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外壁と生存の記憶 2


 ――人間が嫌いになったのはいつからだろうか。


「見てください、これがコウジ君ですよ。物凄く愛くるしい顔をしていますよね」


「ただの人間じゃないか。私にはその他大勢の人間と何が違うのか分からない」


「分かっていないですね。この眉毛ラインを見てください――ここがああでこうで」


 スライムは今日もお喋りだ。


 私にとっての判断基準は美しいか、美しくないか。


 それに照らし合わせると、コウジという人間は全くそれに合わない。


「あ、それと、いつまでゴギュゴギュ言っているんですか。もう喋れる身体になれるんですから人間化して喋ってはいかがですか?」


「人間の前で人間化を行うつもりはない。『不細工』などと言われた日には死ぬしかなくなるからな」


「何をそんなに心配しているんですか? 十分美人な顔していますよ」


「魔物に言われても何も響かない」


「魔物って……アオイロって呼んでくださいよ。コウジ君からもらった大事な名前があるんですから」


「あの人間に対する貴様の執着は目を見張る物があるな。そこまで言ったらもはや宗教だ」


「変ですね……。アズモ教があったら、コウジ教もあって然るべきなんですけどね。あ、そう言えばあなたは私と逆で人間が嫌いなんでしたっけ?」


「ああ、その通りだ」


 ――昔は、人間は守るべき対象で好きだった。


「いつからですか。流石に、こんな立派な『人間が住む為』の街を作った後ですよね」


「人間が住む為の街? 昔の私にそんな気があったか知らないが、この街はそう見えるのか?」


「見えますよ。だって、住居の大きさが人間のための物なんですから」


「家は人間がこの街に勝手に作った物だろう」


「そうですかね? 一部の住居はあなたが作った物のように見えますけど」


「……」


 確かにそうかもしれない。


 少し思いを馳せてみる事にした。



―――――



「匿ってください」


 深夜、逃亡者がやって来た。

 液状なのか、固形なのかよく分からない不定形の魔物。

 切羽詰まった様子でやって来たそいつは私の作った壁を壊して侵入して来た不届き者……いや、こいつスライムだな。



―――――



「おい、貴様」

「なんですか」


「私の回想に出て来るな」


「えー……なんですか急に。なんですか急に案件ですけど、それは無理じゃないですか。私とあなたは切っても切れない縁で結ばれていますし、その証拠に要所要所でちまちま会っていますから」


「はあ……確かにそうだな。なんで貴様なんかとこんなよく分からない仲になってしまったのか……」


「え、友達ですって? 中々積極的ですね」


「言っていないが。私と貴様が友達……はああ?」


「何、恥ずかしがっているんですか。気持ち悪い」


「貴様の方が気持ち悪いわ」


「だいたい友達など必要ない物だろう。必要なのは、スズラン様や、最近来たラフティリという子などの美しい者共の尊い人だけで充分だ」


「はあ出た出た。見た目主義者。色々面倒な偏見持ってそう」


「む、失敬な。私が持っているのは審美眼だけだ。そのものが美しいか、美しくないか瞬時に見極める力。それで言ったら、この家……スタルギと言ったか? まあ機械龍の邸宅は良い。こう、庭の細部に至るまでの趣向が感じられて非常に趣きを感じられる」


「はあ出た出た」


「帰れ、家の中に。貴様と話す事などもう何もない」


「家の中に入る事が許されている見た目が汚くない私は返りますよーっと」


「ぶっ殺してやろうか」


「ひえ、怖。退散退散」


 スライムは人間化した小さい身体を動かしながら家の中に入っていった。


「ふむ、あの馬鹿に時間を取られたが、実際いつからだっただろうか。人間を嫌い出したのは……」


 再度、思いを馳せる。



―――――



「よお、邪魔するぜ」


 誰だったか、そいつは。


「お前がこの場所を作ったんだろう」


 そいつは、私の陣地に入ってきていきなり地面をぶっ壊して私の元にやって来た。


「誰だ、貴様は」


 壊された地面を直し、地中を元の暗い場所へと治す。


「機械魔法・灯火」


 すると、そいつは魔法を使い周囲を明るく照らし出した。


「おお、俺は醜美に興味がない方だが中々綺麗な人間体をしているな」


「誰だ、貴様はと聞いている」


「ああ、すまんすまん。これから住む場所の大家にくらいは挨拶しないとな。俺の名はスタルギ、家名は無い。二十五歳独身、娘有。このちっちゃいのが娘だ」

「私は、フィーリアです……。七歳です。よろしくお願いします……」


 よく見ると、スタルギと名乗った奴の後ろに隠れるように小さな女の子がいた。


「パパ、この人、誰……?」


 白い肌に白い髪の女の子。

 綺麗だ、と思った。


「この場所を作った魔物だ。これから俺達がお世話になるな」

「それって凄い魔物ってこと……?」

「そうだ、だから礼儀として挨拶しに来た」

「こんなに地面壊して大丈夫だったの?」

「大丈夫だろ、直ぐに直せるみたいだし」

「そうかなあ……」


 親子が私の陣地にやって来た。


「……厄介事だけは持ち込むなよ」


 私はそれだけ言って二人の目の前から去った。


 何も無いのも不便だろうと思い、住処を作ってやった。


 しばらくして外壁の一部が壊された。

 あのスタルギとか言った奴の仕業だろう。

 厄介事を持ち込むなと言ったのに、何を考えているのだろうか。


 とにかく直すか。


「おい、いるんだろう」


 直そうとしたら声が聞こえた。

 地面に潜っているため、私の姿は見えないはずなのに、そいつは直感だけで私が居る事を見抜いた。


「ここに、この場所の門を作ってくれないか」


 そして、歪な事を言って来た。


「お前、何かを守るのが好きなんだろ? なら、ここに沢山家を作って沢山の人を住まわせようぜ」


 家を作り、人を住まわせる?


 何を言っているんだ、この男は?


 だいたい私が、『何かを守るのが好き』だと?


 勘違いも甚だしい。

 私は目の前で、自分の知っている範疇で生命が失われる事が嫌いなだけだ。


「無理強いはしねえ。その気がないなら、この壁も直しちまっていい。だけど、もし、その気があるのならここに立派な門を構えて、家を沢山作ってくれ。俺達にやってくれたように」


 スタルギが去った後に、壁は直した。元通りに。

 だが、思う所があり、別の場所に門を作った。

 スタルギ達の住む家から離れた場所に。


 その方が二人にとって安全だと思ったからだ。


 脳裏にはあのスライムの事が浮かんでいた。

 私が守れなかったあのスライムは無事だろうか、と。


 またしばらくして、ぽつぽつと人が入って来て、住み始めた。


 身寄りのない子や、その場所に馴染まなかった子、新天地を目指しに来た子……様々だ。


 人が住み、増え、ルールが出来ていく。


 ただの場所だった空間が街になっていく。


 私は想像以上に増えていく、人のために家を続々と作り続けた。


 住む場所がないのは困るだろう。


 段々と楽しくなってきた。


 時々、人間体で自分の創った街を練り歩くのが趣味になった。


 みな、思い思いに生きていた。


 あの日見た親子のように家族を作って、暮らしているものもいた。


 あの時、守れなかったものが今は守れる。


 私は人間を守っているのだ。


 ただ、少し思う所があった。


 私の作った家が改良されている?


 土を木と一緒に練り固めて作っただけの簡素の家に装飾が施されている。


 色が塗られていたり、装飾が施されていたり、果ては家の形が変わっていたり様々だ。


 だけど、そんな事はどうでも良いか。


 この私の作った街にこれ以上何が出来るか。


 今はそれを考えるのが楽しくてしょうがなかった。


 そうだ、森林を作り、そこに魔物を繁栄させよう。

 狩場と資材調達の場が出来れば、人々の生活も豊かになるだろう。


 ダンジョンを作るのも良いだろう。

 街からのアクセスの良い順に初級、中級、上級と難易度を上げていって狩人用の施設を作ったら面白いだろう。


 上級を超える超級のダンジョンなんて作ってしまったりして、様々なトラップやモンスターで冒険者を試して、最後に私降臨。

 私を倒したら褒美に欲しい物をなんでも一つ作成する……なんていうものも面白いかもしれない。


 私は自分の創った街……いや、箱庭をいかに人にとって面白いものにするかを考えるのが好きだった。




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