創った。綺麗だ。アンリの顔は綺麗だ……。

「小僧、なに空ばっかり見てやがる。空にゃあ何にもねえぞお!」

ワシオがキンキの頭を撫でた。腐った卵の臭いがその口から香った。

「キンキくん、これを食べなあ。ジュウドウさんはあ、乾燥肉しか食べないだろう? この人は大好物だからなあ」

 キンキはケンケンから差し出された黄色い円形の薄い食べ物を一つ掴み、口に入れた。ぱりぽりと心地よい音が口の中から放たれたが、味は薄すぎてよくわからなかった。

「そんなもん食っちゃあこの砂漠は生きぬけねえよ。やっぱり乾燥肉じゃあなけりゃあ!」

 顔を赤くしてジュウドウはそう叫んだ。手にはやっぱり乾燥肉。

 どろどろになるまで四人は酒を飲んだ。そして運び屋の三人は歌った。その歌は力強く、そしてとても楽しげな歌だった。


西へ行くのか東へ行くのか 俺たちゃしがない運び屋さ

酒があれば暑さも感じぬ 俺たちゃそうゆう運び屋さ

手紙や水や危ないものさえ 瞬時に運んで見せようさ

だってそいつが俺たちの仕事 俺たちやらなきゃだれがやる


ホイホイサッサホイサッサ 

ホイホイサッサホイサッサ

ドンドンドコドコスットコドッコイ

ドンドンドコドコバカヤロー


俺たちなにより命が大事 そうさ誰でも知っている

だけど料金上乗せするなら 俺たち命をかけてもいいぜ

酒のつまみにするめの一匹 くれるんだったらかけてもいいぜ

だけど魂こいつはやれない 俺たちだって誇りがあるのさ


ホイホイサッサホイサッサ

ホイホイサッサホイサッサ

ドンドコドコドコスットコドッコイ

ドンドコドコドコクソクラエ


そこ行くあんたは去年のねえさん そこのあんたは今年のねえさん

忘れちゃこまるぜ俺たちのこと あんなに仲良くしたじゃない

つれない態度だあのねえさん だけどそいつはなれっこさ

俺たちゃしがない風来坊 一時の慰み大歓迎さ


ホイホイサッサホイサッサ

ホイホイサッサホイサッサ

ドンドコドコドコスットコドッコイ

ドンドコドコドコバカヤロー……


 あちらこちらの焚き火の周りからもこの歌が聞える。そしてこの歌を歌う人々は皆楽しげだ。

「おい小僧! お前もおれたちと一緒に運び屋をやろうぜ。こんな楽しい職業はねえぞ! 町から町へ移動して、その土地土地の美人も拝める。こんな楽しいことはねえ!」

 ワシオは笑ってキンキに叫んだ。サルのような赤い顔が火に照らされて揺れる。

「いやあ、おれはあ……」

 キンキはぼんやりとした頭で考えた。それもいいなと思った。しかし、おれの目的はなんだ? とも思った。するとアンリの顔が頭に浮かんだ。彼は首を小さく振った。

 ジュウドウは彼を見て頷いた。そして、

「こいつはだめさ。こいつはおれたちよりもしっかりしてるんだ。こいつはな、なんと、あの女神たちの石像に行くってんだ!」

 と、言った。

 ワシオとケンケンは眼を剥いた。

「なに? なんだってそんなとこへ行こうってんだ?」

 キンキはその理由を二人に話した。二人はじっとその話を訊く。

「はははは! そいつはえれえ! 行きな! お前のやるべきことをやりな! きっとセンドロイドウもお前を見守ってくださる!」

「でもさあ、キンキくん」

 ケンケンが話しかける。

「センドロイドウのお偉方も、何十年もかけて女神たちと交渉して生贄を少なくしたんですよお。きみはそのことを知ってるんですかあ?」

「おれは、知らない」

 ケンケンは少し意地悪く言う。

「そもそも女神の石像の中に入ることさえできないですよ。あそこには特殊なバリアがはってあるんですからね。センドロイドウの科学兵器でも打ち破れないほどの強さなんですよお」

 何十年か前、センドロイドウは女神たちに反旗を起こした。しかし、センドロイドウの最新の化学兵器を女神たちはものともせずにはね返し、センドロイドウは痛い思いをしたのだ。

「おいおい、ケンケン。くだらないことは言うな。そんなことは全部、くだらないことだ」

 ジュウドウはケンケンに言った。笑っていたがケンケンはその瞳になにかしらの怒りを感じ、黙ってしまった。

「そうだぜケンケン! お前はたまにインテリぶるからいけねえ! さあ、この小僧の勇気を祝って、おれたち運び屋だけに伝わる隠された歌を歌おう! この星の言いたいことを代弁しよう!」

 ワシオはそう言うと、二人をうながした。二人は空気を腹いっぱいに吸うと、大声で歌いだした。


俺たちだけは知っている センドロイドウの本当の気持ち

女神たちが現れて この星の緑が消え去った

だけどセンドロイドウあきらめない 昔の緑の星に戻ること

しがない俺たち運び屋だけど あんたの夢に乗ってやる


センセンドロドロセイセンドロイド

センセンドロドロセイセンドロイド

ザダンガザンザンザンザダン

ザザンガザンザンザンザダン


俺たち運び屋あんたのために 行く土地土地に木の苗植えて

ほんの少しの希望でも あんたの役にたちましょう

俺たち運び屋あんたのために 必要なもの皆に届け

喜び安らぎそんなもの あんたに見せてあげましょう


センセンドロドロ聖戦ドロイド

センセンドロドロ聖戦ドロイド

ザダンガザンザンザンザダン

ザザンガザンザンザンザダン


 三人の運び屋たちは歌った。キンキはそれを眺めた。そしてそれは朝になるまで続いた。歌声は朝になるまで……。


 酷い二日酔いで四人は目覚めた。そしてそれぞれのテントから這い出してきた四人は、お互いの顔を眺めながらどこか恥ずかしい思いで食事の準備をした。

 別れの時間になった。しかし、その前にケンケンはキンキのもとへとやってきて、昨日の侘びをいれた。

「ごめんよお、おれはなんだか生意気な口をきいたようでよお。許してくれよお」

 キンキはなにも気にしていないと言った。ケンケンは喜び、キンキに握手を求めた。キンキはそれに応じた。

 それぞれのラクダに乗り、四人はオアシスを出た。

 ワシオがキンキに言う。

「小僧、がんばりな。おれはよ、応援してるぜ。おれたちとお前のやろうとしてることはどこかで繋がってるのさ。どっちもセンドロイドウのためさ!」

 ワシオは本当のことを言うと、キンキのしようとしていることが成功するとは思わなかった。しかし、自分にそれをとめる権利はないのだ、信じていることを否定することなどしてはいけないことなのだと、彼はそう思っていた。それに望みがないわけではない。ほんの一粒の希望でもないよりはましなのだとも思っていた。

「二人とも、また会おう!」

 ジュウドウはそう言ってラクダを歩かせた。

 オアシスとワシオとケンケンの存在を背中に感じて、キンキは決意を固めた。そしてアンリの顔を思い浮かべ、唇をぎゅっと噛み締めた。


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