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異邦の旅人  作者: きりしま@処刑人と行く異世界冒険譚
第一章 フィオガルデ王国

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14/20

12:それぞれの役割

いつもご覧いただきありがとうございます。


 奥の会議室に集まったのはアルを入れて六人、アル、ギルマス、ゼイアド、その他三人のリーダーたちがいた。ゼイアドの隊は十九人だったので、アルが入ってちょうど二十名。二十名のクランが四つ、八十名の大所帯な討伐隊ということだ。

 ギルマスは全員を見渡した後、簡単にアルのことを紹介し、同席させると言った後、作戦と状況について説明をした。話の理解度は三割程度。セティエラの街の周辺を描いた地図を指差しながらの説明だったのでどうにかついていけた。どうやらゴブリンの巣なるものは、街の南の街道をそれた場所にあるらしい。少し森が深くなったあたり、小さな村があった場所。


「偵察に行ったギルドラー曰く、村はもう潰れているらしい。占拠され、そこに居た者たちは喰うなり孕まされたり、全滅だろうと」


 偵察、村、人々、喰う、という単語と全員の雰囲気から、アルはそこに助けられる人がいないことは理解した。セティエラの街からは徒歩で四日らしい。アルは指をコンパスのように置いて距離を測った。地図の縮図が正しければ、自分なら一日の距離だな、と腕を組む。その動作に怪訝そうに見られ、なんでもありません、と返した。


「ゴブリンは夜行性、これ以上活動範囲を広げられても困る。明朝出立して、中間地点での野営、翌日、殲滅戦を行う」


 指がセティエラの街からゴブリンの巣とされるところの中間でトントンと叩かれ、そこからまた動く。野営、という単語はわかったのでそこで体を休め、次の日に攻める、と理解した。間違えていたら臨機応変にやればいい。そろりとリーダーの内の一人が挙手をした。


「ギルマス、パニッシャー・ラングは?」

「あいつは参加しないらしい。その代わりのこいつだ」


 ざっと視線を受けてアルは苦笑した。ラングが辞退した意味がわかる。こんな状態でちらちらとラングの一挙手一投足を追いかけていれば、よそ見が過ぎて死ぬだろう。この世界のゴブリンと戦った経験はまだないが、徒党を組むというからには相手に連携があると考えたほうがいい。戦いは気を抜いていれば誰だって死ぬ。


「ギルドラーカードを見せてやれ」


 ん、とアルはそれを差し出した。皆が覗き込み、そこにある【異邦の旅人】というパーティ名と、Cという刻印に眉を顰めていた。


「C? パニッシャー・ラングといるのに?」

「大方、今回の討伐隊でランクを上げさせたいんだろう」


 会議室の中は大枠の作戦の連携が終わり、少し雑談めいてきた。話題の中心がラングとアルであることはわかるものの、言葉が不自由なのはこういう時に眠くなるからいけない。ここまで走り続けてきたので、明日、移動をするならさっさと休みたくもあった。大きな欠伸が零れてしまい、それはそれで視線を浴びた。


「ごめん。俺たち、メッティアから走りました。休み、必要です」

「走った? いつメッティアを出たんだ」

「ええと、一日、と、半分、前」


 指を一本、逆の手で親指と人差し指を広げ、なんとなくイメージを伝えるようにすれば、ゼイアドがぎょっとした顔をしていた。


「一日半と言いたいのか? メッティアまでは急いだって三日、四日……」


 じっと真実かどうかを確かめようと眺められ、また欠伸が零れた。涙まで出てしまった。


「宿、おすすめある? ラング、勝手に見つける、俺を。いつも」

「討伐隊参加者に冒険者組合(ギルド)が宿を斡旋している。ゼイアド、他のメンバーに紹介ついで、こいつを案内してもらえるか」

「わかった。行くぞ、ついてこい」

「ありがとう」


 会議室を出て、アルはゼイアドの案内で宿へ向かった。

 いくつかの宿にそれぞれのクランごと固まって泊まっているらしく、宿はぎゅうぎゅうだった。通常宿屋には部屋が五つもあればいい方で、それぞれが二人部屋から、二段ベッドを用意した四人部屋であったりと狭い。立って入る狭いシャワー室らしきものが心ばかりの配慮で部屋にあればまだましだ。アル自身も冒険者であればこそ、他人の体臭に文句を大っぴらに言うことはないが、宿に入った瞬間、つんとしたものを感じると頬を掻いてしまう。それを考えると、ある程度ラングはアルに配慮して宿を選んでくれていたらしい。それに、ラングは呪い品(ロストアイテム)の効果もあって体臭自体が感じられず、臭くない。


『ははぁ、なるほど。ヴェレヌの宿に似てる。あそこはラングにとって懐かしかったのか』


 前に旅した場所で、周囲をゆっくりと見渡し、リラックスした姿を見せていたことを思い出した。こちらでは常に緊張感を持っているが、向こうでは懐かしさにも多少気を緩めることができていたか。本人に尋ねたところで肩を竦められるか無視をされるかなので言いはしない。考えていればゼイアドに、おい、と声を掛けられた。宿に宿泊しているメンバーと、別の宿に居た者たちがぞろぞろと集まってきていた。


「【異邦の旅人】のアルだ。うちのクランに空きがあったから参戦することになった。パニッシャー・ラングの相棒(バディ)だそうだ」


 聞いたことのある音が何度か聞こえ、アルはおおよそを理解して軽く手を上げて応えた。あれこれと言い合っていたが興味がなく、眠さもあって再び大欠伸をして終わらせてしまった。明日についても何か言って、皆が解散してからゼイアドとその仲間が振り返る。


「パニッシャー・ラングがお前を追ってここに来るかはわからないが、一応、二人部屋だ。それでいいか?」

「助かる、ありがとう。次、合流、……時間、どこ?」

「あぁ、そうだな、ええと、明日の朝、日が上る頃、この宿の正面で。まぁいい、来ていなかったら迎えに来る」


 ゼイアドは説明を諦めて宿を出ていった。彼らは別の宿らしい。一先ず、寝よう。アルは宛がわれた部屋へ行き、鍵を掛けた。ラングならどうせ開けられる。装備を外し、槍をベッド脇に立て掛け、布団に倒れる。少しだけにおいが気になったが眠ればそのうち慣れてくる。アルは腕を枕に目を瞑った。


 誰かの気配がした。敢えてここに居るぞと知らせるようなものに、もぞりと寝返りを打った。ぐぅっと体を伸ばして目を開けば、ランタンの明かりの傍にマントを外した状態のラングが居た。木窓の隙間から明かりはない。ということは、深夜帯だ。体を起こして欠伸をし、酸素を求めてから相棒へ声を掛けた。


『おかえり、どこに行ってた?』

『ただいま、情報ギルドに状況の確認をな』


 この街にも支部があり、この街の周辺のことであれば情報がある。そのギルドの存在を隠すためにはアルを伴うよりソロの方が都合がよかったのだろう。アルは水を強請りながら進捗を尋ねた。


『で、どうだった? 多分、討伐隊は明日の朝一でここを出て、野営して、その翌日が本番だと思う』

『逃げ延びた村人がいた。情報ギルドで既に保護されている。だが、憔悴が酷く、冒険者組合(ギルド)には隠す』


 なんで? とアルは生き証人の引き渡しをしないラングに首を傾げた。冒険者組合(ギルド)で被害者の保護も行われるだろうし、公に生存者がいることは喜ばれることだ。ラングはアルに水筒を投げてから腕を組み、ぎしりと椅子に寄り掛かった。


『メッティアに行く際、私がこの街を避けたのには理由がある』


 南から北上し、情報収集を行いながらの旅路で、確かにラングはこの街のルートを避けていた。王都と、やや西側のこちらのルートを避け、大きく東寄りに移動していたのだ。時間が掛かったのはそのせいでもある。


『ギルドマスターのパルゴは、権力欲の強い男だ。それを強めるためならば、人を人とも扱わない』

『生き残りに対して、状況の聞き込みだけじゃなく、実際に道案内させたり、現場に連れて行く可能性が高いんだな』

『そうだ。まだ七つの少年と六つの少女には酷だろう』


 年齢を聞き、そうだな、とアルはベッドの上で胡坐をかいた。水筒の蓋を開けて飲めばこれもまた不思議な泉の水で、体に沁みていく。

 ラングは冷酷無比と思われがちだが、そうした丁寧な配慮を見せることがある。皆が皆その強さにばかり目を引かれるが、ラングという男を知れば知るほど、惚れこむのはそうした部分だ。きっと、あの世界で最初にそれを見出した弟、ツカサは本当に眼がよかったのだろう。


『何をにやけている』


 目を細めてしまっていたらしい。真面目な会話の最中に微笑んだアルへラングが訝しむようにシールドを揺らした。アルは誤魔化すように水筒を投げて返した。


『なんでもない、ちょっと、こっちの話。それで、まぁ、冒険者組合(ギルド)に知らせない理由はわかった。ラングがこの街を避けてた理由もな』


 ギルマスがラングをパーティメンバーに、相棒(バディ)にと言っていたのも、箔が付き、格が上がるからか。もっと違う方法で自己顕示欲を満たせばいいものを、と言ったところでどうしようもない。パッと見、悪い奴ではなさそうだったが、今はギルマス、つまり年齢的にはかつてラングと同時期にギルドラーをしていたはずだ。いろいろあったのだろう。うん、と一つ頷き顔を上げたところで、じぃっとラングが話の続きを待っていてくれたことに気づいた。こういうところは律儀だ。続けて、と手で促した。


『ゴブリンの巣は本来なら洞窟や地面に掘った穴など、日の当たらない場所に作られることが多い。奴らはその暗がりが、人にとって不利だと知っている』


 そこに罠を仕掛ける十歳の子供程度の知恵はあるのだそうだ。本来なら、という言い方が引っ掛かり本題を尋ねれば、村が乗っ取られ日の当たる場所で拠点を作り上げているらしい。


『陽の光が駄目なわけでもないなら、効率とか利点を考えても村に生息するのはおかしくないと思う。ラングは何を危惧してるんだ?』

『ゴブリンだけではないかもしれん』


 アルは布団を剥いで立ち上がり、ラングと共にテーブルについた。ラングはランタンの明かりを強め、暗闇を払うようにしてから話した。


『ゴブリンを統率する、王がいる。突然生まれる、強い個体だ。お前の故郷のダンジョンでいう、偶発的産物の魔物というやつだ』

『そいつがいると、ゴブリンも村を作るのか』

『そうだ。加えて、全体の知能が上がる。罠を効率的に仕掛け、確実に仕留めるものに変わる』


 厄介だな、と言いながら腕を組めば、そうだ、とラングから肯定が返ってきた。アルはううむ、と唸った。


『俺がそれを説明するのには言葉が不自由過ぎる。何を企んでる?』

『人聞きの悪い。いったい私を何だと思っている』

『弟と別れて性格の悪さを隠さなくなった相棒』


 ッチ、と舌打ちがランタンの影で零れた。そういうところだぞ、と揶揄えば相手にもされなかった。そういう男だ。

 ラングは地図を取り出してしゅるりとテーブルに広げた。冒険者組合(ギルド)で見たものよりも細かい。ラングの抱える情報ギルドの方が、周辺のことを把握している証拠だ。縮図もこちらの方が正しいだろう。整えられた爪、剣士の指が地図に置かれた。


『南の街道を逸れた森の中、旅人やギルドラーの中継地点でもない、小さな村だ。依頼をセティエラの街へ出すようなところだな』

『ギルドラーの滞在や傭兵もいない、本当にただの村だったのか。この世界じゃあっという間に潰されて当然じゃないのか。逆に今までよく無事だったな』

『腕利きの守り手が居たそうだ。だが、統率されたゴブリンを前にすれば、少数の戦力など数の前では役にも立たん』


 俺の目の前に一人の戦力で数を前にしても叩き伏せる男が居ることは黙っておこう、とアルは話の腰を折らなかった。兎角、そうした功労者が居たからこそ今までもっていたのは理解した。さて、ラングは何を言いたいのだろう。小さなヒントを散りばめながら、ラングはアルが辿り着くことを期待している。常に考えろ、と口にするラングは、容赦なくそうした思考を要求してくる。ふと、顔を上げた。


『守り手って何人居たんだ?』

『五人。生き残りを護衛しながらセティエラの街に辿り着き、事態を伝えたのはその内の二人。三人は死んだ、と子供は言った』

『守り手、今どこに』

冒険者組合(ギルド)だ』


 んー、とアルは天井を仰いだ。情報ギルド(ラングの手勢)に保護された少年少女と、冒険者組合(ギルド)に保護された守り手。場所が違うのは気になった。保護する、しないを分けたのは証言力だろうか。子供の証言は曖昧で抽象的になる。大人の方が事細かに説明する言葉を持つ。ラングが嫌う理由がわかってきた。


『守り手が子供を逃がした、そうするだけの理由がセティエラの街、というよりは、あのギルマスにあるんだな?』

『近隣の村にギルドラーなり、傭兵なりを置くのもまた、冒険者組合(ギルド)の仕事だ。少なくとも傭兵団と村を繋いでいれば、こうはならなかった』


 冒険者組合(ギルド)のやることは幅広いということだ。そうした職務怠慢は、生き残りが居て証言されればギルマスの不利になる。権力欲の強い男だというので、それは嬉しくない事態になるだろう。だから冒険者組合(ギルド)に捕らえた。守り手はその前に子供を逃がした。アルからしてみればいろいろとあり得ない話だ。守り手だって地の利を生かせる戦力になるだろうに、勿体ないことをする。

 明日出立の休憩後、殲滅。パニッシャーの合流があったとしてもかなり急な作戦に思えた。まさしく、パニッシャーをここから引き離すための作戦か。一度アルから離れたラングは、おかしなところがなければ明日の出発に合流するつもりだったのだろう。だが、今は別行動を取る気でいるのだ。


『ラングは守り手の奪取をするのか?』

『情報ギルドに任せる。私は少し、パルゴと()()だけだ』


 お抱えの情報ギルド、こうして聞いていると暗部だな、とアルは肩を竦めた。事実そうなのだろう。


『アル、お前はゴブリンの討伐だけを考えればいい。だが忘れるな、統率する者のいるゴブリンの群れは、厄介だ。ある意味で軍人と変わらん』

『了解だ、リーダー。でもそっちが終わったら駆けつけてくれよ?』


 俺たちは相棒(バディ)なんだから、とアルは笑った。

 



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