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047 異形等対策室出動する

 朝の爽やかな大気だ。

 ドラちゃんやドラニちゃんたちも帰って来た。朱が宗形さんを確認した。上手に治っているとドラニちゃんを撫でてやっている。勿論ドラちゃんも撫でている。

 ドラニちゃんに言わせると、宗形は棒術は免許皆伝。棒で切れるようになった。他の武器もすべてやったと言っている。


「ひどい目にあった。何回も死んだと思った。魔物に腹を割かれた時は、ハラキリはこれを見たんだと感心した」

 宗形棒術師範のユニークな感想である。


 ドラちゃんは龍愛と雷を当てっこしたり、溶岩合戦をしたりして楽しかったと言っている。

 みんな十分強くなった。

「みんなお疲れ様です」


 午後宗形に祓川教授よりメールがあった。曰く、

『大普賢岳付近に出張だ。忙しい、宅配便だと、馬鹿野郎。教室員に言っておいた』


他称 法医の化け物 祓川教授

 警察病院。目の前には腐乱死体がある。渋谷の事件と同じだ。

「室長。昨日運ばれてきた例の30人のうちの手術された男が30分前まではここに寝ていました。匂いがおかしいので看護師が来てみたら腐乱していました」

「どんな環境でも30分では、こんなに腐乱はしないぞ」

「それは我々もわかります」

「そうだな。これは解剖といってもこれじゃあお前、実質残っているのは骨だけだ。骨折箇所を固定したプレートとネジも残っているか。30分でここまで正常に腐乱する毒物はない」


「正常に腐乱ですか。確かにそうですね。科捜研に依頼しましょうか」

「無駄だ。あと29人だろう。程なくみんなこうなる。そんなことより、これを取りに行った病院、警察を徹底的に調べあげろ。渋谷の事件は、狐面が浮かんでいた、筒腐らしとか言っていただけだ。あの高級クラブ内で完結していた」


「今度は同じ筒腐らしだが、武蔵西南病院の病理部長と泌尿器科の診療科長、暇人の宗形が何か知っている。そいつらを調べろ。実質的に渋谷とこれが最初の事件だな。異形等対策室の。しかし、これは異形の仕業ではないだろうな。あれはもっと物理的に引きちぎったり、押しつぶしたり、かぶりついたり、そう言う奴らだ。まあ我々は異形等になっているからいいか。それに異形が現れ始めてこれだ。何か関係があるかもしれない」


 法医の化け物は警察庁内の異形等対策室の室長であった。初代室長は組織が整う前に異形の腹が裂かれた現場を見たら逃げ出した。


 初代が逃げ出した後、常人では務まらないと化け物との噂の秡川を室長にした。


 全警察組織をあげて異形対策に取り組みたいところであったが、まだ異形が世に知られていない状況では悪戯に不安を煽るので、警察の上層部だけにしか知らせていない。


 しかし、異形等対策室が全警察組織を動かせるように警視監の定員を一人増やして化け物との評判の祓川を警視監にした。化け物には化け物である。制服組では警視監の上の階級は都の警視総監しかない。


 もちろん野党の国会議員や人権派から警察組織の強化、国民監視強化などと反対が出たが、すべての党幹部は事情を知っている。大手マスコミのトップももちろん事情を知っている。若手の意見にうんうんと言いながら何もしないのであった。


 そのうち、壱番国にならってUFO関係を調べる組織を作り、学者をトップにしたいが、学者では警官がいうことを聞かないといけないから警視監にしてトップにつけるという話がSNSに流れて来てバカらしくなって有耶無耶になった。学者をトップにつけた政府の作戦勝ちであった。


 自衛隊には統合幕僚監部内に異形等対策室を設置。相互に連絡官を置いている。

 いまのところ、異形に襲われた後処理が主なので警察が前面に出ている。


 何しろ機関銃がまったく効かない。戦車を向かわせても戦車砲であっても異形に傷を追わせることはできない。討ち取れないのである。ただ人や動物が食われて、満腹して山へ戻る。警察は後処理に追われる。その繰り返しである。


 異形等対策室のメンバーが武蔵西南市に向かおうとしたところ、大普賢岳付近で異形の死体発見との連絡が入った。今まで通り自然死か縄張り争いだろうと思いながら、すぐさま秡川室長が自衛隊機で現場に向かった。現場近くの基地から応援の刑事とヘリに乗り換えた。


 現場は山の稜線付近で樹木があり、ヘリが降りられない。刑事に後から来いと言って秡川室長がロープ一本で降下した。すごい握力だ。刑事は室長は化け物で間違いないと思った。


 なんとか少し離れたところに着陸はできないが低空でホバリングできるところを探し、ロープを伝って数メートル恐る恐る降りた。ヘリはすぐ上昇。刑事は現場を目指す。


 現場についた秡川。

 「なんだこれは。初めてだぞ」


 異形は、六つに分かれていた。頭。胴体。前脚2本。後脚2本。バッタリと倒れて四肢と頭が切り離されたようにも見える。切り口は綺麗だ。いささかも潰れたりしていない。そのままくっ付ければくっつきそうにスパッと切断されている。

 明らかに何者かに討伐された死体だ。


 機関銃で撃っても平気な硬い毛皮が一太刀で斬られている。他に傷は全くない。据え物切りではないかと思うくらいである。


 切り口を観察していた秡川、背中に背負った袋から、日本刀を出した。警官は後ずさる。化け物と噂の室長である。何をするかわからない。なんとかに刃物である。


 すらっと刀を抜いて両手で刀を持ち振り上げてキィエーイと振り下ろした。秡川の腕が痺れた。刀はわずかに皮膚に窪みをつけただけ。

 「やっぱり切れないか。これじゃあ擦り傷にもならん」


 室長の、「キィエーイ」を聞いたヘリで来た刑事。現場に急ぐ。何をするかわからない化け物が何をしてもいい立場になってしまったのである。後始末が大変だ。


 この間は事務連絡と称して自衛隊に行って、機関銃を撃ちまくった。素人が機関銃を撃てたので自衛隊員は喜んだ。手取り足取り教えて、小銃も拳銃も撃たせたという。それが少し撃つと命中精度はベテラン兵士並みになってまたまた自衛隊員は喜んだと聞いた。


 異形対策ということで有耶無耶になったが。キィエーイは刀である。何を切っているのかわからない。県警本部長の渋い顔が見えるようだ。焦って急ぐ刑事であった。


 発見者は登山者である。すでに下山させて麓の警察署で待機させていると尻込みしている現場の警察官から報告があった。


 異形の周辺に小さな足跡があった。どう見ても幼児の足跡だ。一人ではない。4、5人だろう。

「幼児の化け物か」

 化け物はさらなる高みの化け物を知ったのであった。


 幼児の化け物が4、5人、異形を切って、それからどこかへ行った。周辺を探す。尾根には何も残っていない。崖を覗く。あった。棒のような物で崖を刺した跡がある。ここを登ったか降りたのか。


「おい。この下には何がある」

 地元の警官が答える。

「奥駈道です」


 刑事が現場に到着した。はあはあ言っている。

 「この下に奥駈道があるそうだ。ここ数日、そうだな昨日から遡り三日の間に奥駈道で普段と違った者、様子の異なった者、幼児を見かけたか調べろ。こいつは自衛隊の異形等対策室の倉庫に運べ。俺は戻る。あとはやっとけ」


 秡川は室員が降りたところに案内させ、自衛隊のヘリを呼びホバリングさせヘリの足、スキッドに飛びつきヘリに乗って去って行った。映画のようである。そんなバカなと思った刑事である。


 その頃、室長は大普賢岳付近に出張に行ってしまったから、残りの異形等対策室のメンバーが予定通り武蔵西南市に向かった。


 途中県警に寄り、県警通信指令室の記録を調べた。当該案件の記録はあったが、細かく調べると入電の記録はなかった。電話がかかってきた記録はない。電話がかかってきた記録はないが110番で対応しているのである。現場も正確に記録されている。

 もちろん箝口令である。


 あり得ないことが起こっている。異形等対策室のメンバーは、県警本部長と敏腕刑事を引き連れて武蔵西南市に赴いた。


 武蔵西南警察署長は、すぐ署長室を明け渡した。異形等対策室の連中は当然のごとく署長室を占拠、県警本部長が警察署長を使いっ走りにした。メンバーの半数は事件現場の公園に向かった。半数は病院である。


 事件現場の公園

 黄色いテープが張ってあって風にひらひらしている。証拠品が放置されている。チッと敏腕刑事。すぐ鑑識を呼んだ。県警から制限速度を無視してすっ飛んできた。


「指紋などどうでもいい。どうせ族の指紋しかないだろう」

 慎重にバラバラに切り刻まれたバイクと車の残骸を調べる。

 すでに切り口は赤錆が浮き始めていた。


「おかしい」

「どうした」

「切り口になんの凹みも傷もない。最初から切れていたようだ。それに切断面が真っ平だ。ツルツルだ。ありえない」


 車の残骸を調べていた鑑識が「こっちもツルツルだ。毛ほどの傷もない」


「回収する」

 対策室の灰色車両2台に積み込んだ。


 対策室のメンバーが案内して来た署長を睨む。事故現場を放置していた署長。生きた心地がしない。懲戒解雇される前に辞表を出そうと心に決めた。


 布の切れ端があちこちでひらひらしている。

「全て回収しろ」

「は、はい。直ちに」

 布を拾う署長と署員を置き去りにして警察署に戻る対策室のメンバーであった。

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