11話:三つの道
三つ子はそれぞれ別の師のもとへ預けられる。
主人公はドワーフの鍛冶師兼戦士、次男は王国の戦術師、三男は裏社会の闘士へ。
別れ際、三人は再会の時に「誰が最強か」を決めると誓う。
エンタールでの興行を終え、カイトが手にしたのは黄金と、数百人の信者だけではなかった。
彼が直面したのは、「自身の熱狂」がどれほど巨大になろうとも、単独の力には限界があるという非情な現実だ。この大陸には、カイトの「太陽」を上書きする理知的な敵もいれば、その影を食い尽くす邪悪な敵もいる。
三つ子の兄として、そして何よりプロレスラーとして。
このままでは、アルスの「理」にもレオンの「闇」にも、いずれ追い越される。
カイトは、かつて両親から授かったある「招待状」を握りしめていた。それは、この大陸の辺境に住まう、伝説の鍛冶師兼戦士――ドワーフの老兵「バルド」からの招待状だった。
三つ子の運命を分かつのは、今、この瞬間だ。
カイト、アルス、レオン。三人は、それぞれの資質を最大化してくれる「師」のもとへ向かうことになった。
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北の雪山。
カイトが辿り着いたのは、火山と氷が混在する極限の地だった。
巨大な岩山を削り出して作られた工房では、バルドという名のドワーフが、真っ赤に熱した鉄塊を大槌で叩いていた。その一撃のたびに、大気が震え、周囲の氷が溶け出す。
「お前が、噂の『太陽』を自称するカイトか」
バルドは汗にまみれた髭を揺らし、カイトを一瞥した。
彼の目には、カイトが持つ「観客を惹きつける魔力」など、微塵も映っていないようだった。
「俺が教えるのは、魔法の詠唱でも、華麗な舞いでもねえ。……『壊れぬ体』と『魅せる肉体』を作る方法だ。太陽だか何だか知らねえが、受け止める土台が貧弱なら、お前の熱なんて一瞬で消える」
バルドは巨大な鉄塊をカイトの前に放り投げた。
「まずは、これを一日中担いで歩け。倒れたら、その時点で追放だ」
その鉄塊は、六歳の子供が持ち運べる重量を遥かに超えていた。
だが、カイトは躊躇わなかった。
アルスに負けたくない。レオンに笑われたくない。
何より、最高のリングを作るために、自分自身が誰よりも頑丈な「リング」になる必要がある。
「……やってやるよ。バルド、あんたの弟子にしてくれ」
一方、王都の魔導機関。
次男・アルスは、王国最高位の軍事顧問の前に立っていた。
そこは、何万もの軍勢を瞬時に動かす戦術論と、極限まで最適化された格闘術が渦巻く場所だ。
「アルス君。君の『計算』の才能は、この国の軍を変える力がある。……戦いは、感情ではなく数式だ。相手の動きを関数化し、確率的に最も高い勝ち筋を選択する。それが君の道だ」
アルスは静かに眼鏡を上げ、無機質な軍事記録に目を通した。
彼にとって、カイトの「熱狂」は理解の範疇外だが、そこに「法則」があるならば解明できる。彼は、感情を排除した「最強の技術」を研ぎ澄ませるため、この地での過酷な学習を選んだ。
そして、三男・レオン。
彼が足を踏み入れたのは、大陸の表社会からは完全に抹消された、地下闘技場の最深部だ。
そこでは、敗者は食われ、勝者は闇に溶ける。法も倫理もない。勝てば何でも許される、汚泥の巣窟。
「ひゃはは、最高だよ。ここなら、誰にも邪魔されずに『壊せる』。兄貴の太陽も、アルスの理屈も、全部この闇で溶かしてやる!」
レオンは、毒を塗ったナイフを空中で弄んだ。
彼にとっての「最強」とは、相手がどれだけ理路整然と、あるいは情熱的に立ち向かってこようとも、それを叩き折って蹂躙することだ。
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別れ際。
三人は、国境の荒野で一度だけ顔を合わせた。
カイトはボロボロになりながらも、その眼光に熱い意志を宿している。
アルスは完璧な立ち居振る舞いで、冷徹な理性を漂わせている。
レオンは、その存在自体が周囲の空気を歪ませるほどの、邪悪な笑みを浮かべている。
「再会する時は、どちらが最強か決めよう」
アルスがそう言って、踵を返した。
レオンは背中越しに軽く手を振り、深い影の中へと消えた。
カイトは一人、雪山を見上げた。
かつての三つ子が、今や全く異なる「道」を歩み始める。
だが、どれほど離れていても、彼らの魂の根底にあるのは、あの荒野で交わした「三つ子の誓い」だ。
(……待ってろ。俺は、ドワーフのバルドの下で、世界で一番強くて、一番輝く『リング』になって帰ってきてやる)
カイトは鉄塊を担ぎ上げ、一歩を踏み出した。
それは、ただの修行ではない。
後に大陸全土を揺るがすことになる「伝説のプロレス団体」設立へ向けた、長い長い助走の始まりだった。
【システム:修行イベント開始】
【三つ子の成長フラグが並行して進行します】
雪山の冷気がカイトの肌を刺す。
だが、彼の心の中には、燃えるような「太陽」があった。
三つの道。
それらが再び交わる時、歴史が変わる。




