イベントリですか…ありがとうございます
ーパンパンパン
何となく気分で自身の着ている服をたたく。今更どうしようがこの服は汚いけども。
『レベルアップ』
ゆっくりと光の粒子になり消えてゆくゴブリンを横目で見ていると、ふいに脳内に声が聞こえ驚く。
「レベルアップした…今の私の戦闘力はレベル2よ!!」
ゴブリンから奪った棍棒3本を天に掲げ、私はそう叫ぶ。
もう、やけくそである。
まぁ、武器はありがたいのだけれど棍棒が3本あっても困るわけで…
「一本は手に持ったままで、ニ本は服のポケットに入れておこう。」
私の手首から肘ほどの長さの棍棒二本をパーカーのポケットに入れ、歩きながら考えてみる。
ここは異世界(仮)であり、モンスターが闊歩している洞窟の様な場所だ。モンスターが死亡した後に光の粒子となり消えていることを考えると、もしかしたらダンジョンの可能性もある。
しかし困った。
何が困るといえば、ここには飲み物も食べ物もないのだ。
今はまだ空腹感が無いにしろ、早急にこの問題を完結しなければ明日は来ない。
…二日だっけな?人が飲まず食わずで動けるのは?そうすると明日は来るか。
自身の明日のため、私は歩き始めたのだった。
◇
ひたすらトコトコと歩き、ゴブリンに出会い、倒し、棍棒を手に入れまた歩く。
歩いて歩いて歩いて歩いた数時間…やっとなんかでかい部屋に辿り着いた。
「で、でかい…絶対ボス部屋…」
ーゴクリ。
私は生唾を飲み込んだ。そして、喉乾いた。
ボス部屋の前で私は両腕に抱えた棍棒たちを置き、考える。
今の私は多分張り手でゴブリンを倒せるまでには強くなってると思う。
今の私のレベルは10だ。
生き残る為にはレベル上げ…生き残るには周回必須!と呟きながらゴブリンをタコ殴りにしていた私を誰かが見ていたとすれば、般若の様な顔をした女が居たと口を揃えていうだろう。
それ程に必死だったわけである。
あと、一つ気になることは、レベルアップが早い様な気がしたぐらいか?
三匹倒してレベルニだったけど、それ以降どんな経験値になってたんだ?謎だ。
そして道中気づいた事がまだある。
ゴブリンを倒すたびに汚れてゆく自身に発狂しかけたとき、お風呂!お風呂入りたい!と叫んだら身体が綺麗になったのだ。ありがとう…魔法。
ついでに洗濯と願えば服も綺麗になった。
この二つがある事で私の精神は守られたと言っても過言じゃないだろう。
あ、あと、棍棒以外ドロップせんのか?って事も気になる所。
やはりゲームとは違うのだろうか?持ってないものはドロップしないのか?
色々な事がわからない今、地道にやっていくしか生き残る道はない。
千里の道も一歩からだな!
あぁ、違う違う。今考えるべきはこのボスのことだった。
どんどん思考がズレていってしまった自分に苦笑する。悪い癖だ。
さて、どんなゲームでもボスというものは強い。
死んだら生き返るのかわからない今、無闇矢鱈にボス部屋へと突っ込んでいくのは得策では無いと思う。
けれど、この洞窟をかなり探索したがこの部屋の扉以外に道は繋がっていなかった。
この場所には水も肉もない。
…流石に瀕死のゴブリンの肉を削いで調達チャレンジはまだしたくない。ほんとに嫌である。
しかも、もしチャレンジして頑張った結果、普通に消えていったら辛すぎる。
想像するだけで涙が止まらない。
あ、そういえばこの棍棒…もしかしたらもしかするかも?
ふと私はゲーム内でモンスターを倒した際に落とすドロップ品を収納していたイベントリのことを思い出す。
「イベントリ?」
すると目の前に積まれていた棍棒が消え、突然開かれたウィンドウ。
そこに書いてある文字を見ると、棍棒×35と表記されていた。
「おぉ、もっと早くに気づいとけばよかった」
棍棒一本一本は軽いものでも、量が増えれば重くなる。
しかも持ちにくかった。イベントリ…助かる。
ゴブリン見つけるたびに棍棒置いて、戦って、持って、歩いてはなかなかに辛かった。
でも、貧乏性だからか捨てていくことなんて出来なかったのだ。
チリも積もればなんとやら、ゴミ屋敷のはじまりだな。
魔法使いとはなんと便利な職業なんだろうか?
私はこの力で何でもできるのではなかろうか?
…まぁこんな力があったとしてもさ、思いつかなきゃ意味ないけどね。
思考を常識から外していかないと、多分生きていけない気がする。
よし、今日から私は常識はずれの異世界人になる!!
そんな決意を決めた今の私は棍棒一本を装備した完全なる初心者である。
まごう事なきゲームの序盤に与えられる最初の村人装備だ。
つまりは、このボスももしかしたらチュートリアルみたいなものかもしれない。
ボスを倒してからが本番で、村?とか街?とかに行けるのかもしれない!
よし、よし、よーし!
その可能性が出て来た今、喉の渇きと空腹で疲労したこの体に癒しを与える為、より良い異世界ライフを楽しむ為、私は立ち上がるのだ!
「よし…背に腹はかえられぬ!!ってことで、よろしくお願いしまぁあーす!」
そして、これはチュートリアルだと仮定した私は、そんな事を叫びながらボス部屋の扉を開けるのだった。




