第八話:どうやら私、感謝されるようです。
朝。
孤児院の前に、新しい荷馬車が止まっていた。
最近は資材や食料を積んだ馬車が増えている。
でも――
今日は少し違った。
荷台に乗っていたのは、子供たちだったから。
薄い毛布にくるまった、小さな子供たち。
みんな痩せていて、怯えた目をしている。
【エンフェリア】
「……?」
私は首をかしげる。
その時。
馬車の横にいたフェランが、静かに口を開いた。
【フェラン】
「国境付近で保護された戦災孤児です」
【エンフェリア】
「戦災孤児……」
【フェラン】
「はい」
フェランは頷く。
空気が少しだけ止まった。
【セドリック】
「そうですか……」
【ルシアン】
「大変だったのだな……」
ガレスは何も言わない。
みんな、少し複雑そうな顔をしていた。
私は、馬車の中を見る。
小さな女の子と、目が合った。
赤い髪。
怯えた目。
でも――
ただの子供だ。
【エンフェリア】
「……キズだらけだ」
思わず口から漏れていた。
胸の奥が、ぎゅっと痛んだ。
どうしてこんな小さな子が、こんな目に。
フェランが静かにこちらを見る。
【フェラン】
「ええ」
短い返答。
【フェラン】
「だからこそ、救わなければなりません」
――
孤児院は、その日からさらに慌ただしくなった。
フェランの手配で、食料も服も届き始めていた。
それでも――
ベッドだけは足りなかった。
子供たちは警戒していて、なかなか笑わない。
【ガレス】
「ベッドをもう二つ増やすか……」
【セドリック】
「はい。設備が足りませんね」
【フェラン】
「しかし、それを待っていては子供が生きられません」
【ルシアン】
「そう暗い顔をするな。
子供達が怖がる」
【セドリック】
「ふふ。
確かにその通りですね」
セドリックはルシアンの頭を撫でる。
【ルシアン】
「むっ。
怖がるのは余ではなく
孤児院の子供達の事だぞ」
みんな忙しそうだった。
だから、私も頑張る。
――
昼。
私は食堂でスープを配っていた。
【エンフェリア】
「はい、どうぞ」
小さな男の子が、おずおずと器を受け取る。
痩せた手。
少し震えていた。
【エンフェリア】
「熱いから気をつけてね」
男の子は何も言わない。
でも、すぐにスープを飲み始めた。
すごい勢い。
【エンフェリア】
「わっ」
そんなにお腹空いてたんだ。
私は少しだけ胸が苦しくなる。
――
その日の夕方。
庭で子供たちと遊んでいると。
服の裾を、くいっと引っ張られた。
振り返る。
朝、馬車に乗っていた赤髪の女の子だった。
【少女】
「……」
少女は何か言いたそうにしている。
でも、なかなか言葉が出てこない。
【エンフェリア】
「どうしたの?」
少女は、小さく俯く。
そして。
【少女】
「……ありが、とう」
消えそうな声だった。
【エンフェリア】
「え?」
【少女】
「ごはん……おいしかった」
その瞬間。
胸の奥が、少し熱くなった。
【エンフェリア】
「……うん」
なんだろう。
変な感じ。
でも――
悪くない。
【少女】
「お姉ちゃん、やさしい」
ぎゅっと服を掴まれる。
小さな手だった。
私は、少し困ってしまう。
【エンフェリア】
「えっと……」
なんて返せばいいんだろう。
分からない。
でも。
【エンフェリア】
「もっと食べられるように、私も頑張るね」
少女の顔が、少しだけ笑った。
その笑顔を見て。
私は、なんだか嬉しくなっていた。
――
夜。
孤児院の廊下。
子供たちが眠ったあと。
セドリックが書類を抱えて歩いていた。
そこへ、フェランが声をかける。
【フェラン】
「随分と働いておられますね」
【セドリック】
「ええ。やることが増えましたから」
セドリックは苦笑する。
【セドリック】
「ですが、不思議と嫌ではありません」
【フェラン】
「それは良いことです」
フェランは窓の外を見る。
庭では、エンフェリアがまだ片付けをしていた。
子供たちが使った木皿を、一枚ずつ運んでいる。
【セドリック】
「あなたは、本当に子供の扱いが上手い」
【フェラン】
「そうでしょうか」
【セドリック】
「ええ」
【セドリック】
「特に、エンフェリアさんを落ち着かせるのが」
一瞬だけ沈黙。
フェランは、静かに目を細めた。
【フェラン】
「人は、鎖では繋げません」
【セドリック】
「……?」
【フェラン】
「必要なのは、“ここにいて良い”と思える場所です」
フェランは庭を見る。
エンフェリアが、子供に毛布をかけていた。
【フェラン】
「誰かに必要とされる場所」
【フェラン】
「それこそが、人を最も強く縛る」
セドリックは少しだけ息を呑む。
その言葉は、優しいのに。
なぜか少しだけ、怖かった。
――
庭。
私は、眠そうな赤髪の少女を部屋まで送っていた。
【少女】
「……お姉ちゃん」
【エンフェリア】
「ん?」
【少女】
「また、あしたもいる?」
私は首をかしげる。
そんなの、当たり前だ。
【エンフェリア】
「いるよ」
そう答えると。
少女は安心したように笑った。
私は、その笑顔を見て思う。
もっと頑張ろう。
もっと、みんなの役に立ちたい。
――そう思う自分が、少しだけ不思議だった。
その後ろで。
フェランだけが、静かにこちらを見ていた。
エンフェリアは、まだ気づいていない。
“ここが自分の居場所だ”と、思い始めていることに。




