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目指すはタッグタイトル

 11月15日、シャングリラ公式サイトおよびブログに会社預かりの話となっていたタッグタイトルに関する発表が行われた。

 それは、4チームによるトーナメント。出場チームは追って発表、というものであった。

 それをどう選定するのか。それは――


「とりあえず申請させて、会社が選考、ねぇ」


 社内用の連絡掲示板を見てきた川部雪江の報告を受けた鈴村天(すずむらてん)が首ブリッジをしたまま腕を組む。


「ま、私と飛鳥ちゃんかな?」


 と、リング上で華山涼子相手にスパーリングを行っていた高峯飛鳥に目を向けた天。


「でも、高峯さんはシングルベルトあるじゃないですか。私出たいですよ」


 天の横で同じように首ブリッジをしていたMACHIKOが意気揚々と立候補。


「そうね。ユニットとしてバランスを考えると、わたくしが2本持つよりは、分散してできるだけ多くのメンバーがベルトをもつようにしたいわね」


 じたばたともがく華山を抑えながら、飛鳥が同意する。


「まあ、取れればだけど」


 ここでうぐっ、と詰まるのがMACHIKOである。


「ここは、取ります、って言うところでしょうが」


 そんなMACHIKOを天がからかった。


「雪江、乗って」


 そして天は雪江を自分にまたがって圧し掛かるようにと指示する。いつも天は最後これで首の鍛錬を締めるのだ。


「あ、はい」

「それ、からっ、メンバーの、増員の、こと、だけ、どっ」


 さすがに辛いが、それでもしゃべることをやめない天。


「心当たりがあるんです?」


 MACHIKOが問う。


「ちょっと、ね、面白く、しようかと、おもっ、てっ」


 苦しみながらもにやりと笑みをこぼす天。ふうん、と高峯が面白そうに天を見る下で、華山が何度もマットを叩きギブアップの意思を表していた。




「連絡ありがとう、十条。ふうん、そっか」


 こちらは営業活動に出ており、出先近くにある馴染みの定食屋で昼食を取っていた松井香織と芹沢すずなの二人。松井のガラケーに、十条菖蒲――リングネームは「アヤメ」――からの連絡が入っていた。


「なんて~?」

「立候補受付中だって」


 焼き茄子定食を食べながら聞いてくる芹沢に、ケータイを置いて好物のハンバーグ定食ご飯大盛りに取り掛かった松井が端的に答える。


「もちろん、いくわよね~?」

「当然」


 即答してハンバーグとご飯を口に放り込む。もぐもぐと口を動かしながら野心的な眼光を見せる松井。


「まあ、わたしたちのために作ってくれたんだものね~」


 そう言って芹沢は味噌汁を一口すする。こちらも獰猛な笑みを見せていた。普段はおっとりとしている芹沢だが、バトルジャンキーとでも言うようなところがある。チャンスがあればすぐに噛み付いていくタイプだった。


「戻ったら、早速申請しなくちゃね~」

「そうね。その前に……店員さーん、から揚げ定食くださいなー」

「はい、いつもありがとうございます」


 顔見知りになるほど通っている店だ。松井の3セット目(・・・・・)の定食注文に驚くこともなく受けてくれた。


「そうと決まれば、体力つけなくちゃね」


 にいっ、と笑ってハンバーグ定食の残りに手をつける松井であった。





 シャングリラオフィスで説明を受けているものもいた。それは、アメリカからレギュラー参戦している二人のアメリカ人レスラー。タッグチーム「セイクリッド・ファイア」を組む二人にして、チームリーダーのミシェル・インフェルノは初代シャングリラ無差別級シングル王者という強豪であった。


『なるほど、それで我々に出場して欲しいというわけだな?』


 運営本部長の尾崎を前にして、腕と足を組んだ尊大な態度で頷くミシェル。隣では、うんうんとそのパートナー、95キロの巨漢レスラーであるレーナ・グリフィスが頷いている。レーナは語学堪能で、ミシェルの通訳として、また契約書などを交わすときの交渉役として、細やかな仕事もこなすバイプレイヤーであった。


「ミシェルは、出場したいと言っていマス、オザキチーフ」


 直訳してしまうと角が立つミシェルの言葉も、レーナがうまく仲介していた。


「それはありがたいです」


『ふん、しばらくタイトルに絡んでなかったからな、ちょうどいい機会だ。誰がここのリングで最も強く、美しいか、それを思い出させてやるとしようじゃないか』


「ミシェルはやる気十分デス、オザキチーフ」

「そのようだね」


 実はこのコンビ、日本に来るまではアメリカ西海岸のインディー団体を中心に戦ってきたコンビであった。しかしその実力と、相手のことをほとんど考えてないミシェルの暴虐ぶりに、いくつもの団体のトップを叩き潰し、かつ団体まで潰してしまったことが何度もあった。ついたあだ名が「西海岸の悪夢」。徐々に上がる団体がなくなっていったころ、現役の頃にアメリカで手を合わせたことがある石黒翔子レフリーの推薦によってシャングリラに上がるようになっていた。


『私たちの本領発揮の場を用意してくれたことは感謝しよう。そして、ベルトを手に入れることでそれに応えようではないか。ところでヒムロは出てくるのか?』

「ヒムロサンは、出場しまスカ?」

「まだ、本人の意思は確認していません」

「ミシェルは、シングルベルトを奪われた借りを返したいようデス。もちろんワタシも、ベルト戦で負けてマスから、ヒムロサンが出てきてくれると嬉しいですネ」





「いずみさ~ん、あたしと組んでタッグトーナメント出てくれませんかぁ?」


 氷室(ひむろ)いずみが道場に顔を出したタイミングを狙って、リリス渡部(わたべ)がすかさず擦り寄った。


「タッグ……ですか。私で良いんですか?」

「そりゃもぅ! いずみさんなら安心ですぅ!」


 氷室の左腕に抱きつく渡部に苦笑する氷室。


「私に色仕掛けしてどうするんですか。まあ、いいですけどね、タッグ」

「ほんと? わぁ、いずみさんふとっぱらぁ!」


 きゃっきゃと喜ぶ渡部は、さっそく申請に行こうと氷室の手を引いて事務所に向かう。


「そんなに急がなくても、先着順じゃないでしょう」


 氷室は言うが、渡部は善は急げだから、と笑う。


「連携とかぁ、コンビ技とか考えましょうねぇ、いずみさぁん!」

「楽しそうですね」

「そりゃあね、ブレイブスター取れなかった以上タイトルに絡むにはこのタッグしかもうないでしょぉ! 当分新設ないだろうから、これは逃せないじゃないですかぁ」


 くるくると氷室の周りを衛星のように回りながら歩く渡部を見て、貪欲さには感心する氷室であった。

 そして二人が事務所に入ると、「お? 聡美じゃん」と声をかけられた。

 聡美とは渡部の名前である。本名、渡部聡美。


「それに氷室さん? ひょっとして氷室さん達も申し込み?」


 そこには豊嶋奈美と、前田麗子の二人の姿があった。


「げ」

「げ、とはご挨拶じゃないの聡美~」

「そうよ。 それに、別に先着順じゃないんだから気にしないで?」


 渡部にとっては同じ団体出身の先輩である豊嶋・前田の申請に、渋い顔をする。


「やなタッグが出てくるなあ。ねえいずみさん」

「これは、強敵ですね」


 そうは言うものの、氷室は気にした様子はなかった。


「他の申請チーム、教えてもらっていいですか、滝田さん」


 一番選手たちに近い机で書類仕事をしていた総務の滝田に尋ねる氷室。


「あ、はい。『セイクリッド・ファイア』のお二人。ビューティ・コネクションからシエロさんとMACHIKOさん。久保さんとオリビアさん。それから今おられる皆さんですね」

「へえ。久保とオリビア」


 麗子がつぶやいた。豊嶋は頬に指を当てて小首をかしげる。


「そういえばオリビアちゃんは渚ちゃんのこと随分気に入ってたみたいね?」

「若手の中では面白いタッグだとは思うけどぉ、今回は弱体タッグには遠慮ねがわないとぉ」

「それより、まだ『ダブルドラゴン』は来てないんですね? もったいぶる気かしら?」


 奈美の言葉に、滝田が頷く。


「そうかもしれません。まあ、まだ募集期間はありますから、そのうち、でしょうね」

「間違いなく来るでしょう。そうなれば本気のダブルドラゴンと戦えるわけですね。楽しみです」


 氷室が口の端を上げる。他の三人も、おそらく出てくるであろうダブルドラゴンへの警戒と興味を胸に秘めるのであった。




後日初代シャングリラ無差別級タッグ王座決定トーナメントの出場4チームおよび組み合わせが発表された。

ミシェル・インフェルノ&レーナ・グリフィス vs レイナ・シエロ&MACHIKO

豊嶋奈美&前田麗子 vs 松井香織&芹沢すずな



「ちょっとぉ! なんであたしといずみさんのタッグが外されてるのよぉ! 誰のおかげでベルトの話が出たと思ってるのかしら!」

「これは少し、いえ、かなり悔しいですね。ふふ、いいでしょう。会社がその気なら私にも考えがありますよ」

「あっ、いずみさんが燃えてる……」


キャラクター名鑑 vol.17

リングネーム:松井香織 本名:松井香織 身長:164センチ 階級:重量級

出身:高知県 スポーツ暦:アマレス

得意技:ブラックドラゴンドライバー(クロスアームボム)、ブラックドラゴンボム(クロスアームノーザンライトボム)

概要:西日本のインディ団体出身。早くから頭角を現し、メジャー団体でも通用すると言われていた。特に同僚・芹沢すずなとのタッグチーム、「ダブルドラゴン」は評価が高い。所属団体倒産でフリーになっていたところをシャングリラが登用した。

大酒飲みで、まさにウワバミ。だが無理に人には勧めない酒飲みの鑑。

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