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〜転生レスラー、三つ子の兄弟と世界を奪い合う〜  作者: 弓庭柔悟
第1章:幼少期(砂場のブリッジ)
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第9話:太陽の芽

 ボルスとの再戦、そして弟たちとの決別から数日が過ぎた。


 村の大人たちの間では、魔力なしのカイトが「奇妙な力」を使い始めたという噂が広まり、子供たちの間では彼を「砂場の王者」と呼ぶ声も出始めていた。




 しかし、カイト自身はそんな小さな名声に満足してはいなかった。


 彼は村の外れ、人影のまばらな森の入り口で、一人「修行」に明け暮れていた。




(……ただ受けるだけじゃダメだ。ただ投げるだけでも足りない。プロレスの本質は、観客との『コール・アンド・レスポンス』にある)




 カイトは前世の記憶を反芻する。どれほど素晴らしい技を繰り出しても、観客がそれを見ていなければ、あるいは見ている者の心が動いていなければ、この世界では「魔力」に変換されない。カイトに必要なのは、観客の視線を誘導し、その感情を自在に操る『支配力』だった。




「――見てるんだろ。出てこいよ、みんな」




 カイトがそう声をかけると、木々の陰からぞろぞろと子供たちが姿を現した。


 彼らはもはやカイトをからかうためではなく、彼の「新しい見せ物」を心待ちにして集まってきている。カイトにとって、彼らは最初の熱心な「後援会ファン」であり、同時に魔力を供給してくれる「発電機」でもあった。




「カイト、今日は何をやるんだ? またあの投げ技か?」




「いや、今日はもっと大事な練習だ。……みんな、俺が動いたら、それに合わせて声を上げてくれ。いいか、『ここだ!』と思った瞬間にだ」




 カイトはそう言うと、森の巨木を相手に見立てて構えた。


 


 まず、カイトはわざとゆっくりと動いた。一歩踏み出し、腕を振り上げる。その動作の一つ一つに、溜めを作る。前世で一流のレスラーがやっていた間の取り方だ。




(観客の視線が俺の右拳に集中するのを待つ……。今だ!)




 カイトが拳を振り下ろす瞬間、あえて一瞬の静止を入れる。


 すると、見ていた子供たちが思わず「いけっ!」と声を上げた。




【システム:感情魔力変換】


【観客の“期待”を検知。右拳の質量が一時的に増大】




 ドゴォッ! と、巨木の幹が激しく揺れる。ただの六歳児のパンチではない。観客の期待が物理的な「重み」となって拳に乗ったのだ。




「す、げえ……。今の、なんか光って見えたぞ!」




「……これが『太陽』の芽だ」




 カイトは確信した。この世界において、プロレスラーの動きは「魔法の詠唱」と同じ意味を持つ。派手なポーズは魔法陣の構築。観客へのアピールはマナの集積。


 そして決め台詞は、発動のキーワード。




 カイトは子供たちを飽きさせないよう、さらに工夫を凝らした。


 わざと木に跳ね返されて地面に転がり、苦悶の表情を浮かべる。


 「ああ、カイトが危ない!」と子供たちがハラハラし、その「緊張」がカイトの防御力を高める。そこから、子供たちの応援の声に合わせてゆっくりと立ち上がり、最後は一気に爆発的な攻撃に転じる。




(これだ。観客とリズムを同期させる。俺の呼吸と、あいつらの鼓動を重ねるんだ)




 練習を繰り返すうちに、カイトの体から溢れる黄金のオーラは、より鮮明に、より密度を増していった。それは単なる魔力の漏出ではない。観客の想いを受け止め、増幅して返す「循環」の光だ。


 そんな中、カイトの脳内に新しいスキルの情報が浮かび上がる。




【固有スキル:『スポットライト・センス』習得】


【効果:観客の注目を浴びている部位のステータスが局所的に上昇する】




「……面白い。注目されること自体が、強化魔法になるってわけか」




 カイトは笑った。プロレスラーにとって、これほど頼もしいスキルはない。


 夕暮れ時、練習を終えた子供たちが満足げに帰路につく中、カイトは一人残って空を見上げた。自分の内に眠る「太陽」の力が、確実に芽吹いているのを感じる。


 だが、この小さな村という植木鉢では、もうこれ以上の成長は望めないだろう。




(村を出る準備は整ったな。……俺が本当に戦うべき場所は、ここじゃない)




 カイトは、前世で一度も立てなかった「メインイベント」のリングを思い描く。


 数万人の観客が、地鳴りのようなコールの嵐を巻き起こす場所。


 そこへ行くためには、もっと強大な力が必要だ。


 そして、自分を磨き上げるための「ライバル」も。




「……アルス、レオン。お前らも、準備はいいんだな」




 村の別々の場所で、同じように牙を研いでいるであろう弟たちの気配を感じる。


 理屈を極め、完璧な勝利を求めるアルス。闇に潜み、絶望を糧にするレオン。


 彼らとの再会は、おそらく血で血を洗う戦いになるだろう。


 だが、カイトはそれを恐れてはいなかった。むしろ、強烈な対立軸があるからこ


そ、プロレスというドラマは輝きを増すのだ。


 カイトは森を後にし、我が家へと向かった。家では、この数日間、カイトの行動を黙って見守っていた両親が待っていた。


 彼らにはまだ、自分の息子がどんな「怪物」に育とうとしているのか、本当の意味では伝わっていない。だが、明日になれば村を出る決意を語れば、すべてが変わる。




(さよなら、砂場。さよなら、俺の『練習用リング』)




 カイトの足取りは軽く、それでいて確固たる意志に満ちていた。


 翌朝、カイトは最小限の荷物だけを背負い、村の門に立った。


 驚く両親と、それ以上に驚き、しかしどこか誇らしげに見送りに来た子供たちの前で、カイトは宣言した。




「俺は、世界一のレスラーになる。……そして、誰も見たことがない最高の『熱』を、この世界に作ってみせる!」




 子供たちから、今日一番の、そして村で最後となる大きな歓声が上がった。




【カイトのレベルが上昇:6 → 8】


【新技のプロトタイプ『サンライズ・プロトタイプ』を獲得】




 カイトは一度も振り返ることなく、未知なる荒野へと歩み出した。


 背中を照らす朝日は、まるで彼の行く末を祝福するスポットライトのようだった。太陽の芽は、今、広大な世界という大地に向かって、その根を伸ばし始めたのである。

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