最終章 地球へワープ・イン
おれは、コンピュータ室のメイン・モニターに映っていた男の顔を見たとたん思わず叫んでいた。
「ラフィンさん!」
中にいたサミーとシーダが振り返る。
「よっ、見てよこれ。剣のあとに輪っか〈ルメイヤ〉を調べはじめたら、こんな人が映ったんだ」
「きゃあ★ ハンサム★ 美青年★ 」
ルアシの奇声をよそにアミーがおれの顔をのぞき込んだ、
「お知り合い? このトゥームの若い男の人と?」
「少し……」
「静かに!」
シーダが偉そうに叫んだ、
「何かを言ってんだよ」
『私の名はラフィン。このルメイヤ〈金輪〉知識の記憶層として造り上げた者です、このルメイヤを使用するのは〝トゥームの神〟のみ。黒髪の少年よ。私があなたをトゥームに招いた者です。何か質問があれば聞いて下さい。ルメイヤの知識は私自身のものですから。
ラフィン博士……こんなに若い男だったのか……。
剣に映ったのじゃ顔立ちまでははっきりしていなかったもんな。
「質問その一! ラフィンさんがロンを作ったの?」
サミーが凄く嬉しそうにニコニコ満面笑みを湛えながらと画面に問いかける。
『はい、アレピオスの支配とは唯一まぬがれて造られた宇宙船です。アレピオスと同等の能力を備えています』
言葉はロンが翻訳しているので会話に支障はない。
「質問その二、じゃあ、僕たちの地球のこと知ってて、ロンを送りだしたの?」
『いいえ。私にその予感があったからです。異星に住まわれる〝トゥームの神〟の為、私は自らの直感に従い、目的を決めることなく船を宇宙へ出しました。』
「んじゃ、偶然地球へ来たんだ」
『その時の私には、すでに黒髪の少年。あなたが神であることを知っていました。きっと、あなたも私の造り上げた剣アティヌを通して私を見て下さったことと思っています』
「なら、あの眠りからさめた文明の遺産たちって……」
おれは身をのり出した。
『ロンがトゥームに戻ることにより、ロンの支配下にある建物や機械が特殊な電波を受け、地中から姿を現し作動をする仕組みにしました。ロン自身がいわば鍵の役目を果たすのです。』
「はーん」
アミーが笑った。
メディアとミラクさんには、今だ、わけのわからない困惑した表情が浮かんでいる。
おれはみんなに気づかれない様にして部屋を出た。
結局、二万年前の科学者であり、特別な能力――予知能力者だったんだろうか?――を持ったあのラフィン博士さえも、おれをトゥームの神さんだと思い込んでいた。一体何でそうなるんだろう……。
あの時、アレピオスの要塞に追い込まれて〝小さな翼〟のキャノピーが開いたのは、アレピオスが、ロンと同じように遠隔操縦を行ったというところは理解してもいい。
でも……アルファ号が、二万年前に宇宙に出たアルファ号が、何で今ごろ地球なんかにやってきたんだろうか……。
操縦室の中へ足を踏み入れた時、後ろから誰かの足音が駆けてくるのが聞こえてきた。
「トゥーム星が……」
おれは部屋の中央で立ち止まった。
スクリーンにはトゥーム星が大きく映っている。
後ろから来た誰かも、おれの後ろで立ち止っていた。
〈トゥーム……〉
この声!
おれは後ろを振り返った。
「メディ……ア」
〈あ、あの、ユウ様、わたし〉
おれ達は肩を並べるようにしばらくの間、じっと青いトゥームを見つめた。
〈ユウ様。わたし……これを……〉
見つめるとメディアの煩が鮮やかな桜色に染まった。
ただその青い瞳は悲し気に揺れている。
彼女の差し出した手のひらの上には、青い石のペンダントがあった。
〈これを、ユウ様に……〉
「おれに?」
〈はい〉
メディアが微笑みを作ったと同時に真珠のような涙が一粒、こぼれ落ちた。
「何で……泣くの?」
おれはズポンのポケットをあっちこっちひっかきまわしたあげく、ハンカチがないのを知って、思わず親指で彼女の涙を拭っていた。
〈ユウ様は……トゥームの神ですもの……〉
メディア……。
〈受け取って下さいますか?〉
「うん。ありがとう、大切にする」
本当に……もう会えないのだろうか……。
「メディア……」
おれはただ彼女を見つめていた。
ソファに座るおれの前を二匹のパラとサミー、シーダが追いかけっこをしている。
スクリーンに映る風景は宇宙――。
トゥーム星は遥か遠くに去って見えない。
――メディア、何故君はあの時涙を流したんだろう。
操縦席でワヤワヤ陽気に騒いでいるラグ、ルアシ、アミーの姿がおれの視界にぼんやりと映っている、
――ユウ、そして多くの、生命強く受けし者よ。
宇宙の胎動を聞くことが出来る者達よ。
その生命に宇宙を感じる生命強き者達よ。
君達すべてに、生命を鍛え上げさせてゆく機会を与えているものの存在に、いつか気づく時もあるだろう。
星を越え、銀河を越え、宇宙を越え、次元を越え。それでもすべてはひとつなのだと知る時も来るだろう。
その為に、君達は互いに助け合っていきなさい。
君達にありとあらゆる人々に生命の強ささを、優しさを伝えていってほしい。
メッセンジャー――生命強き者――。私たちに最も近き者達よ。
私――生命――の源に最も近き者達よ。
『りーだー・ゆう。地球二向カイわぁぷシマス。イ~イ?』
「おーあ、うん」
ロンに呼ばれて沈んだ気分のうたた寝状態から目を醒ます。
「何? メディアさんと別れたのがそんなに悲しいの? あたしだってミラクさんとさよならする時はすーっごくさみしかったわよぉ」
「ルアシ……次元が達うんだよ。リーダーのは、何たってペンダントももらったし」
「あたしだって髪の毛もらったわよ。ラグ」
目の前でラグとルアシが言いあってる。
「だけど、どうしてそんなに落ち込むのかな? まるで二度と会えないみたいに……」
「へ?」
サミーのあほらぁとした言葉におれは飛び上がった。
「何? 何だってサミー! どういう意味だ? もう一度言ってみろ」
ソファから立ち上がり、操縦席のそばでウロウロしているサミーに叫ぶ。
「やーね、サミーがいいたいのは……。あら? ひょっとしてリーダー気づかなかったの? ロンが、アルファ号がある限り、またトゥームヘ行くことも出来るってことに」
「別に小説や映画じゃないんだから、行っちゃいけないなんて決まりはないでしょう?」
「あ――!!」
何で今までそれに気がつかなかったんだろう。
「リーダーのスカタン。大馬鹿。ミスター勘違い」
ふん、何とでも言えシーダ、おれは嬉しいんだ。
「ところでロン」
アミーが珍しく切迫した声で尋ねた。
「これで地球に戻ったら百年後なんてことないでしょうね」
『ソンナコトハナイデス。異次元空間モ利用シテノわーぷデスモノ』
「そーだよね、小説やマンガと同じで、出発した日に戻るんだろ?」
『ハズレ』
「え?」
シーダの口が開いたままで止まった、
全員の顔が青ざめる。
『地球時間デ、約二週間後ニナリマス』
「え――っ!?」
絶叫が上がった。
「そんなぁ! ママにどうやって言い訳したらいいのよう? ラグ」
「正直にUFOに乗ってましたっていう?」
「オレん宅、きっと身の代金目当ての誘拐だと思って大騒ぎしてんだろうなあ……」
「捜索隊が出てるかもしれないね、アミー」
「リーダー、誘拐犯にならない? 有名になれるわよ」
「誰がなるかぁ!」
床の上を、シーダが捕まえてきたもう一匹の新しいパラが、二匹仲良くポンポンパラパラ走っている。
「だいたい、ハイキングに来てUFO見つけたアミーとサミーがいけないんだ!」
「違うわよ! ロンはリーダー探して来たんだもの、リーダーがいけないのよねぇ」
「違う! ロンがいけない! ロンがぁ!……うちのお袋、凄くこわいんだぞ……」
『私ハ、タダ、らふぃんノ言葉に従ッタダケヨォ……』
互いに責任をなすりつけ合い、その後のいいわけを口論する操縦室の中、ロンの声が小さく響いていた。
『わぁぷ・いん★』
(おわり)




