第十一話:どうやら私、呼ばれるようです。
朝。
孤児院の前に、小さな列が出来ていた。
最初に気づいたのはルシアンだった。
【ルシアン】
「……なんだあれは」
門の外。
老人。
子供。
痩せた女の人。
みんな、不安そうな顔をして立っている。
【エンフェリア】
「?」
私が首をかしげていると、院長先生が慌てた様子で駆け寄ってきた。
【院長】
「エ、エンフェリアさん……」
【院長】
「どうやら街で噂になっているようなのです」
【エンフェリア】
「噂?」
【院長】
「病気を治せる少女がいる、と……」
ああ。
この前の子のことかな。
【ガレス】
「広まるのが早いな」
【セドリック】
「まだ戦火で荒れ果てていますからね。
皆、病には敏感です」
門の向こうから、咳が聞こえる。
【老人】
「頼む……少し診てくれんか……」
【母親】
「この子、熱が下がらなくて……」
私はみんなを見る。
つらそう。
苦しそう。
――助けられる。
そう思った瞬間。
胸の奥が、少しだけ熱くなった。
【エンフェリア】
「大丈夫だよ」
自然と声が出る。
【エンフェリア】
「順番に診るからね」
――
孤児院は、その日から少しずつ変わり始めた。
【ガレス】
「椅子が足りんな」
ガレスさんは庭で木材を組み始める。
【ガレス】
「待たせるなら座る場所くらい必要だ」
【セドリック】
「ではこちらで受付を」
セドリックさんは紙を並べて名前を書き始めた。
【セドリック】
「症状ごとに分けましょう。
熱、咳、怪我……」
【ルシアン】
「うむ。
では余が列を整理する!」
ルシアン様は胸を張って門へ向かった。
【ルシアン】
「押すな!
ちゃんと並べ!」
【子供】
「うぇぇぇん!」
【ルシアン】
「な、なぜ泣く!?」
【ガレス】
「声が大きすぎるんです」
なんだか賑やかだった。
でも。
嫌な感じはしない。
――
【エンフェリア】
「次の人どうぞ」
気づけば、私はそう言っていた。
少し咳をしている男の子。
熱を出しているお婆さん。
化膿した傷。
みんな苦しそうで。
でも、私には出来ることがある。
【エンフェリア】
「≪弱体化インフルエンザ≫」
病気を抑える。
熱を逃がす。
菌を弱らせる。
少し調整するだけ。
それだけで。
【患者】
「おお……呼吸が……」
【母親】
「ありがとうございます……!」
みんな、そう言ってくれた。
ありがとう。
ありがとう。
ありがとう。
胸の奥が、ぽかぽかする。
【エンフェリア】
「えへへ」
なんだろう。
すごく気持ちいい。
――
夕方になる頃には、孤児院は半分診療所みたいになっていた。
庭には待合椅子。
廊下には人。
食堂ではガレスさんが簡単な仕切りまで作っている。
【ガレス】
「診察室ってやつだな」
【ルシアン】
「おお。
余の孤児院が大きくなってきたな!」
【セドリック】
「殿下のではありません」
【セドリック】
「それに、これでは孤児院ではなく診療所です」
セドリックは珍しく、少しだけ眉を寄せていた。
たしかに子供達の世話と並行して治療するのは大変だ。
私は少しふらふらしていた。
でも、不思議と嫌じゃない。
だって。
みんなが喜んでくれるから。
【フェラン】
「……」
フェランだけが、静かにこちらを見ていた。
まるで私を観察するように……。
――
その時だった。
外で、騒ぎ声がした。
【兵士】
「道を開けろ!」
鎧を着た男たちが入ってくる。
その後ろには、豪華な服を着た中年の男。
見るからに貴族だった。
【貴族】
「おい。
病気を治せる娘はどこだ」
みんなの空気が変わる。
【セドリック】
「……失礼ですが、順番があります」
【貴族】
「黙れ」
男は鼻を鳴らす。
【貴族】
「私は男爵だぞ」
【貴族】
「平民どもと同じ場所で待てというのか?」
なんだろう。
この人。
怖いわけじゃない。
でも。
あんまり、助けたいと思えない。
【貴族】
「おい娘。
早く治せ」
命令みたいな声。
ありがとう、もない。
困っている感じもしない。
ただ。
当然のように言っている。
胸の奥の熱が、すうっと引いていく。
【貴族】
「早くしろ、時間を無駄にさせるな」
【エンフェリア】
「……」
初めてだった。
助けたくない、と思ったのは。
――
夜。
診察が終わった頃には、もう足がふらふらだった。
私は庭のベンチに座り込む。
【ルシアン】
「今日は頑張ったな」
【エンフェリア】
「うん……」
疲れた。
でも。
嫌じゃない。
【エンフェリア】
「ありがとうって言ってくれる人は……助けたいな」
ぽつりと呟く。
その時。
少し離れた場所で、フェランが静かに目を細めた。
【フェラン】
「なるほど」
小さな声。
誰にも聞こえないくらい小さな声。
【フェラン】
「エンフェリア様は、“感謝”によって、自分の役割を確かめておられるのですね」
夜風が静かに吹く。
フェランの瞳は、静かに細められていた。
まるで、何かの答えを見つけたみたいに
エンフェリアを見ていた。




