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護衛士ハルトとふたりの姫様  作者: サイトウ純蒼
第七章「紡がれる二るの想い・前編」
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94.イリス王国、その後

【イリス王国】


——王の間、玉座に座るハウル国王の元に伝令が急ぎ走り寄る。


「も、申し上げます。たった今、重体だった兵の意識が回復しました!!」


「ほ、本当か!?」


ハウル国王は急ぎ従者と共に城内にある治療室へ向かう。

その部屋でベッドに寝かされる兵。全身を包帯で巻かれ右半身、特に腕や足に大怪我を負っている。王が尋ねる。



「わ、私の娘(・)、クレアとルルはどこにおる!!!」


うっすらと目を開けた負傷兵が弱々しく答える。


「ひ、姫様は、て、転送、されまして……」


「転送……!?」


王がその言葉を小さく繰り返す。

そして兵はゆっくりと、まだしっかり回らぬ口でその時の様子を話し始めた。





「姫を頼んだぞ、ハルト」


そう言ってハルトとふたりの姫を転送させる父ライド。消えゆく三名。それを見たベルド大臣が激怒して言った。


「よくも、よくも私の計画をおおおお!!!」


そう言うとベルドは、カオスドラゴンが押さえつけているフレアドラゴンへの攻撃を更に激化させた。激しい攻撃の前に悲痛の鳴き声を上げるフレアドラゴン。同時にライドも口から血を吐く。

しかしライドは後ろを振り向き、ただただ戦況を見つめているだけの姫の護衛兵に向かって叫んだ。



「お前達、今すぐ逃げろ!!!!」


その声と同時にフレアドラゴンの口に集まる熱き炎。そしてそれが大きな塊、灼熱の塊へと変化する。


「ヘヴィーシールド!!!!」


ライドは重くなった体に力を入れシールドを張る。そして大声で叫んだ。



「フレアプロードおおおおおっ!!!!」


ドーーーーーン!!!


フレアドラゴンの口が鮮紅《せんこう》に光る。

それを中心に起こる灼熱の爆裂。

触れるものを全て溶かす焦熱の爆発。


攻撃を受けたカオスドラゴンが本能的に防御姿勢を取る。そしてライドはシールドを保ちながら後方の護衛兵に再び叫ぶ。


「早く、皆全力でここから退避しろ!!!!」



しかし目の前で行われている上級【ヒトナキモノ】同士の激しい戦闘。それに震え、動けなくなる兵士達。やがて赤煙が収まった後に現れる真っ黒なカオスドラゴン。

ライドが驚く。予想以上にダメージを与えられていない。ただ、同じ場所にいた同じくベルドの【ヒトナキモノ】であるミノタウロスは、全身が黒く焦げ酷い火傷《かしょう》を負っている。


ライド同様に、ゼイゼイと息が激しくなるベルド。ミノタウロスの火傷がダメージとして伝播している。しかしベルドは予想外の行動に出た。



「行《ゆ》けえええ!! ミノタウロス!!!!」


瀕死のミノタウロスに突撃の命《めい》を下したのだ。

【ヒトナキモノ】が死ねば自分も危ない。そんな危険も顧みずに、指令を受けたミノタウロスが巨大な斧を持ってフレアドラゴンに襲いかかる。

一瞬驚いたライドだが直ぐにフレアドラゴンが、その負傷したミノタウロスを鋭い爪で一刺しにする。


しかしその瞬間ライドは気付いた。

ミノタウロスの体が攻撃される直前から白く消えかかっていることを。

ミノタウロスが消え入りそうな体でフレアドラゴンの足を押さえる。その間に後方に移動していたカオスドラゴンは、しっかりとその漆黒のブレスを吐き出す準備を整えていた。そして吐き出される漆黒のブレス。



「グワアアアアア!!!」


フレアドラゴンは足にまとわりつくミノタウロスが邪魔で、そのブレスを回避できない。漆黒のブレスがフレアドラゴンを襲う。


「ぐぐっ、ぐはっ!!」


ダメージを受けるフレアドラゴン。そして同様にダメージを受けるライド。血を吐きながらその場に膝をつく。絶え間なく吐き続けられるその漆黒のブレスが、ライドの体を褐色に染め上げて行く。


しかしそのイリス王国屈指の護衛士は、臆することなく右手を上げ力を込め叫んだ。



「ヘヴィーシールド・二十連!!!!」


目の前に張られる無数のシールド。自身と後ろの護衛兵を厚く守る。その壮観な景色に驚きの声を上げる護衛兵達。更にライドが叫ぶ。


「早く、早く逃げろおお……!!」


しかしその声と同時にライドのシールドにヒビが入り、分厚い盾も漆黒の闇に飲まれやがてボロボロと崩れゆく。そしてゆっくりと兵士皆に降りかかる漆黒のブレス。その多くの者がただそれを眺めているだけしかなかった。


そこで兵士は意識を失った……





そこまで聞いたハウル国王は目をつぶり、頭を抱える。そして大声で言った。


「ベルドの奴、許さぬぞおお!!!」


静まり返る一同。王は兵に問う。


「姫達はどこに飛ばされたのかは、分からぬのか?」


兵士が答える。


「分かりません。ただライド様のご子息、護衛士のハルト様がご一緒かと……」


みるみる顔が赤くなる王。そして言う。


「そんな三流の護衛士に、我が姫が守り切れるのか!!!」


その声に恐れる兵。続けて王が叫ぶ。


「ベルドを、ベルドを王の間にすぐに呼べ!!!」


王はそう従者に言うと直ぐに王の間へと戻って行った。




突如王の間に呼び出されたベルド大臣。

まだ状況を理解していないベルドは王に会うと笑顔で挨拶をした。王が大声で言う。


「ベルド!! この裏切り者め!!! 許さんぞ!!!」


その声と同時に王の間の柱やカーテンから現れる兵や魔導士達。ベルドが答える。


「王よ、これは一体どういう事で……?」


まだ余裕の表情のベルド。王が激怒して言う。


「我が娘達を襲った不届き者めが!! 何か言い訳はあるか? 無いのなら今ここで斬り捨てる!!」


その言葉ですべて察したベルドが溜息をついて答えた。



「言うこと? ありますよ。……計画が潰れてしまい、ざ~んねん」


「き、斬れえええ!!!」


真っ赤な顔になったハウル国王が兵達に命じる。

放たれる数え切れない攻撃魔法に弓矢。すぐにベルドは両手を横に突き出し魔法を唱える。


「魔法障壁っ!!!」


自身の前に現れる薄い半透明の壁。ベルドの魔法障壁が兵達の攻撃を次々と打ち消す。狼狽える兵士達。続けてベルドは右手を挙げて召喚の詠唱を始める。



「我が名はベルド、その名に……、ぐっ!?」


詠唱を始めたベルドの右腕に何やら緑色の結界が張り付くように出現する。驚いたベルドが言う。


「まさか、対召喚用の結界!?」


王が言う。


「お前には好きにさせん!!」


その声と同時に再び撃ち込まれる無数の魔法と弓矢。ベルドは魔法障壁を張る余裕すらなくその攻撃を受ける。

立ち上がる煤煙《ばいえん》。しかしそれが収まるとそこには不敵な笑みを浮かべるベルドが立っていた。


「べ、ベルド、その姿は……!?」


一回りも二回りも体が大きくなったベルド。その皮膚は黒褐色でもはや魔物に近い姿である。王が言う。


「魔物……、なのか……?」


ベルドは王を睨みつけると小さく言った。


「王よ、頼みがあります。……死んで頂きたい」


そう言ってベルドは大きく跳躍。天井を突き破り、城の上空まで飛ぶと再び召喚魔法を唱え始める。


「召喚、カオスドラゴン!!!」


「ゴワアアアアア!!!!」


叫ぶカオスドラゴン。そしてその大きな口から真っ黒な弾丸、暗黒弾を発生。すぐに真下にあるイリス王城に向けて放った。


ドーーーン!!!


攻撃を受け半壊する城。


「うふふふっ、ははははっーーー!!!!」


ベルドは崩れ行く王城を見て笑う。そしてそれを確認するとその場から飛び去ろうとした。



「!?」


しかしそのすぐ前に何か別の魔族がいることに気付く。強大な魔力。そのあまりにも大き過ぎる魔力に驚き、そして自然と体が震え出すベルド。これまで仕えていたグラリスよりもずっと大きな力。恐る恐る尋ねる。


「あ、あなたは……?」


その魔族が答える。



「我はヴェルナ」


ベルドは魔(・)族(・)の本能的で、無条件にて目の前の人物に従おうと決めた。

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