19.別れの宴
「ライト、アクア。色々ありがとう」
ハルトはゴールドバードに乗る前に二人にお礼を述べた。
「よい。くれぐれもゴールドバード様に無理をさせぬようお願いする」
ライトは不安そうな顔をして言う。アクアも寂しそうな顔をしてハルトに答える。
「気をつけて、ハルト」
「アクア、元気出しなよ!」
アクアの隣にいたクレアがトンと背中を叩いて励ます。
「うん……」
ファイヤを失ったアクアの心の傷はまだ癒えてはいないのは明白だ。ただこれからの彩国には必ず彼女の助力が必要となる。
ハルトは彼女を見つめる。きっと彼女自身それを理解しているのだろう。悲しみの中にも、その目の奥にある力強い決意を感じた。
「ん? あれは土の奴なんじゃじゃねえか?」
ハルトはライトの後ろに居る土のゴーレムに気付いて言った。
「あれ、本当ですね?」
ゴーンを倒したガイアもそれに気付いて言う。
「ああ、彼は私が作り直しました」
「作り直した!?」
驚くラガイア。ライトが言う。
「ええ、核さえ壊れていなければ、何度でも作り直せます。それにしても派手に壊してくれましたね」
「ええっと、まあ、粉々に……」
ガイアは苦笑いしながら言う。それを見ていたゴールドバードが言う。
「そろそろ行くわよ、ハルちゃん。あなた辛いんでしょ?」
ゴールドバードにせかされて背中に乗る一行。ハルトの顔色は既に悪くなっている。
「わあ、ふかふかだ!」
神鳥の背に乗ったルルがその羽毛を触りながら言う。
「ほ、本当に大丈夫か。私は高いところ苦手なんだよ……、落ちないよな……」
ハルト同様に顔色が悪いガイアが言う。
「ちょ、ちょっとあなた! 不吉なこと言わないでよ!!」
そのガイア以上に顔色の悪いクレアが言う。
「じゃあな!」
ハルトがライト達に手を振ると、それを合図にゴールドバードが大きな羽をはばたかせ山頂から一気に急降下した。
「きゃあああああ!!!!」
急降下し体が浮く感覚。吹き付ける強烈な風。目まぐるしく回る風景。そして叫ぶクレア。
「お、おい! あんまり大きな声出すなよ。頭に響く」
ハルトがクレアを見て言う。
「ぎゃああああああ!!! 速い速い速いいいい!!!!!」
しかしそんな声はクレアには届いていないようであった。
予想よりもずっと高速で飛ぶゴールドバード。美しき景観を誇る彩国。ただ必死にその背中に捕まっている一同に、そんな景色を見る余裕などなかった。
そして速さと高さの恐怖に耐えること数十分、ハルト達の目の先に見慣れた風景が現れた。ウェアウルフの里である。
「着いたわよ」
そう言ってバタバタと羽をはばたかせ、ゆっくりと里の前に降り立つゴールドバード。
「ハルちゃんはもう無理ね。召喚力が尽きかけている。わらわも辛いわ。じゃあね」
そう言ってゴールドバードは召喚界に戻る。
青い顔をして地面に仰向けに横たわるハルト。同様にクレアとガイアもふらふらと倒れる。比較的元気なルルだけが周りを確認する。
「ハルトおおおーーー!!!」
里の中から聞き慣れた声がする。ゴールドバードの飛来を見たウェルスが早速駆け付けて来てくれた。しかし一行を見て驚くウェルス。
「お、おい! みんなどうした!?」
ハルトを始め、クレアにガイアが地面に倒れている。ルルがウェルスのところにやって来て言う。
「大丈夫よ。ちょっと休憩させてあげて」
ウェルスは目を何度も瞬きしながらその不思議な光景を眺めた。
「乾杯ーーーーっ!!!」
ハルト達の回復を待ってウェアウルフの里ではハルト達への感謝と、そしてお別れを兼ねた宴が開かれた。
会場には長を始めマスターウルフのガイアにラーゼ、そしてウェルスに火事で助け出された彼の妹ライも来ている。
「ハルトぉぉーーーー!!」
会場にいたハルトにウェルスの妹ライが走り寄って抱き着く。そしてハルトの腕や手をぺろぺろと舐めだす。
「おう、お前はウェルスの……」
「そうだよ。ハルトに助けて貰った妹のライだよ!」
ライは嬉しそうにずっとハルトに抱き着きまだ舐めている。ハルトは頭を撫でながら言う。
「もう体は大丈夫なのか?」
「うん、平気だよ!!」
そこへ現れるウェルス。
「これ、やめないか! そんなにハルトを舐め回すんじゃない!!」
ハルトは苦笑して言う。
「いいよ、ウェルス。もうすぐお別れしなきゃならないんだし」
それを聞いたウェルスは目を赤くしてハルトに抱き着く。
「ハルトぉぉ~、お前が行ったら寂しくなるぞ……」
そう言ってウェルスは遠慮なしにハルトの顔を舐め出す。
「うわっ、よせ! お前はいかん!!」
一緒に居たクレアが言う。
「何やってるのよ、男同士で。気持ち悪いわ。まったく……」
クレアとルルが二人を見ていると、そこに長がやって来た。
「ハルト殿、この度は誠に感謝致す。我等を長年苦しめておった隣国との争いを収め、そしてこの地に平和をもたらしてくれた。何とお礼を申し上げればよいか」
ハルトが言う。
「気にするな、長よ。ここに来た時、俺達もみんなに助けて貰ったんだ。それに国へ帰る為の手段も手助けして貰っている。感謝したいのはこちらの方だ」
長はハルトの話を頷きながら聞く。そして言う。
「ハルト殿のこれからに祝福あらんことを祈る。うちのバカ息子もハルト殿のようになってくれれば嬉しいんじゃがのう」
長は隣にいるウェルスをあえて見ずに言う。すぐに表情が変わるウェルス。ハルトが言う。
「長よ。心配しなくてもいい。彼はもう立派な男だ」
長は少し驚いた表情を見せたが、軽く頷くとハルトの肩を叩いて「ありがとう。楽しんで行ってくれ」と言ってその場を去った。
納得いかない表情のウェルス。ハルトはそんなウェルスの顔を見ながら、渡された飲み物を一口飲む。ウェルスが言う。
「ハルト、ちょっと付き合ってくれないか」
ウェルスはそう言うとハルトを会場外に誘う。
外は少しひんやりとした風が吹き、月が綺麗な夜空が広がっている。
ハルトはここに連れられて来た日を思い出した。あの日の夜空もまた美しかった。不安に潰されそうになった最初の夜。しかしウェルス達のお蔭でそんな不安も懐かしいものとなった。
早いものでもう明日ここを去らなければならない。そう思うとこの景色がなんだかとても愛おしく感じた。
「で、どうしたんだ、ウェルス?」
ウェルスは少し遠くの方を見ながらハルトに尋ねた。
「ハルトは、護衛士だよな」
「ああ」
「誰かを守るって、大変なことか。やっぱり」
急なウェルスの質問に少し驚きながらもその質問に答えた。
「大変なことだよ。でもそれによって得られるみんなの笑顔は最高だ」
「そうか、みんなの笑顔か……」
ウェルスは自分に言い聞かせるようにつぶやいた。ハルトが言う。
「ウェルス、お前とは明日でお別れになるが、自分の信じた道を行って欲しい。それが人に歓迎されようが否定されようが。俺はお前を応援する。そしてお前の味方だ、この先もずっと」
ウェルスは目に溢れる涙を悟られないように大きな声で言った。
「ありがとよ、ハルト!! さあ戻ってたくさん食べようぜ!!!」
ウェルスはそう言うとハルトに背を向けて会場に戻って行く。
「ああ、どこまでも付き合うぜ!!」
ハルトはウェルスの肩を抱き、一緒に会場へ向かった。
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