堺から琉球へ
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1549年 9月
秀高達を乗せた旗艦、堺を始めとする堺海軍の艦隊、別名『ハネムーン艦隊』(小梅命名)は紀伊水道を抜けた後、四国の土佐、九州の薩摩にて補給を行い次の目的地、琉球へと舵を取る。
「さて、これで日ノ本ともしばらくおさらばだな。……小梅、大丈夫かい」
『はい。故郷より遠く離れるのは正直、寂しいです。でも、貴方と一緒なら大丈夫です』
「そうか。しかし今日は多少うねりはあるが、穏やかな海だな」
『そうですね、この季節だと前世では台風シーズンですから』
「ここまで慎重に航行してきたが、台風や高波に襲われないのは小梅のおかげかな」
『何ですか、それ』
「君はこの艦隊を守る女神様ってことだよ」
『またそうやってからかってますね。秀高様だって天照大御神の加護でも持ってんじゃないですか?』
「流石にそれは無いな。それこそ畏れ多い」
『そうですね。でもこんなに天気もいいと甲板を動き回りたくなりますね。ほら、あの子たちの様に』
「そうだな。しかも、やんちゃな義弟達が出来てしまったな」
『えぇ。そうですね』
旗艦堺の船体中央にそびえる三重櫓の廻縁から甲板を見下ろす2人。その視線の先には2人の少年がおり、走り回ったり、竹刀でチャンバラをしたりしていた。
片方は又六郎、もう片方は弥三郎という少年である。
一通り、甲板で遊び回った2人は秀高の姿を見ると櫓の階段を駆け上り、秀高達を見つけるやいなや子犬のように駆け寄るのである。
『義兄様、義姉様。弥三郎との修練、見てくださいましたか?』
『そ、某の姿も見てくださいましたか?』
「見ていたぞ。だが、まだまだだな。もっと強くなるためには日々の修練と勉学を怠ってはいけないぞ」
『『はい。義兄様』』
元気よく返事する2人は櫓を降りて"次は勉学だ"と共部屋に戻って行った。
「まさか、いずれ長宗我部元親と島津歳久になる2人を育てることになるとはな」
『それも、貴方様の人徳によるものですわ』
堺を発ち土佐で補給した際、土佐と伊予の大名、長宗我部国親と会談し、弥三郎(元親)と初対面した。その際、なぜか父国親ではなく秀高に懐き、秀高の側を離れず秀高の所作を傍らで学んでいた。
その姿を見た父である国親は自室に籠り考えを巡らせる。今後の長宗我部家のために何が必要なのか、弥三郎は国主としてやっていけるのか等々、三日間考えた。そして四日後、自室より涙を堪えながら出てきた国親は秀高に、『倅に外の世を見せてやってください』と言って預けてきた。弥三郎もこの時秀高や堺の商人達との交流により、外の世界に興味を持ち国親からそれを聞き、『外の世を見て学んでまいります』と宣言するほどであった。そうなってしまえば秀高にも断ることはできず、預かる形で同行する事となった。
そして島津家が治める薩摩で補給をした際にも一悶着があった。
虎寿丸(義久)、又四郎(義弘)が秀高と仕合を申し込んで来たのである。これには島津貴久を含む島津家の御歴々の寿命を縮ませたであろう。
朝廷、将軍家(幕府)、三好家に対して絶大な影響力を与え、全国の各大名領内の市場を掌握し、経済という手綱を握る堺の主。加えて鉄砲の量産と改造を成した男。そんな文武共に優れた才を持つ張本人が軽く「いいよ⤴!」と引き受ける始末。どちらが勝っても負けても家中の数人は胃痛等により病床送りになるだろう。
実際、この仕合の話を聞いた島津家当主貴久はその場で座ったまま気絶。日新斎や他の家臣たちも胃痛により、1週間の療養を余儀なくされたとか。
そして仕合が開催される。
武芸十八般に通じる秀高は次々と仕合をこなす。そして全てにおいて虎寿丸と又四郎に完勝した。2人は仕合終了後、糸が切れた人形の如く意識を失った。完全に疲労によるものである。
翌朝起きた際に完敗したことを思い出し意気消沈していたが暫くすると『『修行だ〜』』と言って家臣達とこれまで以上に文武に励むようになった。そんな2人の兄を見ていた弟、又六郎(歳久)は兄達とは別で、秀高と弥三郎の2人と共に過ごすようになった。
そして秀高達の出港の日取りが近づいてくると又六郎は秀高達と『外へ勉強をしてくる』と父貴久を始め家臣団に根回しを始めた。最初は貴久達は反対していたが、又六郎は1人、また1人と家臣達だけでなく祖父である日新斎まで取り込んだ。そして再度、支持者達と共に貴久に直談判を行い、根負けした貴久は了承することとなる。
こうして、元親と歳久という義弟が出来た秀高達は薩摩を出航。
次の目的地、琉球へと向かうのであった。
そして種子島と奄美大島の沖合で休憩をしつつ、旗艦堺の評定室には秀高をはじめ幹部達が集まった。
「さて、次の目的地の琉球の状況はどうなっていたかな」
秀高からの問いに、官僚たちは資料に目を通した。
『はっ。まず商いに関してですが、市場の3割近くを我ら堺屋が掌握しており、少しずつですが王国内に堺屋が浸透している模様』
「そうか。市場の方は順調か、次は」
『はっ。軍事関係ですが、王国の軍備は正直に申しますと鉄砲普及直後の日の本と言えばわかりやすいかと。多くはないですが鉄砲と焙烙玉を備える部隊も存在するとか』
「なるほどな。まぁ、戦をするために来たわけでは無いのであまり相手を刺激しないようにせねばならんな」
『しかし、この艦隊を見ると相手は侵略と捉えるのでは?』
『そこは問題ない。予めこの艦隊が琉球に来ることは王国に伝えてある。むしろ王国からは王城へ招待するとまで言われているほどとか』
「そこまで通っているなら堂々と港に入ろう。その方が王国側も安心するだろう」
『ふふ、貴方様はほんとに派手好きですね。皆さんもそれで宜しくて?』
『『問題ありません』』
方針が決まった評定室を出た艦隊首脳部は各々の船に戻ってゆく。
そして薩摩を出航して15日程経過した艦隊は無事に王国主要港である那覇港に姿を表した。
那覇の港では停泊中、稼働している全ての漁船に色とりどりの旗が掲げられている。琉球の民達も艦隊を一目見ようと集まっており、まるで祭りの様な賑わいであった。
そして予め通達していた礼砲を4発発射する。
バーン バーン バーン バーン
『礼砲やめ〜。帆を畳め〜』
バタバタバタバタ
艦長の号令で帆が纏められ少しずつ速度を落とした艦隊は無事、港の係留場所に留められた。
見物に来ていた琉球の大人達は『これが倭の船か』と子供達は桟橋近くで『大きいな』と口々に声を出す。
これは、王国の官僚達も同様で自軍の軍船と比べ圧倒的に劣っている事を察するのであった。
堺の舷側に昇降階段が設置されると係留した桟橋から陸地までの道を乗船していた近衛兵団と陸戦隊が左右に別れ隊列を組む。
隊列が組まれた事を確認した艦長が秀高と小梅に上陸準備完了の報告をする。
『総統、奥方様。準備が整いました。私が先導しますので後にお越し下さい』
「うむ、承知した。行こうか小梅」
『はい』
秀高と小梅は互に手を添えて先導する艦長に続き階段を降り始める。
秀高と小梅を見た王国の民達は声を挙げ二人を歓迎する。
二人は歓迎の声に手を挙げて応えながら隊列の中を進んでゆく。
そして、桟橋を渡り終え二人は琉球王国の地にその足を踏み入れたのだった。
琉球の地に上陸した秀高と小梅を待っていたのは、王国に進出している堺屋琉球支店の上席達と琉球王国の関係者達である。
『総統、奥方様。日ノ本からの船旅お疲れ様でした。私は堺屋琉球支店の長を纏めております呈と申します。こちらはこの度の王国訪問をつなげていただきました、琉球王国外交官吏の毛様です』
『鷹司参議様。毛と申します。無事のご到着お慶び申し上げます』
「これはこれは、毛様。わざわざの出迎え感謝致します。王国との橋渡し役。誠に感謝いたします」
『いえいえ、堺と王国の繫栄と発展のためなら当然です。私はこれより首里城へ参議様一行の到着を知らせてまいります。登城の日程が決まるまでごゆっくりお過ごしくださいませ。では』
「宜しくお願い致します」
毛は秀高達が到着したことを城へ報告に向かった。見送った秀高は呈に振り返る。
「さて、先ずは最近の市場の動向と支店の様子を聞かせてもらおうか」
『はい。その件も含め支店にてご報告したく。まずはご案内致します。どうぞこちらへ』
秀高達は支店長達と共に堺屋琉球支店へ向かう。支店に向かう道中では、堺屋と取引している明国や南蛮の商人達、荷積みをしている者達が店と船を往復している。この光景を見ていた秀高は「やはり現場を見た方が状況がわかるな」とつぶやいていた。
しかしその背後では不穏な動きがある事を感じた秀高はこっそりと配下の忍に指示を出し、支店へと足を進めていくのである。
琉球某所
『あれが倭の有力者か、中々若かったが』
『倭国内の堺屋を束ねる大元があの若い男だとは思わなんだが、何が他に情報はないのか?』
『確か、倭の高位貴族であり、倭を掌握する商人であり、大領地を治める太守であると報告がありましたな』
『うむ、それ程の御人がこの琉球にとは。もう暫く様子を見よう。それに、王より城への招待もあるゆへ、彼の者の観察を怠るでないぞ』
『『はっ』』
堺屋琉球王国支店
「うむ、外装と内装もしっかりしているな。町並みにもよく溶け込んでいる。一先ずは合格だな」
『ありがとうございます』
「大嵐対策はできているか?」
『はい、備蓄倉庫を始めとして対策を整えております』
『何かと支障が多いと思いますが頑張って下さい』
『奥方様。ありがとうございます。店の者達も喜びます』
『従業員は足りていますか』
『はい。奥方様。今のところ従業員の数に不足はありません』
「取引状況はどうなっているかな」
『王国との繋がりが増えてきた事で徐々ではありますが増えてきております。今は農作物と農具の取引が多いです。また近頃は明国からの商人との取引が増えております。塩、米、麦、干物に加え、近頃は武器などが売れています。もしかすると明国は戦支度をしているかもしれませぬ』
「うむ、北方の民族が衝突していると報告が来ていた。もしかすると北部の軍備増強のためかもしれないな。大陸の情勢が分かり次第報告を頼む」
『仰せのままに』
「さて、恐らく近日中に王国から使者が来るはずだ。それまで、しっかりと準備を行うように」
『『『承知致しました』』』
翌日、報告に赴いていた毛が王国使者と共に堺屋琉球支店に来訪した。
『倭の国の鷹司参議様。この度、王命を奉じ参りました。琉球国王・尚清陛下は、参議様ならびに少納言様の御来訪を深く歓迎されております。陛下は王城にて御謁見を望まれております。つきましては、本日より三日後、お迎えに上がりたく存じますが、ご都合はいかがでしょうか。』
「王命によるご足労、誠に感謝申し上げます。国王陛下には、この度の御厚情に深く御礼申し上げます。我らも陛下にお目にかかれることを、心より楽しみにしておりました。三日後、謹んで登城させていただきます。ご案内のほど、よろしくお願い申し上げます」
『即応の御返事、感謝致します。また陛下より、参議様と少納言様へ歓迎の品をお預かりしております』
使者が従者を呼び、秀高と小梅の前に品を並べる。
贈り物は、珊瑚を使った装飾品や王国の地酒である泡盛、琉球織物の反物等であった。
「これは見事なお品を賜り、誠にありがとうございます。登城の折には、我らからも国王陛下へ献上の品をご用意しております。どうぞお楽しみくださいと、お伝えいただけますでしょうか」
『承知いたしました。それでは三日後、お迎えに参ります』
使者一行は深々と一礼すると、静かに支店を後にした。
その姿を見送った秀高は、小梅へ静かに語りかける。
「いよいよだな」
『ええ。琉球王国との初めての外交ですね』
「失敗は仕方ない。だが、両国の未来を損なうような失態だけは避けないとな」
『でも、貴方ならきっと成功しますよ。大丈夫です』
こうして三日後、秀高は琉球国王・尚清との正式な謁見に臨むこととなる。
日ノ本と琉球王国。両国の未来を紡ぐ歴史的な会談が、いよいよ幕を開けようとしていた。
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