【興行】そして天使は舞い降りる
11月30日 幸福園ホール大会
照明の落ちた会場に、シャングリラの団体テーマソング「Breeze from Shangri-La」が流れる。いつもと変わらぬ、開会の合図。そしてこの日は。
リングに立つリングアナウンサー、井岡のコールがはじまった。
「青コーナーより、セラフィム・ケイ選手の入場です!」
暗い場内にライトから幾条もの光の筋が煌いた。そして明るい曲調の音楽が流れ始める。スポットライトが、入場口を照らす。入場口付近に陣取っていた一団から、「ケイちゃ~ん!」というコールが巻き起こった。そして、新たな戦士が入場する――。
小柄な体を包む、乳白色のフリフリとしたガウン。そして目を引く、背中に背負った三対六枚からなる天使の翼。入団後、デビューが最後まで残っていた練習生天野ケイ……否、アイドルレスラー、セラフィム・ケイの入場である。
パァン! と、設置されていた大型のクラッカーが鳴らされ、リボンと紙吹雪が宙を舞う。それを合図に、ケイの明るい歌声が会場に鳴り響く。ケイの装着したヘッドマイクを通して伝わるその歌は、ケイのデビュー曲「恋する!StardustAngel」。既にお披露目のステージが一週間前に池袋の大型ビルイベントステージで行われており、入場口にいた一団からは「ハイ!ハイ!」と合いの手が入っていた。
リングへは、背中の翼のためロープの間からの入場ができない。そこでケイは青コーナーに上ると、そこから手を振りつつ軽くジャンプしてのリングインとなった。新人とは思えない演出に、大きな拍手と歓声が巻き起こる。
「赤コーナー、七瀬雅選手の入場です」
こちらは入場曲はまだのため、若手用汎用テーマでの入場。それでも、ケイに対抗してかこちらもロープの間はくぐらず、ロープを駆け上ってバク宙半ひねりという抜群の空中バランスによる飛翔を見せてリングイン。
「青コーナー、151センチ52キロ、セラフィム~、ケ~イ~!なお、セラフィム・ケイ選手はこの試合がデビュー戦となります」
パチパチパチ、という小さめの拍手と、「ケイちゃ~ん!」という大きな声援が飛んだ。
「赤コーナー、159センチ57キロ、七瀬~、みや~び~!」
こちらはケイよりはやや大きめの拍手。ホールでは大分顔なじみになってきた雅である。
カーン
高らかにゴングが鳴る。と、同時に駆け出した二人はドロップキックをぶつけ合う。高さは雅が勝り、姿勢ではケイが綺麗なフォームを見せる。ここは相打ちだ。もう一度と今度はロープの反動をつけて走りこむケイに、雅は間合いを詰めてアームドラッグ。しかしケイは空中で体勢を立て直して着地すると、雅に反撃のドロップキックを放つ。さらに雅が立ち上がったところにドロップキックと、新人らしいドロップキックでの組み立てをみせていくケイ。
しかし、場外に落ちた雅に対し、ケイはロープの反動を使って助走をすると前方へジャンプ、トップロープとセカンドロープの間をすり抜けてからのトペ・コンヒーロという大技を放ち追撃! これには会場からおおきなどよめきがおこる。
リングに戻った雅は、「このっ!」と声を上げながらケイの胸元へ袈裟斬りの手刀を連続で放つ。最初は耐えようとしていたケイだが、4発目で根を上げてロープにもたれかかってしまう。雅はケイを前蹴りで場外に叩き落すと、そのままトップロープをつかんで倒立。さらに頂点で横ひねりを加えるトルニージョという、こちらも大技でさきほどのお返し。身軽な二人によるスピーディな戦いの始まりであった。
しかし蹴り、手刀と打撃の武器がある雅に対し、ドロップキックやヘッドシザース、アームホイップといった基本技がほとんどのケイは徐々に劣勢になってしまう。起死回生を狙って丸め込むが、カウント2。あきらめず丸め込みを多用するようになるケイ。しかしケイの丸め込みを、雅が逆に丸め込みで切り返し、3カウント。
『どうだ見たか! これが私の順逆自在の術だ! ケイ! ちょっとアイドルレスラーでデビューしてちやほやされたからってなあ、勝ちまで譲ってもらえると思うなよ!』
珍しくマイクを握ってアピールする雅に、ケイも負けてはいない。
『はあ、はあ、だったら、もう一回勝負だよ! 次は勝つんだから!』
『おう、いつでもかかってきやがれ。返り討ちだ!』
第1試合 シングルマッチ20分1本勝負
○七瀬雅 (9分37秒、順逆自在の術) セラフィム・ケイ×
第5試合 シャングリラ無差別級タッグ王座争奪トーナメントA 30分1本勝負
ミシェル・インフェルノ&レーナ・グリフィス vs レイナ・シエロ&MACHIKO
175センチ95キロの巨漢レスラーレーナ・グリフィスを先導として、豪奢な薄い赤を基調としたガウンに身を包み、1本のバラの花を咥えるというキザな出で立ちのミシェル・インフェルノ。先に入場していたシエロ&MACHIKOを見下すようにゆっくりとリングイン。正面衝突では勝ち目がないと、リングコールが終わらぬ間にシエロとMACHIKOが不意を撃ち、いきなりの場外乱闘へ持ち込む。ここにビューティ・コネクションのセコンドについていた他メンバーが加わって混乱状態。主導権をビューティ・コネクションが握る。
それでもリング上に戻れば徐々に形勢はミシェル組へ傾く。MACHIKOの苦し紛れに近い毒霧は、食らったレーナをかえって激怒させてしまいその太い腕で連続ラリアット。一度は逆さ押さえ込みで切り返したMACHIKOだったが、最後はレーナのジャンピングパワーボム「イリュージョン・ボム」で3カウント。
○レーナ・グリフィス (14分26秒、イリュージョン・ボム) MACHIKO×
第6試合 シャングリラ無差別級タッグ王座争奪トーナメントB 30分1本勝負
松井香織&芹沢すずな vs 豊嶋奈美&前田麗子
いよいよ本領発揮の時が来たと意気揚々リングに上がる松井と芹沢のタッグチーム「ダブルドラゴン」。対するは抜群の成長度でトップ戦線に食い込もうとする豊嶋・前田の同期タッグ「ファニーウィングス」。前評判ではダブルドラゴンの圧勝もありうると言われていたマッチングであるが、ファニーウィングスが予想以上の健闘を見せる。
とにかく早いタッチワークで的を絞らせないファニーウィングス。ダブルのドロップキックでダブルドラゴンを場外に落とすと、豊嶋の宇宙人ケブラーダ&前田のノータッチトペ・スイシーダの連携を見せて会場を盛り上げる。
それでも地力を見せてじわじわと流れをひきよせるダブルドラゴン。特に両者とも得意とする旋風脚を繰り出すと、ファニーウィングスの動きが止まる。前田が強引に松井をエクスかリバーからのキック・オブ・グローリーで決めにかかるが、これは芹沢のカットが入り惜しくもフィニッシュならず。そして失意を隠しきれない前田に、芹沢のスクリューハイキックが叩き込まれてジエンド。下馬評通りの結果とはなったが、ファニーウィングスが予想以上の健闘を見せての好勝負となった。会場からは大きな拍手が沸き起こる。
勝者コールを受けたダブルドラゴンが、ファニーウィングスに握手を求める。前田がそれに応じようとしたところで、横槍が入った。ビューティ・コネクションのレイナ・シエロとMACHIKO、川部雪江が現れたのだ。シエロがマイクを握る。
『ちょっとちょっと、なにさわやかな雰囲気を出そうとしてるのよ』
この登場に館内はブーイングが飛ぶ。
『黙ってなさいな。さてファニーウィングスのお二人。いい勝負をしてたのは認めるわ。特に、そう、特に豊嶋、あなたがね』
私?と首をかしげる豊嶋と、何様のつもりよ、と吐き捨てる前田。
『ええ。私感動したわ、あなたがこんなに強くなっていたなんて』
ここで豊嶋もマイクを要求。
『あなたがメキシコに行っていたのが2年ほど。見ない間に女は変われるのよ? それから、大きな口を叩いているみたいだけど、あなたキャリアじゃ私より下じゃない? あまりおいたが過ぎると、どうなっても知らないわよ?』
『おお、怖い怖い。でもね、そんなところも私は好きなのよ。それにあなたたのその長い黒髪の美しさ。そう、美しいものが正義。あなた十分ビューティ・コネクションに入る資格、あるわよ』
そう言ったシエロはリングに上ると、豊嶋に手を差し出す。
『どう? 一緒にやっていかない?』
一瞬その手を見やった豊嶋だが、すぐにシエロの手をパチンとはたく。
『悪い冗談はやめて欲しいわね? 私、あなたたちのようなヒールは嫌いなの』
『ヒール? 悪い冗談はやめて欲しいわね。私たちは美しさを正義として、そう、正義として活動してるだけ。まあいいわ、今日のところは引き下がってあげる。気が変わるまで、勧誘してあげるからそのつもりでね』
そこで松井が豊嶋の持つマイクを取り、シエロに話しかける。
『無視されるのは気に食わないね。それから、美しさで勧誘なら私らダブルドラゴンに先に話が来るんじゃないの』
シエロは肩をすくめた。
『ババアはいらない』
『なんだとこの野郎!』
『おお、怖い怖い、怒ると皺が増えるわよ。じゃあね』
ブーイングを背にして、ビューティ・コネクションが退場していく。好勝負の余韻を壊すこの行動に、ダブルドラゴンもファニーウィングスも憤った様子でリングを後にした。
○芹沢すずな (20分42秒、スクリューハイキック→体固め) 前田麗子×
キャラクター名鑑 vol.2改
リングネーム:セラフィム・ケイ 本名:天野ケイ 身長:151センチ 階級:軽量級
出身:新潟県 スポーツ暦:水泳(飛び板飛び込み)
得意技:ウルトラ・ウラカン・ラナ、エンジェルスタンプ、トペ・コンヒーロ
概要:アイドルレスラーとしてデビューしたシャングリラ四期生最後の一人。驚異的な空中姿勢制御能力を持ち、ロープ、コーナートップなどからの飛翔殺法を繰り出す。