第5章 その1 邂逅
その瞬間、おれはラグ達の居場所を把握したかのようだった。
ただ多分に夢の中にいる感じが強く、思考的能力が欠如している。目が覚めれば忘れてしまうかもしれない。
いや、大丈夫だ。
おれはラグ達がこの建物――ピラミッド――の地下にいるのを見い出だしながらそう思った。
これは夢ではないのだから。忘れはしない、逆に今まで見たすべてのを思い出すことになるだろう。
地下の内部は、この建物すべての中枢機構を司るそれがある場所だった。
広い室内の中央に、二〇メートル近い高さを持つストゥパ〈仏塔〉にも似たシルエットのそれ――巨大なコンピュータ――が、この建物の主であることを示すかの様に冷たく巨大な威厳を持ってそびえたっていた。
その表面には色とりどりのパネルが点滅を繰り返している。
そしてその巨大コンピュータの周りに数個の細長い透明なカブセルが浮かんでおり、中には人が一人ずつ入れられていた。
ラグ達だ!
おれの視覚機能がズーム・アップした様に、一人一人の表情を見てとることが出来る。
ラグ、ルアシ、シーダ、ミラクさん、アミー……! アミーがいない?
鈍いほどおちた思考力の狭間で、ようようそのことを感じとることに成功したおれは、次いで、ではアミーは一体どこにいるのだろうかという疑問に駆られた。ところがその瞬間、おれが疑問を持つのと同時に答えが目の前に現れた。
まるでパノラマでも見ているようだ。
そしてその空間――部屋と云うには小さすぎるところだ――にアミーはいた、けれどその体は重力とは無縁のように、横たわった姿のまま宙に浮かんでいる。
眠っているのだろうか……そう思った時、閉じていたアミーのまぶたがゆっくりと開かれた。
――リーダー?
しかしその瞳はうつろ気でどこにも焦点を合わせてはいない。
アミーの声――エコーのかかったようなテレパシーが感情を欠いて伝えられた。
いるはずもないおれの存在を、アミーは知っているのだろうか……。
おれは夢の中の傍観者であるかのように、言葉を返すということすら忘れたまま、ただアミーを見つめていた。しかしその反対にアミーのそばに近寄りたい、その空間の内部に入ってみたいという好奇心も持ちあわせていた。
――リーダー……。本当にリーダーなのね……。どうしてそこにいるのかわからないけど、よかった。みんなを助けてあげてね。そしてもし、もしも出来ることならサミーも……ああ、駄目よリーダーここに来ようとしちゃ……。誰もここには入れないわ……。ヒューアス以外には。サミーが弾かれたの……この部屋にテレポーテーション〈瞬間移動〉して現われようとした直前に……。
――サミーが?
――突然で、わたしにはその瞬間が見えたんだけど、突然すぎてサミーに教えてあげられなかった……。それにサミーがそんなこと出来るなんて知らなかったもの……。そして、わたしにも似たような力があっただなんて……。今でも信じられないのに……。
アミーは見えないどこかにいるおれの存在を確信して意志を伝えようとしていた。
――でもリーダー、リーダーなら不思議じゃないなぁ、なんて思える。おかしいわね……神様じゃないなんてことわたし達みんな知ってるはずなのに……。だからリーダー、ルアシ達を助けてあげて。わたしのことはいいから……お願い。頼んだわよ、リーダー………。
アミーはゆっくりとまぶたを閉じた。
――アミー?
声をかけるように意識に手をのばしたおれは、その瞬間――空間を包むそれに触れた瞬間――電気が走ったような感覚に襲われた。
――弾かれる
アミーの言った言葉が蘇った。
意識が鮮明化する。
そしてその一瞬に、多くの情報が頭の中になだれ込んで来た。
壁だ。
アミーのいる空間を覆っている壁が意識を弾くのだ。
まるで鉛のように、超感覚すら通ることの出来ない物質。ただし鉛と異なっているのは、鉛が超感覚を遮断させてしまうのみに留まるのに対し、この壁の原石、又はそれに特殊効果を施した金属――は物質はもとより、意識体、精神体を遮断、触れただけでそれらを弾き返し、時には分解させてしまう力を有したものだ。
だから精神、肉体共にアミーの元へ現れようとしたサミーは――異空間に弾かれたのだ。
「……」
あまりにも断片的なそれでいて知識としての思考だった。
わかっているのは、おれのものじゃないってこと。
おれがそんなことまで知っているわけがない。
では一体誰の――?
でも、今はそんなことに気をとられている場合ではなかった。今なんとかしなければ、おれもサミー同様、弾かれてしまう。おれがいなくなったらその後は一体誰がラグ達を、アミーを助け出してくれると云うんだ?
弾かれてはならない!
ほんの一瞬の間のはずなのに、ゆっくりと時間をかけたようにはっきりと理解できる。
おれは自分自身に言いきかせた。
おれのそばで、おれに重なるようにしてもう一人のおれ自身が頷いているのがわかる。
大丈夫だ。今度はあいつらの手をかりなくても出来る。
ラグ達の元へ行くんだ。
意識が弾かれかかったその瞬間、自分に命じる。
――跳ベ! と。




