54.襲撃
「きゃああああ!!!!」
「うわっ、ごめん!!!」
「あ、あなたまた何やっているの!!!」
バン!!
「痛ってぇ!!」
リティの叫び声に、謝るハルトの声。そして怒鳴るクレアの声。
『独立と勝利軍』の地下神殿を出たハルト達。バド達にお礼を言って、再びフレアの隠れ家に戻って来ていた。
「ど、どうしてあなたはそんなに変態なの!?」
クレアが顔を赤くして怒っている。ハルトが必死に言い訳をする。
「いや、だってトイレに行こうと思ったらリティが水浴びしていて……」
フレアの隠れ家はトイレと水浴び場が一緒になっている。狭く簡素な小屋なのでその様な作りは仕方のないことだった。バスタオルを巻いたリティが顔を出して言う。
「ううん、私も鍵を掛けてなかったんで悪かったです。ごめんなさい……」
それを聞いたクレアが言う。
「いいの、いいの、こいつ変態だから。私やルルも何度も覗かれてるし」
そう言いながらクレアの顔がだんだん赤くなっていく。
「いや、俺はそんなこと何度もしてないぞ……」
そう言いかけたハルトの顔をぐっと睨むクレア。
「どうしたんだ、一体?」
騒ぎを聞きつけたフレアがやって来る。簡単に事情を話すクレア。
「……なるほど。で、ハルト。リティは未だ未婚の女性。責任を取るつもりはあるのか?」
フレアの真剣な顔にたじろくハルト。
「い、いや、責任って……」
クレアが言う。
「せ、責任ってどう言う事よ! それはダメ! ハルトは私の……」
そこまで言ったクレアが固まる。
「私の……、何だ?」
フレアが振り返って聞く。
「なっ、何でもないわよ! ハルトは私の護衛士! ちゃんと守りなさいよ!!」
そう言うとクレアは顔を赤くして出て行った。
「はあ、ありがとう、フレア。……って礼を言ってる場合じゃないな」
フレアが言う。
「ハルト。無論、覗くつもりはなかったんだろうな?」
ハルトは胸を張って言う。
「あったり前だろ! 断言する! 俺は全くそんな気は無い!!」
フレアは大きく頷くと、ドアの影からこちらを眺めているリティに言った。
「リティ、安心しろ! ハルトはお前の身体なんかには全く興味が無いそうだ!!」
「えっ……」
無言になるリティ。対照的に満足そうに何度も頷くフレア。ハルトが苦笑いして言う。
「いや、それはそれでまた別の誤解を招く様な気がするんだが……」
ハルトは笑顔のフレアに引っ張られてその場を後にした。
「コホン、では始めようか」
フレアが軽く咳をしてから言った。
その日の夜、ハルトとフレア達は部屋に集まり今後の方針を話し合った。
気のせいか、ハルトを見るリティの顔が赤くなっている。クレアは眉間にシワを寄せハルトを見ている。
「私はリズを探しにゴブニル国へ行く。必ずあそこに捕まっているはずだ」
そんな空気を意にせず、フレアは覚悟を決めた顔つきで言った。
「行くって、行ってどうする? 作戦は?」
ハルトが尋ねる。
「うーん、ない。俺の槍でケリをつける」
フレアはそう言うと部屋の隅に置かれた愛用の槍を自信満々に見た。
「はあ、やっぱり、その……、残念な人ね……」
クレアが溜息をついて言う。
「本来ならばあの『独立と勝利軍』と連携するのが最善の選択肢なんだろうけど……」
ルルが青い髪を触りながら言う。
「そうだな。でも何かあいつ等には違和感を感じる。具体的にはこれと言ったものはないんだが……」
「そうね、私もあいつ等はなんか嫌い。一緒に戦えないな」
ハルトの言葉にクレアも賛同した。
「ん? ちょっと静かに……」
急にハルトが真剣な顔になる。
「どうしたハルト?」
フレアが小声で言う。ハルトは素早く窓際の壁に行く。そしてゆっくりと窓の外を見た。
(……あれは!!)
外には鎧を着こんだゴブリンやトロールの兵が小屋を取り囲んでいた。忘れもしないゴブニル国の兵士。
その中央には巨漢のトロールの指揮官らしき人物もいる。ハルトはすぐに皆の元に行き外の様子を伝える。
「みんなすぐに戦える準備を! 敵に囲まれている!!!」
「なんだと!?」
フレアが窓際まで行きゆっくり外の様子を確認する。ぐぐっと歯を食いしばるフレア。
「くそっ、どうしてここが分かった!?」
「一点集中攻撃で突破口を作る。そこから一気に脱出する。手を貸してくれフレア!」
「ああ、もちろんだ!!」
ハルト達は急ぎ戦闘の準備をすると、全員一斉にドアから飛び出た。
「サンダーボルトーーーーっ!!!!」
ハルトのルフトアールによる先制攻撃が始まった。隊を組んでいたゴブニル兵の真ん中にその雷が落とされる。
ドーン!!
「ぐわあああ!!!!」
「行くぞ!!!」
ハルトの号令でフレアやクレアが敵に突入する。
カンカンカン!!!
「ぐわっ!!」
突如現れたフレア達に必死に応戦するゴブニル軍。
「今だ、突破するぞ!!!」
その声に勢いづくようにさらに激しく斬りこむ一同。ようやく体勢を立て直したゴブニル兵も抜刀して応戦する。
「アイスシールド・多連!!!」
先日覚えたばかりの新しいシールドを出し敵兵の剣を防ぐハルト。
「ぐわああ!!!」
集中攻撃した個所の兵が次々と倒れていく。
――行ける!!
皆がそう思った。しかし、
バリン、バリン!!
音を立て無残に割れるハルトのシールド。
「ふんっ!!!!」
前進していたフレア達が一旦後退する。そこには巨漢のトロールが立ち塞がっていた。
「俺はゴーニル大王親衛隊の隊長アードル。汚らわしヒト族の浄化に来た。大人しく消えろ!!」
アードルはその巨漢に相応しい太く長い槍を持って言った。
「親衛隊の隊長だと?」
ハルトが剣を構えて言った。
「なぜこの場所が分かった!」
フレアが大きな声で言う。アードルが笑って言う。
「下賤者の考えることを、高貴な我らが分からぬとでも思ったか?」
この隠れ家はリティの特殊な結界が張ってあり、簡単には見つからないようになっている。フレアは何かがおかしいと感じた。
「とりあえず浄化、始めましょうか」
そう言うとアードルはその大きな槍をぐるぐると回し始め近づいてくる。
「くっ、シールド!!!」
ハルトがアードルの前にシールドを張る。しかし今回もその槍によって簡単に砕かれる。
「サンダーボルト!!!」
ドン!!
「なっ!?」
ルフトアールの雷撃を真上から食うアードル。しかし涼しい顔をしている。
「俺様には雷撃は効かないんだよ!!」
そう言うと手にした長い槍で攻撃してくる。
ドーーン!!!
間一髪攻撃をかわすハルト達。
「はああ!!!」
フレアやハルト、それにクレアが一斉に斬り掛かる。
「ふわっ!!!」
アードルは大きな槍を振り回し近寄る敵を吹き飛ばして行く。
「ぐわっ!」
後方まで吹き飛ばされるハルト達。気付くと隊の後方にたくさんの魔道隊が控えており、皆が魔法の詠唱を始めている。
このまま長引けばどんどん不利になって行く。ハルトは打開策を必死に考えた。
「ハルト、ここはリティに任せる」
ハルトに近付いてきたフレアが小声で言う。
「どういうことだ?」
そう言ったハルト達の体の周りに白い壁のような物が現れる。
「これは!?」
忘れもしない。
それはハルトと二人の姫を飛ばした父の転移魔法。それと同じ白き壁が体を包む。
「くそっ、逃げるのか!! 撃て、撃て!!!」
リティの転移魔法に気付いたアードルが後方の魔道隊に攻撃命令を下す。
迫り来る炎や雷撃の魔法攻撃。しかしそれを受ける前にハルト達の体は白くなって消えた。
ドン!!
「きゃあ!」
「いててて」
リティの転移魔法で移動してきたハルト達。気が付くと地面に叩きつけられていた。
「痛ああーーーい!!」
クレアがお尻の辺りに手を当てながら言う。
「お、重いんだが……」
ハルトが言う。
「えっ、それって私のこと!?」
ハルトの上に乗っていたルルが顔を赤くして言う。
「と、とりあえず降りてくれ、ルル……」
「ハ、ハルト! 重いってどういうことよ! 私そんなに重くないよ!!」
顔をぷくっと膨らませながらルルが怒って言う。
「みんな大丈夫か!!」
ハルトは改めて皆を見て言う。そして目を大きくして言った。
「リティ!!!」
バタン
リティは青い顔をしてその場に倒れ込んだ。




