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折角(?)なので、秋をお題に一本。

連載小説ですが、短期間にちまちま更新して終わる予定です(*´ω`)

「あ……ちょっ…………。せん……ここじゃ駄目だ……」

「暗いから大丈夫。だから、全部僕にゆだね――」


「アホか」


ぱしゅ。

いつもの丸めた雑誌の代わりに、洸祈(こうき)は絞ったタオルで千里の頭を叩く。そして、(あおい)の背後から被さり気味の千里(せんり)の頭に温泉マークのタオルが乗った。




そう、10月の秋真っ盛り、用心屋御一行+αは温泉に来ていた。




「アホじゃないもん!全裸の恋人が隣にいたら、襲わないわけにはいかないじゃん!星も綺麗だし、雰囲気もあるし!」

「だからって、温泉で盛るな」

真っ赤になって踞る葵の隣に入る洸祈。

「ご、ごめん……」

「なんで葵が謝るんだ。悪いのはちぃだ」

「ふんっ。あおはちゃんと感じてたもん。ロマンチックな雰囲気に興奮してたもん」

「ちょっ、千里!」

葵は千里の口を塞ごうと手を伸ばし、その手を捕まえた千里。千里は手のひらと葵の焦った顔を見比べると、舌を出して手の水掻きの部分をツツとなぞった。

「んっ!!」

ばちゃりと水面が揺れるほど動揺する葵。

彼は洸祈の方へ逃げようとするが、千里が手を掴んでいるためにできない。

「せん、嫌だっ!」

「嫌じゃないでしょ。辛いくせに。頑張って歩いたら、あっちでその辛いの治してあげるよ」

「っ……!!」

千里は葵に近寄り、決して唇が触れない距離で小さく囁く。ぷるぷると震え、葵は耳まで真っ赤にした。

「誰のせいだと……」

「僕のせいだから、責任は取るつもりだよ。僕の体も心も君にあげる」

「ばっ……!……恥ずかしいこと言うな!」

叩くつもりが、力が出ずに千里の胸板に触れる葵。そのまま、千里の肩に額を乗せる。

「うう……お前の責任だ…………どうにかしろ……」

「うん。じゃあ、このタオルで隠して……歩ける?」

「…………ああ……」

洸祈によって頭に乗せられたタオルを葵に渡し、千里は葵をエスコートする。ゆっくりしか歩けない葵は秋の夜風にくしゃみをし、怒っていたのも束の間、千里の体に寄り添った。

千里も満更ではない風に葵の腰に手を回して歩く。

そして、露天風呂に入って二人を見上げる洸祈には、葵の尻を撫でる千里の手が丸見えだった。



「慰安旅行だと言うのに、ちぃは葵を休ませる気あるのか?」

「二人を一緒にしたら、あーなることぐらい、想像ついたでしょ」

(れん)は興味なしという様子で源泉が出てくる龍の口を眺める。勿論、千里と葵が露天風呂の方へとやって来る前から洸祈の助けで風呂に入っていた。その後直ぐに洸祈は洗い場に戻っていたが、千里と葵には最後まで気付かれてはいなかった。

まぁ、蓮が座っていた源泉の出口付近は一際暗かったからしょうがないと言えばそうだが、蓮は見たくもないあんなことやこんなことをする二人の姿をばっちりと見るはめになった。

「だからこそ、昨日と一昨日は二人を泊まり掛けの依頼に行かせたんだぞ?」

「年中、一緒にいるからあんまり意味ないんじゃない?君達は普段会えないから、1日か2日いちゃこらしたら満足するだろうけど」

「俺だって慢性的に足りてないから」

「それに、千里君は白髪君よりも性に貪欲に見える」

「え……その言い方だと、ちぃが変態上級者みたいじゃん」

と、その時――

「こ、こここ洸祈っ!!葵君と千里君が!!」

洗い場と露天風呂を繋ぐドアから、陽季(はるき)が勢い良く飛び出してくる。そして、全裸のまま早口であーだこーだと喚きたてるが、吹いた風に体をピンと張らすと、露天風呂に飛び込んだ。

跳ねた湯が僅かに蓮に掛かり、蓮は千里と葵のこともあって、ますます不機嫌顔になる。

「そんなに慌ててどうしたんだ?」

「俺、中で温まってたら声が聞こえて……そしたら、二人が……二人が…………!!」

洸祈にすがり付いて訴えてくる陽季。

何を言いたいのかは、色々鈍い洸祈でも分かった。

「君、仮にも店長なんだから、従業員のモラルの指導ぐらいしときなよ。二人の性欲をどう晴らしてやろうかと悩む前にさ」

「……後でしとく」

「って、あれ?司野(しの)さんと(くれ)君は?中にはいないと思ったけど。まさか……色々繰り広げられている洗い場にいた……!?どうしよう!」

龍の髭をつつく蓮に対して、陽季の顔色は血の気がなく、洸祈はガラス張りの洗い場に目を凝らす。が、中と外の温度差で曇っているため、良く見えない。

――ならば、自ら行くしかない。

「俺が……二人を救出してくる。陽季は俺の無事を祈っててくれ……」

「こ、洸祈……!自分を犠牲にしてまで二人の為に………………うう……でも、俺の為に行かないでぇぇ――」

ずるずる。べちん。

洸祈が立ち上がり、洸祈にすがり付いていた陽季は抱くものがなくなって石の縁に突っ伏した。涙が石を濡らす。

そして、唇をキツく結び、きりっと眉を上げた洸祈はいざ、戦場へ……――


「ねぇ、その茶番劇どうにかならない?そろそろ、静かに温泉に浸かりたいんだけど。少しも休めない」


「せやで。静かに星を見て落ち着きや」

「じゃあ、俺も司野と星を見るー」

寒さで直ぐに風呂に戻った洸祈は蓮と龍を挟んで隣に座っていた由宇麻(ゆうま)の横顔に軽く頭突きをした。由宇麻は洸祈の額にぺちんと優しくでこぴんを返す。

「あれ?司野さんいつからそこにいたんですか?」

「陽季君が来るよりも前からいたで」

陽季は驚くが、千里と葵が洗い場に戻るのと入れ違いで出てきた由宇麻は既に蓮の隣にいたのである。洸祈は知っていて陽季に付き合ったが、陽季は気付いていなかったようだ。

「なら、呉君は?中に?」

「呉君なら向こうや」

「向こう?」

由宇麻が細い手首を向けた先はドアだ。

洗い場へのドアとはまた違うドア。ドアの前には足拭きも置かれ、スタッフの通用口ではなさそうである。

「向こうも温泉?」

「向こうも温泉やけど……混浴やな」

由宇麻はドアの「混」の字を見た。

「……………………へぇ、そうなんだ」

冷えてきた陽季は肩まで浸かって洸祈の傍へ。

…………………………。

広い露天風呂の一角に4人の男が群がり、広くゆったりしたい蓮は溜め息を吐く。しかし、それすらも響くぐらい一同は沈黙していた。

特に洸祈が。

「ちょっと俺、勉強してくるわ」

洸祈が言うと同時に立ち上がる。

そして、

「…………何?」

「いや、想像通り過ぎて」

「ほんまや」

陽季と由宇麻が二人して洸祈の足に抱き付き、洸祈が動こうとするのを防いでいた。そして、洸祈は風呂の中へと引き戻される。

「お勉強って、何の?崇弥は勉強熱心だねぇ」

「………………俺達だけの貸し切りだし、家族なんだからいいだろ。家族団欒だ」

「僕の、遊杏(ゆあん)董子(とうこ)ちゃんもいるんだよね」

じろりと洸祈を睨目上げる蓮。

洸祈はその冷たい視線に固まる。

「僕の、お母さんもいるんだけど」

ででん。

恥知らずの仁王立ち全裸男――千里も眉間にしわを寄せて立つ。

傍らにはまだ顔の赤い葵がいたが、彼は千里が皆の注目を集めている内に露天風呂に入った。

「じゃあ、呉はいいのかよ!」

「呉君は子供やろ」

「見た目は子供、頭脳はおじいちゃんだから!この中で一番、大人だから!」

「大人びてるってだけやろ。本物の大人が大人気ないで」

「…………だから………………」

由宇麻に何を言っても無駄である。由宇麻は呉が超長寿の悪魔だとは知らないのだから。


『広いですねー!……あ、呉君です!』

『はい。一緒に星を見たくて来ました』

『ルーも呉君と星を見たかったです!』

『ひゃっほー!広いね、うーちゃん!!』

『あ、遊杏ちゃん、走ると危ないよ』

『どうちゃんもこっちこっち!』

『あら、こっちの方が広いのね。星も見やすくて……綺麗ね』

『本当に。…………あ、あの、千鶴(ちづる)さんってお肌艶々ですよね。何か、秘訣が?』

『艶々って……若い子には負けちゃうわ。私は生まれつき肌が白いからそう見えちゃうだけよ。董子さんの肌の方が張りがあって、美しいわ』

『はわ……ひぁっ、も、もう、千鶴さん!!』

『あー、二人でえっちなことしてるー!ボクチャンだって成長したら、艶々の張り張りのぼいんぼいんになるんだからね!』

『あわわ、杏ちゃんっ!おっきな声で恥ずかしいですっ!!』

『にーの好みが艶張りぼいんだから、ボクチャンはその通りになるはずなの!にーの欲望のままに育つはずなの!』

『え……蓮様の好みってぼいんですか!?ぼいんがいいんですか!!!?』


きゃいきゃいと女の子達の高い声が洸祈達男子風呂勢にまで届き、男子全員が無意識に聞き耳を立てる。が、洸祈は限界だった。

「…………二之宮(にのみや)の好みはぼいんなんだ。へぇー。そうなんだー……っ、やばっ、笑えるっ」

「てか、二之宮の欲望のままに育つって……二之宮の隠された本性が……!笑いこら、堪えるの、辛っ」

同じく笑える陽季が洸祈に肩を貸す。二人は仲良く肩を震わせるが、洸祈と陽季以外も震えを隠そうと必死に声を抑える男達がいた。

その男達とは蓮以外。

くすくす笑いだけで水面が揺れるほどである。

蓮以外の誰もが腹を抱え、蓮から顔を隠す。


「…………次に僕のことを笑った奴は一生笑えなくするからな」


そして、水面の揺れは止まった。




「それで?今、呉はハーレムを築いているわけだが、家族と言えど、俺の、琉雨(るう)を俺以外の男と二人きりにはしておけない!やっぱり、俺も行く!」

「なら、僕も連れてって貰おうか。君の家族と言えど、僕の、遊杏と董子ちゃんを僕以外の男と二人きりにはしておけないからね」

「二人とも欲望丸出しやろ。ここは無欲な年長者の俺にまかせて――」

「僕の従姉を初デートに誘うまでに丸1年もかけた恋愛レベル1の君に行かせられるわけないだろう」

「低いならええやろ!」

「いいや。恋愛経験0なら構わないが、中途半端にある奴は一番危険なんだ」

「ひ、酷いやろ!」

「ならここは洸祈とラブラブなこの恋愛レベルMAXの俺が行こう。洸祈以外には靡かない!!序でに言うなら、女性耐性は月華鈴で付いている!」

「違うね。ここは医学的にも女性を知り尽くしている僕が行くべきだ」

「いや、お前は歩けないだろ」

「…………誰か、僕をおぶれ」

「だから、お前は行かなくていいって」

「ちょっと待った!あっちには僕の、お母さんがいるの!つまり、最も警戒すべき熟女耐性のある僕が行くべきだよ!」

「何言ってんだ!最も警戒すべきは幼女だろ!幼女耐性のある俺が行くべきだ!」

「幼女幼女言う君が一番、幼女の敵なんだ!遊杏には近付かせないよ!」

「なら、ここは公平に多数決や!皆、自分以外の人間を一斉に指すんや!恨みっこなしやで!ほな、いくでっ!せーのっ――」



「え…………俺?」



蚊帳の外で全員の会話を傍聴していた葵は、一斉に向けられた指に首を傾げた。

「満場一致や、葵君。任せたで」

「由宇麻……。俺は別に…………」

「その“別に”って言う葵君だから選ばれたんだよ」

「葵君って賢者だから」

由宇麻を筆頭に、蓮と陽季にも褒められ、葵は困惑しかない。

陽季の発言においては、褒め言葉かどうか怪しい。

「葵、幼女万歳」

「あお、似てるからって、お母さんに靡かないでね」

親友であるはずの洸祈と千里の発言は更に意味不明だった。

しかし、民主主義には逆らえない。

「んー……行ってきます」

葵は色々な意味で重い腰を上げた。

「葵……琉雨の上げた髪と濡れた首筋辺りを……頼んだ……」

「それは……頼まれなきゃ駄目?」

「駄目だ……ぐはっ……お、俺の屍を越えて行けぇ…………」

と、言いながら、洸祈はドアへと向かう葵の足を掴む。越えさせる気がないのはバレバレだ。

「こ、洸祈!俺が葵君の代わりに頼まれてやるから!」

続けて、陽季も洸祈の背中に抱き付いて葵を見上げた。

うるうるした4つの瞳が葵に向く。

「いや、陽季には頼んでないから!俺も行きたい!!」

「洸祈が行くなら、ロリコンを爆発させないように俺も見張りに行く!」

往生際の悪い二人。

葵を止めるために上半身が湯から出、冷風に煽られようと、諦めずにしがみつく洸祈と陽季。

全裸だというのに、この状態で長々と引き留められる葵は堪ったものではない。彼は体を縮め、少しでも熱を作る。

「もー!皆で行きましょうよ!!」

「なら行く!皆で行く!!」

葵の一言に目を輝かせた洸祈は、ざばっと湯を撒き散らして風呂から出る。そして、ドアへ直進。

「じゃー、僕も行くー」

「俺も行くぞ」

「なら、俺が総監督やな。行くでー」

「ちょっと、総監督さん。僕を忘れないで」

「忘れてないで、蓮君。ほな、一緒に行こう」

由宇麻は蓮に肩を貸し、すかさず、葵も蓮の補助に回る。

他の男3人はもうドアの向こうだ。

「君達には教えてあげるけど、僕の好みは艶張りぼいんじゃないし、遊杏の成長は遊杏次第だ」

「そんなこと言われんでも分かっとるで」

「なんか、二人には言っておきたくなった。あっちの阿呆3人組はどうでもいいんだけど」

「うん……まぁ、それはなんとなく分かります」

葵と由宇麻は目を合わせ、蓮に同情するように笑みを溢す。あの3人に対する苦労は葵も由宇麻も同じだ。


『あ、旦那様!』

『る……琉雨の上げた髪と濡れた首筋…………うわわあああ、無理だ、帰りたい、帰りたいよおぉぉ!恥ずかしいよおぉぉ!』

『ちょっとぉ、僕にへばりつかないでよぉ!』

『あら、千里?』

『お……お母さん…………うわわあああ、無理だよぉ、帰りたい、帰りたいよおぉぉ!恥ずかしいよおぉぉ!』

『ええ!?俺にくっつくの?重っ、重いから!』


「ぎゃーぎゃー煩いなぁ」

「……行きたいって言ってたのは誰なんだか……」

葵は男の煩い悲鳴に頭を抱える。由宇麻も苦笑いだ。

「ここは総監督の出番やね」

「みたいだ。頼んだよ、総監督さん」

そして、蓮も苦笑いをした。

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