050 荒木田医師と榊原医師 異形等対策室の室員になる
途中食事を奢ってもらって山城稲荷神社へ。
麓に灰色車両を停めて、階段を登り始める。
「久しぶりだな。こんなに階段があったっけ」
荒木田が呟く。
いつまで登っても階段が途切れない。
祓川室長の顔色が悪くなった。
「どうしました」
「鈍感め。具合が悪くなった。下に降りる」
具合が悪くなったのではしょうがないから皆で階段を降りる。
「ダメだ。登れない」
「お祓いでもしたらいいんじゃないですか。祓川だけに」
冗談で言った荒木田だが、
「そうだな」
祓川室長が灰色車両に戻って着替えて来た。どう見ても修験者である。
法螺貝を吹いた。
錫杖をジャラジャラやりながら
「オンアビラウンケンソワカ」
などと言っている。
気合いを入れて
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」
と言ったが弾かれた。なぜだかわからないが弾かれたことがわかった。
「おい、弾かれたな」
「ああ、弾かれた」
「先輩、弾かれましたよ」
「お前たちにわかるのか」
「俺も榊原もなんだかわからないけど弾かれたのがわかりました」
「そうか。これは俺には手に負えない結界だ。悪いものではないだろうが祓おうとすると弾かれる。留守のようだ。出直す」
「こんにちは」
上から老夫婦が降りて来た。
「良いお天気で」
「はい。どちらまで」
「もちろんお参りですが」
怪訝な顔をする老夫婦。
「そうでしたね。神社でした。なかなか良い神社です」
「ええ、地元の神社で先祖代々七五三とかここでするんですよ」
老夫婦はにこにこしながら参道を降りて行った。
警察署に向かう灰色車両の中では祓川室長は一言も口をきかなかった。
「教授、そろそろ着きますよ。着替えたらどうですか」
「そうだな。すまん」
室長が具合が悪いらしいからゆっくり走る灰色車両。
着替えて窓の外を眺めていた祓川。
「おい。なんだあれは」
荒木田が教えてやる。
「え、ああ。あれは武蔵西南学園です。小中高一貫校です。下校の時間ですかね。小さいのや大きいのが一緒に帰っていきますね。長女が教員をやっているんですよ。次女が高三です」
「なにか変わったことはないか」
「変わったこと?聞いていませんが。そういえば女房が朝練と夕練を高等部の生徒と稲荷神社でやるとか言っていました。朝みんな出かけてうるさくなくて助かりました。あははは」
「お前らはその朝練と夕練に付き合ってこい」
「ええ。えええ。日の出とともに始まるんですよ」
「いいから行ってこい。夕練は何時からだ」
「聞いてませんけど、夕方からじゃないですか」
「二人で今日行ってこい」
「えええ。疲れる」
「業務命令だ」
「俺たちは病院職員ですから」
「ほれ」
紙を2枚アタッシェケースから取り出した。
異形等対策室の採用辞令であった。採用日付は今日である。
「残念だな。俺の部下だ。ふはははは。法医から逃げた罰だ」
執念深い法医の化け物であった。
逃げたわけではないと二人。綺麗な助手がいたのであった。その人が辞めてしまったので足が遠のいただけである。
「わかったな」
「これは取り消しは」
「俺は警視監だ。警察組織あげてお前らを潰すぞ。制限速度1キロオーバーでも捕まえる。あれよあれよと言うまに点数がかさんで免許取り消しだな」
「行って来ますよ。行きますよ」
化け物対策室を作るようだと荒木田と榊原。いい年をしてこき使われるのである。ため息が出る。
警察署で秡川を下ろして、灰色車両に送られて病院に着くと病院長に呼ばれた。
「お前らは今日から非常勤な。代わりの人は本院から送られてくることになった。宗形の補充も手当て出来た。ご苦労さん」
やけに機嫌がいい病院長であった。秘書に聞くと本院から謝って来たのだそうだ。なんで謝られるのかわからないが、謝ってくれたのでご機嫌がいいらしい。
もう診療はしなくていいらしいから、帰った。部屋の片付けと引き継ぎは明日することにした。
荒木田が家に帰ると妻の機嫌がよい。ペタペタと何か顔に塗っている。
「ただいま」
「あれ、お帰り」
「どこかに行くのか?」
「夕練よ。夕練」
「俺は首になった」
「あら。そう」
ペタペタ。
「化け物教授の部下になった」
「そう。口紅はどれがいいかしら」
「お母さん、行くよ。運動するんだから何を塗っても同じ」
「俺と榊原も行くんだけど」
「そうなの、悪ガキグループね」
「早く行く」
娘が引っ張って行った。
俺も着替えたら榊原が来た。
「行くか」
「ああ」
「ところで給料が馬鹿にいいが」
「化け物を相手にするから危険手当てだろう」
「まったくだ」
言葉通りとは思わず呑気な二人である。
稲荷神社の階段下に着いた。背の高い男女がいた。高校生らしいが存在感が半端ではない。
「こんばんは。お待ちしていました」
「こんばんは」
俺たちのことだろうと思った。
階段の上から、宗形が降りて来た。背中に榊原の婆さんを背負っている。
「お婆様、何をやっているんでしょうか」
「ウエイトトレーニングだ」
「おぶさっているだけのような気がしますが」
「こやつの錘になっているんじゃ。まあ、交代してやろう」
ぴょんと飛び降りた。宗形は階段を駆け上がって逃げて行った。
婆さんがスタスタと榊原の方に来た。
「今度はお前を鍛えてやる。ほれ行くぞ。背中じゃ」
「へ」
「錘になってやると言っているんだ。ありがたく思え」
荒木田の方を見る。荒木田は階段を登って逃げた。
「今日からですね。僕はシン」
「アカです。がんばりましょう。ときが迫っています。祓川さんも来たほうがいいですよ。明日の日の出にお待ちしています。お伝えください」
「はい。伝えておきます。間違いなく」
一蓮托生だ、ざまあと思った。
「ではどうぞ。上でお待ちしています」
シンとアカと名乗った若者が階段を登っていく。急いでいる風ではないがとても追いつかない。榊原は婆さんをおぶってヒーヒーである。
やっと階段を上り終えた榊原。女性が出してくれた水を飲む。うまい。