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―2―

連休が……時は無情なり(´・ω・`)

取り敢えず、土日まで気合入れて頑張りましょう!

今晩は。

琉雨(るう)です。


今日は(れん)さんの御友人の桐千歳(きりちとせ)さんのお家が経営している温泉旅館の1つに、蓮さん、杏ちゃん、董子(とうこ)さん、陽季(はるき)さん、あと、お店の皆で来ています。


この旅館は来週にオープンする予定らしいのですが、不備がないか、お客様目線で見て欲しいとのことで、蓮さんが千歳さんに頼まれたらしいです。

そして、チェックをするなら人数は多い方がいいと、蓮さんにお店の皆も一緒にと誘われ、ルー達はここに慰安旅行に来ました。

駄目元で旦那様は陽季さんも旅行に誘ったのですが、時間が空いたと連絡を貰った時の旦那様は心底嬉しそうにしていました。電話中は「そうなんだ」と、全く素直ではなかったですが。

ルーも、旦那様が大好きな陽季さんと一緒にいられるなんて凄く嬉しいのです。





「はう……」

「どうしたの?琉雨ちゃん」

「旦那様と一緒に温泉に入りたかったのです……なのに、折角、温泉にいるのに遠いです……」

「ああ…………うーん、恥ずかしがり屋さんなのね」

広い混浴の一角。

男性用浴場から現れたかと思えば、男達は揃って混浴の一角に団子状態。

そして、遠目に女性諸君を盗み見ているという。

仲介役として、(くれ)が行ったり来たりを繰り返していた。

抜け駆けをして(呉自身にはそのつもりはないが)先に混浴に入っていたとは言え、たったの一言の為に呉を手招きするのだから、彼は溜め息しかない。

「洸兄ちゃんから琉雨姉ちゃんに、「可愛いよ」だそうです」

物足りなさそうな視線を目一杯に送るが、これも洸祈(こうき)が選んだことである。

「はぅ……こんなに近いんだから、ルーに直接言って欲しいです」

「本当にそうねぇ」

千鶴(ちづる)も、(あおい)の影に隠れてこちらを窺う息子に苦笑いをした。しかし、そんな息子や息子の親友を見ながら、かつての自分の友の姿を見て、千鶴は懐かしい気持ちになる。

あれは、温泉ではなくプールだったが。

『り、(りん)っ、あと30センチ近付いて』

『30センチ?えっと……』

『35センチだ!近いぞ!!』

『ええ!!!?(しん)君、分かんないよ!!』

『頑張って分かるんだ!あと1センチでも俺に近付いたら、俺の心臓がもたないぞ!!』

『慎君のため……慎君のため…………もー、面倒だよ!!』

『え!?林っ!!!?』

『はい、0センチだよ』

この日のために用意した花柄の水着を着た林は、大好きな慎に抱き付いた。しかし、3メートルあった二人の距離が0になった瞬間、慎のギリギリだった意識は完全に飛んでしまった。

『………………あ、慎が死んだ』

『あれ?あれれ!?慎君、沈まないで!慎君!』

『ほら、林。シャイボーイの慎を苛めるなよ』

『だって…………』

柚里(ゆり)が沈んだ慎を抱えるが、林も慎に折角のビキニを見て貰いたかったのだ。それも、スクール水着しか持ち合わせていなかった林が、わざわざ遠くまで電車を乗り継いで買いに行った水着だ。彼女の兄である(ふゆ)に「破廉恥だ」と猛反発をされても着た――……。

『慎は大丈夫?』

千鶴も慎を心配して近付くが、

『あ、ちづ…………俺もシャイボーイだから……0センチぃぃ……』

一瞬で顔を真っ赤にした柚里。

『……あら?柚里?』

『ど、どうしよう!二人とも沈んじゃったよ!』

ぶくぶくと沈んで行く男達。

それから、千鶴は林と二人で監視員の手を借りつつ、慎と柚里をプールサイドに寝かせたのだった。

折角の温泉でいつも以上に遠い琉雨と洸祈。「この状況なら、林は琉雨ちゃんかしら」と千鶴は微笑んだ。

「分かったよ。ボクチャンに任せて、うーちゃん」

「杏ちゃん……?」

琉雨の助けに入るのは遊杏(ゆあん)だ。彼女はざばっと立ち上がると、真っ直ぐ男達の方へ。

「ひぃっ」と洸祈から頼りない悲鳴が上がり、彼は陽季に抱き付く。

「くぅちゃん、うーちゃんがくぅちゃんに抱っこされてもいいって」

「………………え?」

「はえっ!?あ、杏ちゃん!!!?」

どうするのかと思えば、遊杏は、琉雨が洸祈に抱っこされたがっていると言う。琉雨は言っていることの意味を理解し、何故それを言うのか分からなくて、顔を赤くした。

「うーちゃんをぎゅうぎゅうしてもいいって」

「杏ちゃん、杏ちゃんってば!」

これ以上、何を言うのかと、彼女は遊杏を止めに立ち上がって近寄る。

「ああああ、る、琉雨っ!近い!助けて、陽季!」

「ちょっ、洸祈!」

洸祈が陽季の脇腹を掴んだ。そして、立った彼の爪が陽季の腹に食い込む。容赦なく。

「いっ!?」

陽季を盾のようにブンブンと振り回した洸祈。近くに座る蓮が心底迷惑そうな顔をする。

しかし、洸祈に玩具のように扱われた陽季の腕が危うく遊杏にぶつかりそうになり、退いた遊杏が背後に傾いた。

「ふにゃっ!?」

倒れる――!

「あわわ、杏ちゃ――はわ、はわわ!!」

咄嗟に、琉雨が彼女を受け止めるが、足場の悪い床で遊杏諸とも足を滑らせる。それに反射神経の鋭い洸祈が逸速く反応した。

「琉雨っ!!!!!!」

「うげっ」

まるで映画のワンシーンだ。

助走も付けず、足のバネだけで飛び上がる洸祈。

屈んでいた陽季の肩を掴み、彼を背後から左膝でタックルをする。そして、陽季の背中を足場にし、遊杏を抱えて倒れる琉雨の下に魚のように滑らかに潜り込んだ。

ばちゃん。

とても大きな水飛沫が上がった。



ぶくぶく。


「陽季君、大丈夫か?」

由宇麻(ゆうま)が一向に浮かんで来ない陽季を底から引き上げる。

熱さで顔を真っ赤にした陽季が由宇麻の肩に凭れた。

「ごーきの……ひじゃ…………いだい……いだかっだぁぁ……」

「陽季君、日本語や。日本語が怪しいで」

しかし、由宇麻の呼び掛けに返事はなく、ぐったりと項垂れる。もう限界らしい。

由宇麻は陽季を風呂の縁に凭れさせ、男子風呂との境――混浴に入る人がタオルを身に付ける場からタオルを幾らか貰ってくる。そして、それを床に敷くと、葵や千里(せんり)の協力の下、陽季をタオルの上に寝かせた。頭の下にも丸めたタオルを敷く。

「あそこ、水が出るんじゃないかな。それでタオルを濡らして……銀髪君の脇の下にね」

蓮が指示を出し、由宇麻達が実行する。一通りの処置の後、すっかり逆上せた陽季はタオルの上で唸りながら目を閉じた。



さて、洸祈はと言うと――……


「はう……旦那様…………」

倒れた琉雨が体を岩の床にぶつけないようにと、洸祈は琉雨の体の下に滑り込むように風呂にダイブした。が、潜るには流石に浅すぎた風呂で、洸祈は額をごちんと床にぶつけ、右手首をあらぬ方向に曲げて痛めたという……琉雨は怪我一つなかったが、洸祈が怪我をした。

「ルーを庇って……ごめんなさい」

琉雨は目尻に涙を浮かべ、洸祈の額を撫でる。

「んー……悪いのは俺……だから…………琉雨は悪くない……」

「でも、ルーは旦那様の護鳥なのに……」

スウェーデンの森で実体も持たず、小さな劇場を覗き見していた琉雨。彼女に名を与え、体を与えたのは洸祈。

護鳥とは、契約主の身を守ることを条件に主の魔力を貰い、形を得ている魔獣の一種。しかし、護鳥の琉雨は洸祈を守れた試しがない。あらゆる場面で洸祈に助けられてきた。

洸祈が魔法使いの間では名高い崇弥一族の本家当主で、護鳥の助けを必要とするには優秀すぎる魔法使いでも、琉雨の存在意義は“契約主を守る”ことだ。

洸祈の父親である慎の命令で無理矢理、琉雨と契約させられたこともあり、彼女は洸祈のお荷物になることだけは嫌だった。

「ほら、崇弥(たかや)。崇弥も怪我したところはこれで冷やしたらええで」

洸祈にも濡れたタオルを由宇麻は持ってくる。

何が原因だろうと、守るべき主に守られ、挙げ句に主に怪我を負わせた琉雨は由宇麻から何も言わずにタオルを引ったくった。

「琉雨ちゃん!?」

「旦那様、腕を。冷やします」

「あ、ああ」

由宇麻も洸祈も琉雨にしては意外な行動に目を丸くする。

「……旦那様……ルーは役立たずです…………」

琉雨は洸祈の捻った方の手首にタオルを優しく巻きながら、そこに堪えきれなかった涙を落とした。

「ルーは……何にもできない……」

「…………琉雨。お前は役立たずどころか、俺の支えだ。確かに、俺を怪我から守ったら、それは役に立ったと言うことだ。でも、怪我ってのは体の傷だけじゃないぞ」

「旦那様っ、ルーは何も守れていません!」

タオルを巻き終え、琉雨は洸祈の胸板に両の拳を当てる。洸祈が琉雨を宥めているのは分かるが、それでも彼女には納得がいかず、反論をする。

「琉雨は目に見える形で俺を守りたいか?」

「…………はい。ルーも琉歌(るか)様のように旦那様を守りたいんです!」

琉歌は琉雨と洸祈の契約の見届けをした護鳥だ。琉雨の母体でもある。そして、慎の友人である煉葉璃央(れんばりおう)の護鳥。

璃央は軍学校で教師をしているが、軍学校の対魔獣演習で、琉歌との絶妙な連携を見たことのある琉雨は、あんな風に洸祈を守りたいと憧れていた。

「琉歌みたいになりたいなら、まずは艶張りボインになれ」

「なっ、違います!ルーは体がおっきくなりたいんじゃないんです!ルーは――」

「見た目が重要なら、俺に見合う体になれ」

「違うです!違うです!」

伝えたいのに、からかわれる。

琉雨は悲しく悔しくて後から後から湧き出る涙をお湯に落とす。

「洸祈、やめなよ」

一気に静まった混浴で、葵は洸祈に注意した。しかし、洸祈はやめない。

「琉歌は普段はネックレスになって璃央の首に下がってる。家事がなんもできない璃央の首で揺れてるだけ。家のことは幸乃原(ゆきのはら)さんに任せっきりだ。琉歌の電撃は痛いが、あいつは家事が多分できない」

「琉歌様は護鳥です!戦いでかっこよくすぱーってするんです!」

「じゃあ、琉雨は料理ができない俺をほっぽいて、俺をレトルト食品漬けにするか?」

「それは駄目です!旦那様の健康はルーが守ります!」

「ん。俺を守れ」

長く温泉に浸かっていて火照った頬の琉雨を洸祈は抱き締める。

「旦那……様…………ルーは……」

「お前の言いたいことは分かってる。ただ、お前が使える魔法が派手じゃないだけだ」

「僕の魔法とか、全然見えないよね」

千里がにこっと微笑んだ。

「それなら、僕の魔法も見えないよ。苦しむ相手の顔が見れるぐらいだ」

蓮も洸祈のフォローをするが、彼の方は不気味な笑みだった。由宇麻が「こら、蓮君」と蓮の肩を小突く。そんな蓮の膝には遊杏がいた。

「琉雨は俺を守ってくれている。俺の健康だけじゃなくて、俺の心も守ってくれている。お前は誰にも負けない大型結界を張れるだろう?魔法の解析と解除、再構築もできる。大自然を味方に付けることもできる。あとは、経験だけだ。琉歌は璃央と長いからな。俺達はこれからだ」

琉歌とは璃央が10代の頃に契約を結んでいる。もう二人は数十年来の付き合いだ。主と魔獣ではない。それどころか、友人の関係ですらないのかもしれない。

しかし、琉雨と洸祈は出会って数年。阿吽の呼吸に至るまでにはもっと時間が必要だ。

「うーちゃんは立派にダメダメくぅちゃんを躾てるよ!だから、落ち込まないで!」

「おい、杏。俺は躾られてはいないから」

「君を躾るのは銀髪君だけでしょ。あーやだやだ」

「そうだ。俺を躾るのは――――って、違う!俺が陽季を躾てるんだ!」

遊杏、洸祈、蓮の軽い漫才のようなノリに、琉雨がくすりと笑った。

既に彼女の涙は止まっている。

「旦那様は本当に陽季さんが大好きです。ルーも陽季さんが大好きです。でも、ルーが旦那様を一番に守れる騎士になるです。そこは誰にも譲りません!」

「そうだな。可愛い女騎士になってくれ。俺も琉雨や皆を守れる店長になるからな」

「はいっ!」

いつもの笑顔になった琉雨が洸祈の首に抱き付いた。が、今回は濡れた桃色の小さな唇が洸祈の頬にキスを残す。


琉雨のキスだ。


位置的に呉はその様子が見えていた。

「………………る……琉雨……」

「はい、旦那様っ」

体を密着させ、足は洸祈の腰に絡む琉雨。

大切な旦那様にまた近付けたその想いで彼女は一杯だった。

「上げた髪…………濡れた……首筋辺り…………タオル1枚越しの………………――」

「はわわ!?」

なんと、琉雨をくっつけたまま洸祈が風呂の中へと沈み出す。

琉雨は慌てて離れ、洸祈を引っ張るが、大の男を持ち上げる力は少女にはない。

「旦那様っ、旦那様っ!!」

「琉雨ちゃん、私に任せて」

琉雨の代わりに洸祈を引き上げたのは董子だ。彼女は軽々と洸祈をお姫様抱っこする。

王子様とお姫様の立場が逆転しながらも、長い黒髪を纏める董子は王子様に負けず劣らずだ。そして、何故か蓮が自慢げな顔をしていた理由は遊杏だけが分かった。

「はう!董子さん、凄いです!」

「えへへ。いつも蓮様を持ち上げてますから。蓮様よりちょっと軽いぐらいです。え……っと、洸祈さんも陽季さんの隣に?」

「僕達もう出るから、二人とも連れてくよ」

「う、うん」

もじもじと何だか忙しない葵と一緒に千里が陽季を背中に担いでいた。

「…………俺も一旦出るから、崇弥は俺が運ぶで。蓮君、また戻ってくるから」

「気遣いありがとう、童顔君」

蓮が葵に視線を移し、由宇麻の蓮自身と葵への気遣いに感謝した。

どうやら、ところ構わず盛る千里の魔の手に掛かった葵の状態に気付いたのは蓮だけではなかったらしい。

由宇麻は董子に洸祈を背中におぶらせて貰い、ずるずると引き摺る。

「あ、千里」

「何?お母さん」

「髪、乾かすのよ。あなたの髪は長いんだから」

「はーい。あおも髪乾かしてあげるよ」

「………………」

無言でちょこちょこと千里の後を追う葵。返事はないのに、千里は「あとでね」と微笑む。

「夕飯は8時に2階の大広間やで」

そして、由宇麻も足りない身長で洸祈を引き摺って葵の後を追って行った。





「蓮様、体勢は変えなくて平気ですか?」

「平気だよ。水の中だから楽だ」

「あ…………はい」

董子は遊杏に自分の手で遊ばせる蓮を見詰め、千鶴と琉雨、呉の話し声にそちらを向いた。が、蓮が「董子ちゃん」と呼ぶ。

「はい?」

「隣に座らない?」

「……はい」

「皆で温泉は……初めてだね。…………えっと……一応、董子ちゃんは休み扱いだけど……大勢で疲れてない?やっぱり、休日じゃなくて――」

「いえ、疲れてません。皆さんとお話できて楽しいです」

「そっか。なら良かった」

董子と蓮が無言で肩を並べる。

しかし、交わす言葉がなくとも、二人はお互いの気持ちを察していた。

そして、遊杏が見上げた先には満天の星が。


触れる蓮の胸から少し早い鼓動を感じていた。

~おまけ~


「しるばぁうぃいいいいいいいいいいくぅううう!!!!」

「洸祈、発狂してどうしたの?」

「しるばーうぃーくが終わっちゃっただろうがよぉおお!!!!」

「ああ、シルバーね。俺は連日舞台に上がってたよ。いいでしょ?こうして俺とデートできるんだから」

「京都で司野と楽しく旅行してたんだよ!」

「…………俺との時間と司野さんとの時間、洸祈はどっちの方が大事なわけ?」

「……………………………………八つ橋食べる?」

「そこはズバッと言ってくれた方が良かったよ!」

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