ハッピーバレー(跑馬地)
「え? 俺、間違えてライブ会場に……来てない……よな?」
目の前は、人、人、人……。
遠くからは歌声まで聞こえてくる。
週末でもないのに、この賑わい。
今日は水曜日の夜だ。
日本なら週の半ば。
明日も仕事だし、そろそろ帰るか……ってなりがちな時間なんだけど。
でも、周りを見ると、スーツ姿のまま、仕事終わりにちょっと寄りましたって感じのグループや、若者同士で遊びに来たって感じの人たちばかり。
でも、みんな楽しそうなのは伝わってくる。
そんな人混みの後ろを見ると……。
周りは高層マンションだらけ。
こんな街中で騒いじゃっていいのか?
ちょっと心配になってくる。
ここ、ハッピーバレー(跑馬地)はいつもトラムの行き先で見てたから、名前は知ってたけど……。
実際にどんな場所なのか知ったのは、機内なんだよ。
それも、帰りの。
そんなの、今回行くに決まってるよな。
でも、競馬場デビューが香港って、まぁ、俺らしいのか?
今日は「Happy Wednesday」で、ナイトレースやイベントが盛りだくさんって。
確かに、もうすでに圧倒されてるんだけど……。
でも、せっかく来たんだ。楽しまないともったいない。
人混みをかき分け、どんどん進んでいく。
「ここから先は……会員じゃないと入れないのか」
柵の前に係の人が立ってる。
その横には『メンバーオンリー』みたいなことが書いてある看板も。
まぁ、いいか。
とりあえず一通り歩いて、何となく分かった。
階段上になっている座席の一番上に座り、ホッとひと息つく。
夜なのに、さすが香港。
多少マシになったとはいえ、まだまだ蒸し暑い。
ペットボトルの水を飲み干すと、少し生き返った気がする。
目の前の巨大スクリーンをぼーっと見てたんだけど……。
一頭、めっちゃ嫌がってないか?
何度チャレンジしてもゲートに入ろうとしない。
なんか、そういう気分の時ってあるよな。
うん、俺もある。
どうしても嫌な仕事とかあるし……。
って、何で香港に来てまでそんな事考えてるんだよ。
お腹空いてるからだな。
とりあえず、何か食べよう。
すれ違った人のトレーには美味しそうなピザとビールが。
確か、すぐ近くのフードテントで売ってた気がする。
せっかくだし、外でレース見ながら食べるか。
「うわ〜。めっちゃ並んでる……」
でも、どこも並んでるし、まぁ、並ぶか。
「はい、どうぞ〜」
え?思わず受け取っちゃったけど……。
一枚の青いチケットのような紙切れ。
おっ、割引クーポンじゃん。
これで10ドル引いてくれるんだ。
早速使うか。
列の入り口にあったメニュー表を見ながら並ぶ。
ピザにハンバーガー、これは……串焼き?牛?羊?
香港で串焼きって、あんまり見たことない気がする。
でも、とりあえず簡単につまめるものがいいよな。
ってなると、やっぱりポテトか。
他の店も覗きたいしな。
いつものように指差しで注文して、クーポンも無事に使えた。
何となくウキウキして受け取りの列に並んでたんだけど……。
「は?マジで?」
あの量、誰が一人で食べるんだよ。
そうツッこんでも、もう注文しちゃったわけで。
うん、受け取るしかないよな……。
某ドーナツショップのアレが頭に浮かんだ。
あの、詰め放題の大きな容器。思わず溜息が出た。
よく見るとケチャップの小袋が二つ。
これは普通のサイズなんだな。
って、どう考えても、ポテトの量に対してケチャップ足らないだろ。
ウェッジタイプのポテトは食べ応え抜群で、食べても食べても減る気配がない。
誰か足してないよな……。
そんなことを思いながらも、目の前ではどんどん、レースが行われていく。
20分間隔ぐらいか?
日本のことを考えると、かなりのハイペースだ。
毎回、どの馬が勝つか予想しながら見てるんだけど、これって賭けてないと当たるんだよな。
でも、せっかく来たし、試しに賭けてみるか。
トレーを片付け、窓口へ行く途中、大音量の音楽と歌声が耳に飛び込んできた。
ステージイベントだ。
レースとレースの間に、観客が飽きないようにってことなのかな。
ほんと、ここだけならライブ会場だ。
ダンサーもいて、照明も音響もバッチリ。
みんな、ビール片手に楽しんでて、なんかこっちまで身体が動く。
おっと、いけない、馬券買うんだった。
電光掲示板に表示されてる締め切りまであと3分。
まだ、どの馬を買うか決めてないんだけど、まぁ、直感で行くか。
って、ボールペン持ってない!
でも、端末は使い方わからないし……。
え?係の人に言ったら記入してもらえるのか?
「ンゴイ。ナンバー3、WIN、20ドル」
「レースナンバー?」
「え?何? あっ、何レース目かってことか。レースNo.6」
必要な場所にチェックを入れた紙を渡してくれた。
あと1分!
急いで窓口の係員に紙と20ドルを渡すと、ものの数秒で印字された紙が返ってきた。
「よし、無事買えた」
振り返ると、大型ビジョンにはゲートインの様子が映し出されている。
パンッという音とともに一斉にスタートすると、周りの観客の歓声も一際、大きくなる。
俺も馬券を片手に「行け〜!」と叫んでた。
最後の直線、周りの歓声は最高潮。
俺の馬はというと……外側からすごい勢いで上がってくる。
うん、そんなもんだよね。
結果は5着。かすりもしなかった。
やっぱりお金賭けたからだ。
絶対にそうだ。
でも、充分楽しめたし、来てよかったな。
ハズレ馬券をポケットに突っ込み、帰りのゲートに向かって歩き出す。
ふと、前を歩くスタッフのTシャツが目に入った。
"WEDNESDAY IS THE NEW FRIDAY"
……それもいいかもな。
ばね指治療中のため、ほんと、ゆるっと更新になります。
続きも気ままに書いていきますので、ブクマやリアクションなどいただけると、やる気が出て更新が早まる…かもしれません♪




