Ep108 龍を滅ぼす剣だってさ
この隠れ里は大体500年前、バクナの祖父の世代が切り開いた開拓村が始まりだった。
500年は長いようだが、長命のエルフ達からすれば比較的新しい集落だそうだ。
それからしばらくは、実りの豊かな森や川に囲まれ、平和に時が流れた。
近くにあるドワーフ王国とも次第に交流を深め、エルフの村はこのまま発展していくかに思われた。
しかし、ドワーフ王の交代により始まった亜人排斥運動。
これにより罪もなく逮捕されたり、襲われたり、酷いときには奴隷にされるエルフ達がだんだんと増えていった。
もちろん、エルフの村は抗議をしたが、聞き入れてもらえるどころか、反逆者の村として、軍を向けられることもあった。
バクナの父は精霊と協力して森を迷宮化して、今私たちがいる隠れ里になったそうだ。
そして、その後第三王子ガーラントの奴隷解放によって、エルフの村の出身者や、他の所から流れ着いたエルフ達が隠れ里へと逃げ帰ってきた。
ドワーフたちによって苦しめられた彼らの多くは、ドワーフ、更には他種族に対して酷く偏見を持つようになった。
「それじゃあ、あの兵士達は……」
「ええ、解放されたエルフ達です。村を守ろうと一生懸命なのは嬉しいのですが、こんな結果になってしまって。私1人の謝罪で済む問題ではありませんが、申し訳ありません」
そう言って、バクナは深々と風香たちに頭を下げた。
「ちょちょっと、バクナさん、頭を上げてください。何もエルフだけが悪い訳じゃあないですし」
「そう、私が軽率だった」
「シーチも無事だったわけっすから」
「いや、今回は大事が無かったが、もし何かあれば多くの同胞たちがまた苦境に立っていたかもしれません。憎しみに憎しみで返していては状況は悪くなるばかりです」
「バクナさん、それは流石に考えすぎですよ」
「そうっすよ」
ツナ吉と風香はバクナの気を少しでも軽くしようと、笑いながら否定するが、サナならやりかねないと、内心冷や汗をかいていた。
風香はくるりと振り返り、シーチとリーフの頭に手を置いて微笑む
「いい、リーフちゃんもシーチちゃんも勝手に外に行かないでよね。今度勝手に外に行ったらお説教よ」
「ひぃ」
「なんか、背筋がぞわっとしたでし」
すでに武器屋で体験済みのシーチは顔を青くし、何も知らないリーフも風香の雰囲気にのまれて、身を縮めていた
「約束が守れればいいのよ」
「風香さん、目が全く笑ってないっす」
「ツナ吉君、何か言った?」
「いえ、何も言ってないっす」
ツナ吉は愛想笑いを浮かべながら、押し黙った。
いつもなら「相変わらず、ダメ兄はシャキッとしない」くらいの軽口は叩きそうなシーチも、風香の説教の恐怖にそんな余裕はなかった。
遠巻きに見ているバクナとカバ太はただ首を傾げて、不思議そうな表情をしていた。
「それで、君たちはこれからどうするんだい?」
暫くの沈黙の後、バクナが話題を変えるべく提案する。
シーチが囲まれていた件もあり、出来る事であれば協力させて欲しとも申し出てくれた。
「情報が欲しいですね。仲間を助けるにしても場所が場所なので」
サナ達が落ちた穴は銀輝竜の巣であり、うかつに近づくわけにもいかないし、周辺から穴を掘るにも当ても道具もない。
戦闘狂とものづくり馬鹿がおとなしく地下で待っている訳もなく、長いとこ放っておくと、色々やらかす可能性が高い。
とにかく藁をもすがる思いで、全員で改めてバクナの家の書物をあさることになった。
村長の家系であるバクナの家には、本だけでなく村での出来事を記した日誌や、報告書などが山の様に積まれていた。
「この中から探すんでしか!」
うんざりしたようにリーフが叫ぶ
「そうよ、もしかしたらサナ達が落ちた地下も見つかっていたかもしれない。それに、さっきの事もあるからあまり外をうろつく訳にもいかないでしょ」
「仕方ないっすね」
「私はみんなの料理を作る」
そう言って、台所に逃げようとしたシーチを風香がぐいっと捕まえる。
「勝手にどこか行っちゃダメよ」
「っ……はい」
風香に捕まったシーチは力なく頷く。
また勝手な行動して、トラブルがあっては困る。
それからシーチの前に担当してもらう分の資料を積み上げていると、服がくいくいと引っ張られた。
風香が視線を向けると、キラキラした目のカバ太がこちらを見って訴える
「うー」
「えっと、もしかしてカバ太も手伝ってくれるの?」
「うーうー」
うんうんと頷くようにカバ太が顔を上下に振る
「うーんそうねぇ」
カバ太のやる気はうれしいが、いくら何でも蹄で紙をめくったり資料を探したりするのは不可能だ。
かといって、ただ見て待たせるのもかわいそうだし……
暫く風香が考え込んでいると
「カバ太、この束をページごとに並べ替えて欲しいでし」
「うー」
リーフが数十枚の紙の束をカバ太に渡す。
「ちょっとリーフちゃん、流石にそれは」
「うっ、うー!」
「嘘でしょ……」
カバ太は前足と、鼻を上手く使って器用に紙を並べ替えていた。
その動きを見て、風香は言葉を失うが、考えてみれば手が増え作業が効率化されるのだ、何も悪いことはない。
そう考えなおし、彼女は思考を放棄した。
その後、バクナを含めた全員で手分けをして書庫の中を調べていった。
途中夕食を挟み、全体の3割くらいを捌いたところで、シーチが声を上げる。
「これは興味深い」
「どうしたのシーチちゃん」
「風香も見ると良い」
シーチから渡された紙束には、剣の絵が大きく書いてありその下にタイトルとして『『滅龍剣』の隠し場所』と記載されていた。
何でもその昔村の近くに竜が現れた時、友人のドワーフの名工に打ってもらった名剣。
その切れ味と威力から、悪用されないように村のはずれに封印してある。
もしまた竜と戦うことがあれば、その時役立てて欲しい。
ざっとまとめるとそんなことが書いてあった。
「姐さんだったら即探しに行きそうな奴っすね」
「風香、探しに行く?」
サナ達が落ちた穴から探すのが一番確実ではあるので、龍対策の武器はうってつけではある。
しかし、武器一本を頼りにするのは心もとない。
「あらかた探してみて、めぼしい情報が見つからなかったら探しに行ってみましょうか」
それから二日、すっかりバクナの書庫は整理され、旅支度を整えた風香たちはバクナの家の前で別れの挨拶をしていた
「結局『滅龍剣』以外、役立ちそうな情報が見つからなったっすね」
「メララ様の紹介だと言うのに、大して役に立てなくて済まなかったな。」
「あっただけよかった」
「そうね、シーチちゃんの言う通りだわ。だから、バクナさんもそんなに気にしなくて大丈夫ですよ。食料や薬も分けてもらっちゃいましたし」
「うー」
一行はリーフの案内によって森を抜け、滅龍剣があると言う祠を目指し、一路北へと向かった。
おまけ
「ガーラントって、なんか聞いたことある名前でし」
「うーうーうー」
「ん? カバ太、どうしたんでし。ははーん、お腹がすいたんでしね」
「うーうーうーうー」
「首を横に振ってどうしたんですか? 首の筋トレでしか?」
「うー!」
「うぎゃぁあ、でし! なんで噛むんでしかっ!?」
「うーう」
「えっ、リーが悪いんでしか?」
「うっうっ」
「うーん、全然わかんないでしー、師匠早く帰ってきて欲しいんでし―!」
リーフはこの後5回くらいカバ太に噛まれて、メララの夫でシエータの父であるガーラントの事を思い出したそうな。
読んでくれてありがとでしー!




