048 秡川室長 武蔵西南総合病院を訪ねる
異形の初めての綺麗な死体である。
異形を運び出せと厳命を受けた自衛隊員。異形の死体の周りの木を伐採。自然保護より異形対策である。なんとかヘリが着陸できるようにした。
秡川室長について来た県警の刑事はヘリに乗せてもらい、発見者の待つ麓の警察署まで。発見者からは発見したということ以外情報はなかった。
あとは奥駈道である。難航した。現場は観光地化したところではない。いくら歩いても目撃者がいない。選りすぐりの刑事でも疲れる。細い道の崖側にもたれかかって休んでいると、白装束の人が走ってくる。
「もし、すみません」
白装束は走るスピードを緩めてくれた。
「?」
「ここ数日、変わったことはありませんでしたか」
白装束は合掌して走り去って行ってしまった。
変わったことがあったかどうかわからない。少し追ったが白装束は健脚である。タッタッタッと変わらぬリズムで走っていく。とても追いつけなかった。
諦めて奥駈に関係している寺を回った。寺には所属していないが、奥駈をしている修験者がいるらしいということはわかった。それ以上のことはわからなかった。
山城稲荷神社、宗形宛の科捜研からの速達が届いた。
検査結果は純水。コップには宗形氏の指紋。宗形氏のものと思われる唾液と口紅の付着あり。コップは紙製。市販品。メーカーは◯◯株式会社。品番は〇〇。口紅のメーカーは〇〇化粧品。品番は〇〇。
コップが入れてあったファスナー付きのビニール袋は市販品。指紋は宗形氏の指紋のみ検出された。
全てのコップについて検査したが結果は同じ。口紅はビニール袋に書いてあった番号順に薄くなった。
「科学ではわからないか」
つぶやいた宗形。
一枚手紙が付いていた。
口紅は安物である。しかし唇の保護に関しては高級品と変わらない。むしろ色々な成分が入っていない分良いかもしれない。なかなか良いチョイスである。
科捜研がくだらないことを書いてよこした。よほど化け物に恨みがあるらしい。
自分のせいだとは思わない宗形である。
帝都大学武蔵西南総合病院
今朝は朝練に3人で出かけて女房も出勤までに戻ってこなかった。うるさいのがいなくてよかったと病院に着いた荒木田診療科長。
午前の外来が終わって機嫌よく飯を食っていた。
「科長、病院長より電話です」
大先輩だから電話に出る。
「おい、お前何をした。警察が化け物を案内して来たぞ。今そっちに行った。何かヤバいものはないだろうな」
「あるわけないじゃないですか。令状はないでしょう。ほっとけばいいんじゃないですか」
「大学の病院長と俺は仲が悪いんだ。何も問題を起こすなよ。頼むよ」
「はいはい」
電話が終わるとすぐ警察が来た。警察はまだいいが、法医の化け物がいた。
「おい。電カルを見せろ」
「食事です。昼休みです」
「俺は朝から大普賢岳まで行ってきた。お前はのうのうと飯など食っている。お前の食事、昼休みは終わった」
「予約が」
「医局で怠けている奴を呼べ」
「この間までいたんですが、今は出向したので手不足です」
「他の奴らに割り振れ」
「へいへい。おい頼む」
看護師に声をかけた。
「はい、わかりました」
「それで電カルだ」
「令状がありますか」
「そんなもの後ででっち上げる。協力しなければしょっぴくぞ」
「しょっぴく令状もないでしょう」
「うるせえ。お前が切った奴が腐乱死体になった。切ったお前のせいだ。カルテを見せろ」
「鬼頭ですか」
「そうだ。今朝腐乱死体になった。お前誰から腐乱死体になると聞いた」
「だれだっけかなあ。噂だから」
勝手に電カルを開く秡川。
「これか」
「鬼頭の亀頭を切ったカルテです」
「切ってすぐ新鮮な切り口が腐り始めたということか」
「そうです」
「それ以外に検査数値に異常はないな」
「はい。ありません」
「お前、なんだと思う」
「わかりません。全くわかりません。何も知りません」
「ふん。誰から聞いた」
「覚えていません」
「しょっぴくぞ」
「さっきも言いましたが令状がないでしょう」
「俺は、警視監だ。そんなものでっち上げる」
「警視監ですか。何をしたんですか。偉い人に祟ったとか」
「俺は崇だ。学生ではあるまいに、まだそんなことを言っているのか」
「大学は定年だったんじゃないですか」
「法医は全国的に人材不足だし、学長に祟ったら、すぐ規則を変えた」
「文科省は何も言わなかったのですか」
「有能な人材の流出防止だ。文句はない」
「役人にも祟ったんですか」
「うるせえ野郎だ。それで誰に聞いた」
「榊原だったかなあ」
「まだつるんでいるのか。お前らの飲み屋の破壊事件を表沙汰にせずに解決するのに苦労した」
「学生部長だったから当然です」
「榊原を呼べ」
「電カルは見たし、ここで騒いでもしょうがないですから病理に行きましょう」
「そうだな。行くぞ。・・・どっちだ」
残った看護師と医師と窓口嬢。
「あれは、なんでしょうか。子供の喧嘩のような」
「仲がいいんだろう。ほっとけばいい」
静けさを取り戻した外来であった。
「それで警視監となって何をやっているんですか」
「後で話す。聞いたら戻れないぞ」
「腐れ縁が続くのか。もうそろそろお迎えが」
「なんだと」
「聴力正常なれど幻聴あり」
「馬鹿野郎」
「あ、ここです。お先にどうぞ」
先に行かせて逃げようとした診療科長。後ろ手に化け物に手首を掴まれた。
「まだそんな逃亡ごっこをやっているのか。進歩のない奴だ」
「榊原、こんにちはー」
「てめー案内してくるな。電話をして逃すのが普通だろう」
「同罪だな。豚箱だ」
「組織でしょう。見事な単なる腐敗です。終わり」
「それはわかった」
「出口は後ろです。荒木田の野郎をつれてお帰りください」
「みんな席を外せ」
秘書と警官が出ていく。こっそり一緒に逃げようとした荒木田。
「荒木田は残るんだ、馬鹿者」




