告白
北へと向かっておよそ1時間。俺達は特に何を喋るわけでもなくじっとしていた。
隣を見るとジェームスが爆睡しており、レミリーはずっと窓の外を眺めていた。俺は、メモを懐にしまうと、窓の外に向けて魔法を唱えてみる。
「空を駆ける色無き風よ・・・天を駆けるシルフィードよ・・・我に一寸ばかりの力を!!
風切!」
しかし何も起こらない。魔力が切れているのかあるいは、封印されてしまったのか・・・。いずれにせよ不便なことこの上ない。早く治って欲しい。
「やっぱり魔法は使えない?」
レミリーが外を見ながら聞いてくる。俺はああ、と相槌をうった。
「やっぱ私が原因よね」
「まあ・・・その可能性が高いな」
「そう・・・」
そのまま再び沈黙がおとずれる。暫くしたのち、俺は気になっていたことを聞いてみる。
「レミリーが吸血鬼なのはわかったが、具体的には何か普通の人間とは異なるのか?例えば魔法が使えるとか」
「魔法は使えないわ。ただ、生命力はとてつもなく高いと言われているわね。中には数千年生きる人もいるとか。
私は病気でもう死ぬ寸前だったのだけれど、あなたのおかげで完治したから少なくとも200年は生きれるわ」
「200年!?そりゃ半端ないな・・・・」
「吸血鬼の中では200年なんて少ないほうよ。最も、他の吸血鬼を見たことがないから実際はどうか知らないのだけれど・・・」
まあ魔界でも吸血鬼は既に滅んだ種族として扱われている。俺自身、お目にかかったことはない。レミリーが初めてだ。
ん?待てよ。じゃあ俺は今とんでもなくすごい人と話をしているんじゃないだろうか。
「そういうユウトはどうなの?人間じゃないことはこの前の魔法を見せてもらってわかったけれど、それ以上のことは教えてもらってないわ」
「ん、ああ・・・。そういえばそうだったな」
魔界から来た・・・って言っていいのだろうか。そしてレミリーは実は既に滅んだと言われている種族なんだとか言ったらどう反応するだろう。
俺は、レミリーに事実を伝えることにより何がメリットで何がデメリットか考えてみる。
・・・。
・・・・・・。
特に問題はなさそうだ。俺はこの際だから伝えることにした。
「実は俺はさ、魔界から来たんだ」
「へ?魔界?」
全く予想できなかった言葉だったのか、レミリーの声が裏返る。
「う、うん。それで?」
俺は今記憶に残っている範囲でできる限り詳しくレミリーに状況を伝える。その間レミリーは話の腰折ることなく、相槌を打ちながら静かに聞いてくれていた。
「なるほど・・・。そんなに大変な事情があったのね・・・。
じゃあユウトはその光の扉を通ってきたってこと?」
「そう。まあ最後の最後で油断して味方だと思ってた奴に攻撃されてこの有様だけどな」
そうして俺は包帯に巻かれた左手を上げる。もう痛みはだいぶ引いていた。
「でも、そのユキって子を庇ったのでしょう?本当にすごいと思うわ」
「ああ。俺が気づかなかったらユキの腹に刺さってたからな・・・。本当に良かった」
「それでこっちの世界に来る時に皆バラバラになってしまったってことでいいいのかしら」
俺は頷く。
「俺が魔法を使えたら、念話でなんとか会話することも可能だったんだが・・・」
「私ができなくしてしまったものね・・・。貴方の血を吸ったことで。
・・・ん?」
「どうした?」
レミリーは突然考え込むようにして目を閉じる。
暫くして再び目を開けた。
「・・・いや、でもまさか」
レミリーは窓を開けると外に向けて小さく風切を唱えた。
さっき俺ができなかったやつだ。
でもレミリーは魔法使えないんじゃ―――。
そう思ったその時、風を切るような鋭い音が聞こえたかと思うと、近くに生えていた木が真っ二つに裂けた。
「は、はは・・・なんだ、そういうことだったわけね」
レミリーは俺の言葉を無視して今度は違う魔法を唱え始める。
「彷徨う空の水分よ・・・凍てつき私の拳となりなさい・・・氷拳!」
そう言うと間もなくレミリーの拳に氷の粒が集まり、やがてそれがひとつの塊となり冷気を帯び始めた。
「・・・なんだと?」
こには俺も驚かざるのを得なかった。
何故なら彼女は゛俺が使っていた゛魔法を使ったからだ。
つまり俺が魔法を使えなくなったのは・・・。
「その顔だとユウトも悟ったようね」
そういうとレミリーは冷気をおさめる。
そしてこう言った。
「どうやら私、ユウトの魔法を・・・・・・盗んじゃったみたい」
その時、突然馬の鳴き声が聞こえたかと思うと馬車が急停止した。
その衝撃により、ジェームスも目を覚ます。
「な、なんだ・・・?」
すると外にいたソフィアさんの声が聞こえてきた。
「囲まれてしまいました!
ですがすぐに殲滅致しますので決して中から出ないでください!」
「何・・・囲まれた?」
俺達はそっと窓の外を覗いてみる。すると、そこには数十人の賊が待ち伏せしていた。
ソフィアさんと賊が何か喋っているが聞き取れない。なんとかして聞き取りたいが・・・。
あ、そうだ!魔法だ。
「レミリー。俺の魔法を使えるんだったら、地獄耳を使うんだ。そして俺ジェームスと手をつなげ。そうしたら3人共外の会話を聞き取れる。詠唱はこうだ」
そう言って俺はレミリーに詠唱名を教える。
「わかったわ」
そうしてレミリーが魔法を唱え、俺は3人で手をつなぐ。間もなく、外の会話がはっきりと聞こえてくるようになった。
「よう。お前さん見たことない面だな。どこに行くつもりだ?」
「別にどこでもいいでしょう。早くそこをどいてくれますか。馬車が通れません」
男の野太い声が耳に残った。
それとは対照的にめんどくさそうなソフィアさんの声。
男は続ける。
「実は俺達今資金が足りなくて困っててさ。そっちは馬車に乗ってるぐらいだから、中にはいいとこのお嬢様が乗っているんだろう?
それならたんまりお金も持っているわけだ。
というわけで、ここを通りたいのなら有り金の半分をよこしな」
そこでソフィアさんのため息をつく音が聞こえてきた。ああ・・・呆れているんだな。横にいたジェームスが手を合わせている。
「何してるんだ?」
「賊達にご愁傷様って祈ってるのさ。相手が悪かったってね・・・」
ああ・・・。まあ確かに。
「何故貴方たちのような賊にお金をあげなければならないのですか。出直してください。そしてあと貴方口臭いですよ?空気が汚れるので息しないでくださいますか」
「なっ!?・・・のアマ・・・可愛いからって言っていいことを悪いことが!!」
「どうします?頭」
「決まってる。馬車の中にいるやつも、このメイドも全部捕えろ」
「そうこなくっちゃ!」
外が騒々しくなる。怒らせてしまったようだ。
「どうやら俺達捕らえられるようだな」
「ソフィアがなんとかしてくれるわ」
「ふぁ・・・。じゃあ俺眠いしまた寝るわ。着いたら起こしてくれよ」
「え?おい」
そうしてジェームスはタオルを顔に乗せ、再び眠ってしまった。
こんな状況で寝るなんてどんだけ余裕なんだよ。
俺はレミリーの手を離すと、腕を組みながら外の戦況を伺った。
しかし、さっきまで囲んでいたはずの賊の姿がそこには無かった。
「ん・・・?」
そしてあれだけ騒々しかった外がいつの間にか再び静けさを取り戻していることに気づいた俺は、意を決して馬車の扉を開けてみる。するとそこにはとんでもない光景が広がっていた。
「あ・・・。馬車を開けたらダメといったじゃないですか」
「ソフィアさん」
そこには無傷のソフィアさんが立っていた。持っていた短剣には血がこびれついている。
そしてソフィアさんの後ろには、賊たちが山のように積み重なっている。
たった一瞬の出来事だった。
「殺したんですか?」
「いえ・・・。ですが暫くは行動できないと思います」
そうしてソフィアさんは短剣を振って、こびりついていた血を取った。
その時、賊の一人がこう言った。
「ぐぅ・・・なんだよあの女は・・・。一瞬の出来事で何が起きたかわからなかったぞ・・・」
「化物だぁ・・・!」
「化け物とは失礼ですね。私はメイドです」
「・・・」
俺はそのまま何も言わずに再び馬車内へと戻る。中ではレミリーが退屈そうに外を眺めていた。
「もう終わった?」
「ああ。しかしソフィアさんは本当に何者なんだ?」
あの人は俺に対して何者だと聞いてくるが、こっちがソフィアさんに対して何者かと問い詰めたくなる。
「私の頼もしい護衛よ」
「本当に頼もしすぎるよ」
倒した瞬間を見れなかったのは残念だが、あの一瞬であれだけの人数を行動不能にするなんて魔界でもいないぞ。
改めてソフィアさんの強さを実感するのだった。
そうして馬車は再び目的地のエクセラルードへと向かっていく・・・。




