突然の壁ドン
目の前に、とんでもなく美しい顔がある。
我が国の誇る魔術兵団長様だ。
魔術って名前で誤解されがちだが、魔法と剣術を駆使するうちの兵団は軍の中でも花形だ。そのトップにいるのがこの人。
三十代半ばでまさに全盛期って感じの鍛え抜かれた体躯と長身、最強無双、銀髪青目で国の乙女たちの憧れを一身に受ける超美形が俺に壁ドンをしてきている。唐突すぎて意味がわからない。
そのままの体勢で俺を観察していた団長がゆっくりと口を開く。
「……今期の新人だな?」
「は、はい!レイ・カヅェルと申します!」
壁ドンのまま尋問が始まった。泣きたい。
「歳は?」
「今年で17になります!」
団長は完全に動きを止め、瞳に宿る光は鋭さを増していく。
俺の一挙手一投足を見逃すまいって感じだ。なぜだ。
「……うちの兵団に入れるくらいの素養があるなら養成院に入ることもできただろう。何故いま公募で入った?」
魔法を使えるだけの魔力を持つ人間は、珍しくはないが限られている。
この国では魔法を正しく扱えるよう、そして国が管理しやすいよう才能がある者は幼いうちから全寮制の養成院に入り教育を受け、適切な組織に入るのが一般的だ。
俺みたいにそこそこの魔力があるくせに、兵士公募に直接挑むなんて奴は珍しい部類に入る。入軍試験でも「え?魔力多くない!?なんで!?!?」と驚かれたのは記憶に新しい。
「は、母が…女手ひとりで育ててくれたのですが少々病弱でして、幼い頃は家の手伝いを……入団したのはお給金で母を助けられると思ったので……」
養成院は全寮制学校みたいなもの、そして国営なので費用はタダだ。食い扶持を減らすという意味では養成院に入ってしまった方が良かったのだろう。しかし幼い自分は母と離れたくなかったし、母もまた俺と離れるのを拒んだため入らなかったのだ。
軍に入ったら結局親元を離れることにはなるが、さすがに親離れする歳だ。そして軍人も公務員の一人、安定した収入と保証される身分は大変魅力的だった。心配性な母には親離れはいいが軍人はやめろと反対されたが。
「出身は……っ!?」
「ええと、北方のツェベリ地もがっ」
唐突に、団長の手が俺の口を覆った。
同時に後方の物陰で攻撃魔法が発動した気配がする。
え、もしかして誰かに見られてた?団長に壁ドンされてるのを???
「安心しろ、今のは私だ」
咄嗟に身を固くした俺に対して、団長は小さい声で言った。どうやら物陰に隠れていた誰かを攻撃したのは団長らしい。何を安心すればいいんだ。ちなみに俺の口は塞がれたままである。
「しかし聞かれてしまったな……場所を変えよう。私の執務室まで着いてきなさい」
ようやく壁ドンから解放された俺は、団長からは解放してもらえなかった。