煲仔飯(ボウジャイファン)の記憶
今回は、ちょっと懐かしい話。
いろんな屋台から、いい匂いが漂ってくる。
お腹も空いてきたし、何食べようか……。
そんなことを考えていたら、ふと。
初めて香港に来た時に食べた、あれが思い浮かんだ。
屋台のご飯もいいけど……。
「疲れた……。とりあえず座りたい」
ナイトマーケットをぐるぐるしていたけど、そろそろ休憩したい。
そんな時、目の前に人だかりが見えた。
うん?飲食店なのか?
よく見ると、店の入り口をぐるりと囲むように人だかりができている。
近寄ってみると……。
うん。飲食店だ。
座れる。
人気あるみたいだし、ここにするか。
でも、どうしたらいいんだ?
高校の卒業式が終わって、とりあえずリュックに必要なものを詰め込んで来たはいいけど……。
ほとんど下調べをしてないんだよな。
スマホも持ってきてはいるけど、入れてきたのは地図アプリくらい。
それもオフラインで使えるやつ。
両親には『翻訳機借りていったら?』って言われたけど、漢字の国だしなんとかなるだろって聞かなかったことにした。
ガイドブックもあるけど、ホテルに置きっぱなしだし。
そもそも、日本の番号のままだし、ここでWi-Fiがつかまるかも分からない。
……スマホは、当てにしないほうがいいな。こういう時は、とりあえず周りを観察するにかぎる。
店のおばちゃんかな?なんかずっと叫んでるけど……。なんか書いて渡してる?キョロキョロと周りを見ると……。
みんな、小さな白い紙切れを持ってるのか?あ、また二人組が紙をもらってる。
そうか、順番待ちか。
……そういうことね。
指で一人ってやると、おばちゃんが紙をくれた。
よし、これでとりあえず第一関門クリア。
少し離れて手元の紙を見るが……。
「これ……なんて書いてあるんだ?」
落書きにしか見えない。
紙の向きを変えて見てみるけど……。
うん、さっぱり分からない。
諦めて、入り口のすぐ前で待つことにした。
呼ばれて誰も来なければ、紙を見せたらいいしな。
……って思って見せたら、違うって首を振られた。
何回か繰り返したら、おばちゃんも観光客だって分かってくれたらしい。
呼ぶ前に手で「待て」ってされるようになった。これで順番を飛ばされることも無くなったし。
安心したら周りを見る余裕が出てきた。
「え?」
思わず声が出てた。店の横で豪快に、ホースで米洗って、水も入れて――。
……ここで炊くの?日本では絶対に見ることのできない光景に呆然とした。トントン……。
肩を叩かれ、我に返った。
おばちゃんが店内を指差してる。どうやら順番が回ってきたらしい。
一歩中に入ると、真っ白な壁に手書きのメニュー、丸テーブルにパイプ椅子。飾り気が一切なくて、ある意味潔い。
テーブルとテーブルの間隔なんて、人一人がギリギリ通れるぐらいだ。
どのテーブルもきっちり埋まっている中で、一人分だけ空いてるところを指さされる。
隣の人と肘が当たりそうな隙間に座り、目の前のメニューを見る。漢字がずらっと並んでいて……。
なんとなく、これがメインで、こっちは飲み物……かな。
う〜ん。
さっぱり分からない。
まぁ、牛、豚、鶏みたいな漢字が入ってれば肉系がくるだろう。
「すみませーん」
あ、日本語。
でも、手もあげたから気づいてくれたっぽい。
「これと、これ」
店員は無言のまま、何かメモをして去っていった。
日本語と指差しで押し切ったけど、聞き返されなかったし……大丈夫だよね?
やっぱり、隣の人の肘が当たる。
まぁ、この狭さじゃ仕方ないよな。
店内はざわざわとしていて、活気がある。
何を話してるのかは全く聞き取れないけど、それでも、異国へ来たんだってワクワクする。
『ゴトッ』
目の前に土鍋が置かれた。
その横には大量の氷とレモンの入ったアイスティー。
熱々の湯気に、食欲がそそられる。
早速、レンゲで一口掬う。
……うん?味薄い?
具材混ぜたほうがいいのかな。
底から掬うようにすると、真っ黒な「おこげ」が。
これ、剥がせるのか?
そのぐらい、しっかりとしたおこげが底に張り付いている。
……ガリッ
あ、これ、俺には無理だ。
おこげを諦めて、他を食べる。
日本米と比べると、パサッとしてる?
この米でチャーハン作ったら美味しいだろうな。
それにしても、具材とご飯の量がおかしくないか?
混ぜて食べても圧倒的に米の方が多いんだけど……。
それに、味もめっちゃ薄味だし。
こんなもんなのか?
残すのも悪いな……と思って、無心で掻き込む。
「ごちそうさま」
レンゲを置いて、手を合わせた。
熱いボウジャイファンの後だ。
冷たいレモンティーが美味しい。
ふう。
一息ついて、伝票を持って立ち上がった時だった。
ふと、机の上に置いてあったタレに気づく。
……あれ?
周りを見ると、みんなそれをかけて食べている。
もしかして――。
俺、やっちゃった?
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