表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
16/23

【興行】坂本ジュリア、川部雪江デビュー戦

 10月16日、東京は幸福園ホール大会。その控え室で、そわそわと出番を待つ少女の姿があった。

 一人は、ワンピースタイプの、白を基調としたコスチュームに身を包んだ長髪の少女、川部雪江。

 一人は、セパレートタイプの、ブラウンを基調としたコスチュームに身を包んだツインテールの少女、坂本樹理亜(ジュリア)


 ――ヒールユニット「ビューティ・コネクション」の控え室。


「だ~いじょうぶだって。ゴーサイン出した私を信じなさい」


 けらけら笑いながら師匠の覆面レスラー、レイナ・シエロこと鈴村天(すずむらてん)が肩を叩く。セコンドにつくため、コスチュームの上にTシャツを着た姿であった。

 この日のタッグパートナー、パンクロッカーのようなコスチュームの華山涼子も言葉は口にしないが力をくれるように頷いてくれる。

 

 

 ――正規軍(仮)の若手用控え室。


「緊張してるわね? 大丈夫、大丈夫よ」


 落ち着いた雰囲気でジュリアの肩を抱くのは、成長著しくトップレスラーに駆け上がろうとしている長い黒髪の先輩レスラー、豊嶋奈美(とよしまなみ)。こちらもこれからジュリアのセコンドにつくことになっていた。


「私だって、デビュー戦は緊張したもの。でも、なんとかなったわ」

「強心臓の豊嶋さんでもデビューは緊張したんですね」


 ジュリアは豊嶋の物怖じしない性格を揶揄(やゆ)することで気を強く持とうとしたようだ。しかし豊嶋はあっけらかんとして、


「冗談よ? 私が緊張するわけないじゃない~」


 気の抜けるような返答である。思わず腰砕けになるジュリア。「もう、豊嶋さんたら」と苦笑いを見せる。


「少しは力が抜けたみたいね?」


 それを見て、にこりと豊嶋が微笑んだ。

 

 


 リングアナウンサーがマイク片手にリングへ上がる。いよいよ、呼び出しだ。

『青コーナー側より、川部雪江、華山涼子選手の入場です』

 先日完成したばかりのビューティ・コネクション用テーマ曲にあわせて入場してくる雪江と華山。華山の手にはエレキギターが握られていた。


『続きまして赤コーナー側、坂本ジュリア、三宅美鈴(みやけみすず)組の入場です』


 こちらはジュリア、三宅ともに個人の入場曲がないため、シャングリラのメインテーマ曲に乗っての入場だった。走りながら入場した三宅は、観客とタッチしながらリングサイドを一周してリングに上がる。一方ジュリアはそのようなパフォーマンスをする余裕は無く、リングを見据えて真っ直ぐリングイン。


 リング上に4選手が揃うと、次は選手コールである。


『162センチ60キロ、川部~雪江~!』


 リングアナの紹介に合わせて手を上げる雪江。ヒールとしてデビューするんだから、観客に礼なんてするんじゃないわよ、とは師匠シエロの言葉。


『153センチ54キロ、華山~、涼子~!』


 コーナーポストに上った華山、エレキギターを振り回して観客を煽る。


『158センチ56キロ、坂本~ジュリア~!』


 コールにあわせて、ツインテールを揺らしながら四方に礼をする。


『152センチ53キロ、三宅~、美鈴~!』


 リング中央で両腕を上に突き上げる三宅。


『なお、この試合は坂本ジュリア、川部雪江両名のデビュー戦となります』


 この案内に、拍手や頑張れ等の声援が飛ぶ。雪江とジュリアは視線を交錯(こうさく)させる。互いが相手に気圧されないようにと、睨みつけていた。

 

「さあ、第1試合のゴングが鳴りました。ゲスト解説は若手ナンバーワンの呼び声も高い、望月登子(もちづきとうこ)選手です。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

「さあ、両コーナーとも先鋒は新人の二人。望月選手に両選手のことを伺いたいのですが」

「そうっすね、まあ、坂本は運動神経いいですよ。川部のほうは多少体格がいいので、打たれ強いなっていうのが感想っすね」

「なるほど。さあ腕の取り合いは互角、距離をとったところで坂本選手ドロップキック! 綺麗にきまりました」

「坂本はフォームがいいんですよね。もうちょっと威力があれば文句無いんだけど」

「なるほど。さあ起き上がった川部選手、坂本選手に近づく、おっとタックルで転ばせましたね、今度はグラウンドでの攻防になります」

「川部は柔道やってて、それも寝技の方が得意だったみたいで、新人の中では久保の次にグラウンドうまいですよ」

「おお、そうですか。おっと、ここで川部選手がグラウンドのヘッドロックへ捕らえます」

「そう、三宅や華山よりも上っすね」

「なんと、先輩のお二人よりもですか」

「アタシやアヤメは流石に負けないと……いや、待てよ?」

「どうしましたか望月選手」

「ほら、ビューティ・コネクションってグラウンドが得意な面子が多いでしょ? だから、あいつらに鍛えられてるからアタシらでも危ないかも」

「確かに、特に高峯選手は関節技の名手ですからね。さあグラウンドで優勢に立った川部選手、坂本選手より先に立ち上がってストンピング!」

「ありゃだめだ、まだ遠慮が入ってるな。あれじゃあ素人だってやれませんよ」

「望月選手の言葉通り、蹴られながらも起き上がる坂本選手!エルボーを見舞っていく!」

「こっちは割りと腰が入ってるかな?」

「しかしグラウンドで消耗させられたか、坂本選手は三宅選手とタッチ、交代です。三宅選手、川部選手を捕まえてさらにエルボーを見舞っていく!」

「さっき坂本の肘は腰が入っている、って言いましたけど」

「はい」

「三宅のエルボーはね、魂が入ってるんですよ、痛いし重い。小柄な体格でよくあれだけのエルボー打てるなっておもいますほんと」

「ああ、それは他の選手もおっしゃってました」

「川部は早くも正念場っすねえ」


 こんなにも。こんなにも違うのか。雪江は朦朧とした頭で考えていた。

 三宅のエルボーなら練習で何度も食らっていた。だが、ここまで頭の芯まで響いていただろうか?手加減されていたのか?いや、きっと違う。きっと、リングに上がった三宅美鈴は、別物なのだ。これが、プロレスラー三宅美鈴なのだ。ならば、それに対抗するにはどうする。


 コーナーに打ち付けられ、対角線を走ってきた三宅のエルボーを食らって崩れ落ちる雪江。そんな雪江を引きずり起こそうと、三宅が髪に手をかけた。それがチャンスだった。三宅の胴に抱きつくようにタックルを仕掛け、同時にその足を刈っていく。柔道で言う大内刈りである。


「川部選手、うまくグラウンドに引きずり込みました!」

「三宅はどうしますかねえ。強引に振りほどいてもいいけど、先輩の意地で付き合うか」

「付き合うようですね! 有利なポジションを取ろうという攻防です」

「一見地味な攻防ですけど……いや、地味ですねすみません」

「ははは。ですがおっしゃりたいことはなんとなく分かります、リング上の二人は激しい闘志をぶつけ合っています!」

「川部にダメージがある分、五分の戦いになってる感じ」

「そうですね望月選手! おおっと川部選手が三宅選手の腕を取って脇固め! これは極まってます、角度いい感じですね」

「そうですね望月選手! 三宅選手なんとかロープエスケープ!」

「リング中央だったらギブアップもあったんじゃってレベルですよ」

「それほど厳しく極まっていましたか!」

「ですね」


 タイミングを得た雪江は、青コーナーに戻ると倒れるように華山へタッチをした。リングインするときに、華山が軽くぽんと雪江の肩をたたき、雄叫びを上げながら三宅へと突進していった。




 試合時間はもうすぐ10分にさしかかろうとしていた。今リング上にいるのはジュリアと華山である。

 華山のキッチンシンクにより腹にダメージを受けたジュリアは動きを止めてしまった。コーナーに押し込まれてストンピングの嵐を受ける。奇しくも序盤雪江が負ったピンチと同じような状況下にあった。


(痛い、怖い! だけど、だけどこれは洗礼だ! プロレスラーになる夢が、現実になったことへの! この痛みで、残ってた甘えを潰す! 私はプロレスラーに、なったんだから!)


 ジュリアは覚悟を決めて顔を上げ、華山を睨みつける。華山の表情は、暴力を振るうことが楽しくてしょうがないということを存分に表現していた。普段おとなしい華山が試合でこうなることは、ジュリアも知っていた。しかし、間近でみると本当に同じ人物だとは思えなかった。しかし、それでも負けたくない。

 華山が反対側のコーナーでアピールしている間に、ふらりと立ち上がったジュリア。だが、ふらふらとコーナーへもたれかかってしまう。それを見て華山は、膝を叩き込むつもりで対角線を走っていく。ここが隙だった。渾身の力で足を上げたジュリアは、見事華山の顔にカウンターでの蹴りを突き刺すことに成功した。

 ふらふらとよろめく華山を捕まえたジュリア。見事華山をブレンバスターで放り投げることに成功し、コーナーに控える三宅にタッチすることに成功した。

 

「望月選手! 今のピンチを脱出したのは大きいんじゃないでしょうか!」

「そっすね。根性見せましたね」

「さあ、三宅選手のエルボースマッシュが炸裂! フォールに入る! しかしカウントは2!」

「しぶといですね華山も。今の一発、決まってもおかしくなかったですよ」

「そうですね望月選手! さあ三宅選手、トップロープからダイビングエルボードロップ、すかさずフォール! これはいったか!? いや、川部選手がカットに入りました」

「坂本がちゃんとカバーしてれば決まってたんですけどね」

「そうですね望月選手! さあ華山選手、ジャンピングニーを決めて、ああフォールには行きません、川部選手とタッチ!」

「どうですかね、川部もふらふらですからねえ」

「交代しない方がよかったと?」

「いや~そこまでは言いませんが」

「川部選手、ここで三宅選手を捕らえて大外刈り! 抑えに行くもカウントは2! お返しとばかりに今度は三宅選手がブレンバスターからフォール! これもカウントは2……おおっと、すぐさま川部選手が三宅選手の腕を関節技に捕らえる!」

「柔道風に言えば腕がらみだったかな?」

「なるほど! 必死に絞り上げる川部選手! あっとここで坂本選手がカットに入る! しかし坂本選手を華山選手が捕まえて場外へ引きずり落とした! 川部選手に決めろと喝を入れています!」

「おっと、これはひょっとしてひょっとするかな?」

「さあ、大外刈りの体勢へ、あーっ、しかし! 三宅選手の強烈なエルボースマッシュが、下から川部選手のアゴを打ち抜いた! 崩れ落ちる川部選手!」

「ありゃ」

「そして三宅選手、逆エビ固めで絞り上げる! 川部選手の口から悲鳴が上がる!」

「お、坂本が今度は華山をちゃんと場外でおさえてますよ」

「そうですね望月選手! さあロープは遠い、どうだ、どうだ、マットを叩いた、ギブアップ!」

「ここまで、ですか。まあどっちが勝つか分からなかったという意味では面白かったんじゃないでしょうか」

「なるほど! やや辛口の気もしますが、まずは新人二人の将来に期待して拍手を送りたいと思います!」



○三宅美鈴(11分4秒、逆エビ固め)川部雪江×



 リング上で勝ち名乗りを受ける三宅とジュリア。雪江はそれを悔しそうにリング下から見つめていた。


「引くわよ」


 セコンドの天に声をかけられて我に返る雪江。すみません、と震える声で返答すると花道を引き上げていく。その背中に観客からの拍手が投げかけられ、雪江は感極まって涙を流してしまった。


「す、すみませっ」


 慌てて目をこすろうとする雪江の頭に、天がタオルをかぶせて顔が外から見えないようにしてくれた。優しさが身にしみる。


「次は私のセコンドについてもらうから、それまでには泣き止んでおきなさい」


 優しい声色に、ますます涙があふれる雪江だったが、力強く頷いて師の優しさに応えるのだった。

キャラクター名鑑 vol.13

リングネーム:三宅美鈴 本名:三宅美鈴 身長:152センチ 階級:ライト

出身:香川県 スポーツ暦:バスケットボール

得意技:エルボーバット、エルボースマッシュ、ダイビングエルボードロップ

概要:体格は大きく無いが根性だけは誰にも負けず、厳しい練習を生き残った。魂のこもったと評される肘を使った技が得意。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ