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護衛士ハルトとふたりの姫様  作者: サイトウ純蒼
第二章「ヘブンズウォール編」
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31.魔人ゼノ

光の柱が消え、その中から現れた真っ白な飛竜。大きく広げられた白き翼がゆっくりと動き、その威厳ある姿はまるで天から遣わされた竜のように神々しかった。


「せ、聖飛竜せいひりゅう……」


その姿を見たリレルが言う。


「聖飛竜って、リーヴァじゃ……」


リレルに乗ったハルトが言う。リレルが答える。


「リーヴァ様は聖飛竜でも完全体ではなかったんです。里の伝承によると真っ白い姿の竜こそが正当な聖飛竜だと……」


目の前で羽ばたく白き飛竜はまさにそれだとリレルは続けた。

白き飛竜はゆっくりとハルトの方へ近づいてきた。よく見ると目から涙を流している。そしてその飛竜は、ラクネルであった。



「ハルトさん、僕と召喚契約を結んでください……」


聖飛竜ラクネルはハルトの前に来て頭を下げて言った。質問をしようとするハルトよりも先にラクネルが言う。


「兄は、リーヴァ兄さんは死にました。僕を助けるために……」


それを聞いた飛竜達が騒ぎ始める。その声に泣き声が混ざり始める。そしてラクネルを仲間だと認めない一部の飛竜達が心無い言葉を吐く。


「俺達の団長を返せ!!」

「魔竜が今さらなんだ!!!」


それを聞いたハルトが周りにいる飛竜達に何か言おうとした時、



「黙れ!!!」


と、別の者が大声で叫んだ。それは新団長リレルである。


「団長は、リーヴァ様は自分のことや家族のこと、全てを犠牲にして俺達や里の為に尽くしてくれた……」


そう言うリレルの目には大粒の涙が溢れる。


「最後ぐらい、最期ぐらい団長の我が儘、聞いてやろうじゃないか……」


リレルが目に溢れる涙を拭う。団員達からも悲しみの鳴き声、哀哭が聞こえてくる。

まっすぐにハルトを見つめるラクネルが言う。



「ハルトさん、兄の遺志です。僕と契約を結んで、ゼノ討伐に力を貸してください」


ラクネルの目を見たハルトはすぐに頷いて答えた。


リーヴァ(あいつ)に頼まれちゃ断る筋はねえ。分かった」


そう言うとハルトは召喚域を展開し、そしてラクネルの頭に手を乗せ契約の詠唱を行う。すぐに白く消えるラクネル。そして大きな声でその聖飛竜を呼び出した。


「我が名はハルト。その名に契りし盟約により汝を呼ばん!! 召喚【聖飛竜ラクネル】!!」



ハルトの目の前に現れた魔法陣からラクネルが召喚される。その姿はやはり神々しく、そしてその顔は涙で濡らした顔ではなく、ひとりの男として決意を決めた凛々しき顔であった。

素早くクラクネルに乗り移りハルトが言う。


「これより里の敵である魔人ゼノ討伐に向かう!!! 心ある者、そして亡きリーヴァの遺志に応えたいと思わん者は我に続けっ!!!!」


「オウウウウウウウ!!!!」


飛竜達はハルトの呼び掛けに鳴いて共鳴し、そして武器を叩き音を立てて賛同した。



聖飛竜ラクネルに乗ったハルト、そして新団長リレル、その他斥候団の精鋭部隊の一行は、魔人ゼノ討伐の為さらに奥地へ向かった。

通常の遠征では来ることがない壁上の奥地。無言で飛び続ける一行だが、それぞれが特別な緊張感を持って飛んでいた。


「ハ、ハルト。大丈夫なの……?」


飛竜の背中に乗り不安そうに尋ねるクレア。ルルも同じく心配そうな顔をして見つめる。


「分からない。ただ今この戦力で敗れるようならば、どちらにしろ勝ち目はない」


「そ、そうね……」


気のせいか顔が青くなるクレア。ルルも真剣な顔になる。

それよりハルトは、聖飛竜になってもまだ真っ直ぐ飛べないラクネルの方が心配であった。




「ハルトさん、あれです!!!」


不意にラクネルが前方の平原を歩く二つの人影を見て言った。


(……ヒト族?)


遠くからはよく分からないが、その姿はまるで自分達と同じヒト族のような姿をしていた。ラクネルやハルト達の接近に気付いたのか、そのふたつの影が止まり振り返ってこちらを見る。

ハルト達はその二人に対峙するように少し距離を置いて降り立った。



――何という強烈な負のオーラ!!


ハルトは一番にそれを感じた。

男と女。男の方は大きな剣を肩に担ぎ、女の方は軽装で小さな杖を持っている。男の方からは強い負のオーラを感じるが、女の方からは特に何も感じない。男の方が口を開く。



「お前は里の者か? 見たところヒト族のようだが」


ハルトが言う。


「お前がゼノか? なぜ里を襲う!!」


ゼノは首を少し左右に振りながら答える。


「別に里には恨みはねえんだが、ある人に頼まれてよお。お前、邪魔をするなら斬るぞ」


ゼノの目が強烈にハルトに訴えかけてくる。目力めじからだけで相手を威圧できるとはこのようなことだろうとハルトは思った。


「ゼノ……」


隣にいた女が心配そうにゼノの名を呼ぶ。


「大丈夫だ、シノン。お前は下がってろ」


シノンと呼ばれた女は頷くと後方に下がる。ゼノはハルトと一緒にいたラクネルに気付いて言った。


「そっちの飛竜は、もしかしていつも俺に向かってくる黒い竜か? 雰囲気は変わっちまったが多分間違いねえ。邪が抜けたな」


ゼノは大剣を前に構えながら余裕の表情で語りかけてくる。ハルトが言う。


「里には手を出すな。そう約束できるなら俺達も手は出さない」


ハルトの呼び掛けを意外に思ったのか、ゼノは少し苦笑しながら答える。


「何言ってんだ、お前。頭の中はお花畑か?」


ゼノは笑って言う。ハルトが叫ぶ。


「状況を見ろ!! お前たち二人に対し俺達は一団。多勢に無勢。それでも一戦交えるつもりか?」


「つもりだ」


ゼノは即答し、構えていた剣を思い切りハルトに向けて振り下ろした。剣から発せられる凄まじい衝撃。ハルトはすぐにその衝撃に対して防御姿勢をとる。


「ブロンズシールド、多連!!!」


ハルトの前に数枚のブロンズシールドが出現。間一髪、ゼノが放った衝撃波を防いだ。と、思われた瞬間。


バリン!!!


「ぐわっ!!!」


ゼノの衝撃波はいとも簡単にハルトのシールドを打ち破り、そしてハルトに直撃した。


「ハルト!!!」


ルルが叫び、急いで駆け付けて回復させる。

少し離れた場所に立つゼノ。剣を肩に担いで余裕の表情で言った。



「弱いな、お前」


そこにいる誰もが無言になった。

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