第一話:どうやら私、追放されるようです。
【勇者】
「お願いだ…どうか勇者パーティを抜けて欲しい」
その一言で、空気が止まった。
私は急にパーティ追放をお願いされてしまった。
ついさっきまで魔王軍を押し返していたはずなのに、
どうしてか、みんなの顔は青ざめている。
【私】
「私、なにかやっちゃいました?」
【戦士】
「やり過ぎだよ!」
【魔法使い】
「なんでわからないんじゃ…」
戦士は怒っていて、魔法使いは頭を抱えている。
どうしてそんな反応になるのか、私には分からない。
だって――
私のスキル《疫病マスター》で作った強化ペストLV2で、
魔王軍をいっぱい倒しただけなのに。
ちゃんと、すぐ楽になるように調整したのに。
褒められて当然でしょ?
【賢者】
「我々は勇者パーティです。虐――」
賢者の言葉を、勇者が遮った。
【勇者】
「分からなくていい」
その声は、どこか震えていた。
魔法使いが勇者の耳元で、小さく言う。
【魔法使い】
「なぜじゃ。このガキに、やって良い事と悪い事の違いを教えるべきじゃ」
【勇者】
「やってしまった事を、自覚させるべきではない」
私に聞こえないように話しているつもりみたいだけど、
なんとなく、分かってしまう。
でも、意味は分からない。
【忍者】
「別に良いだろ?」
おお、忍者君は分かってくれてるみたい。
少しだけ安心する。
【戦士】
「良いわけないわ!私達は勇者パーティよ。
魔王を倒す為のパーティで――」
【勇者】
「言うな」
また勇者が遮る。
どうしてそんなに必死なんだろう。
【私】
「悪い魔王軍をやっつけちゃダメなの?」
【勇者】
「僕達だけでやる。
君は何もしなくて良いんだ」
そう言って、勇者は私の頭を撫でた。
優しくて、少しだけ震えている手。
勇者の顔を見ると――
涙を流していた。
どうして?
まるで分からない。
忍者君なら答えてくれるかな。
【私】
「どうして?」
忍者は一瞬だけ周りを見て、そして言った。
【忍者】
「皆も活躍したいんだってよ」
……そっか。
私だけでやっつけたら、ダメなんだ。
そういうことなんだ。
【忍者】
「これで良いんだろ?」
【勇者】
「ああ、それで良い」
【賢者】
「では、私が聖王国首都まで連れて行きます」
話が勝手に進んでいく。
なんだか、もう決まっているみたい。
【私】
「ダメだよ!
私がいなきゃ負けちゃうよ」
【勇者】
「大丈夫だ。僕達を信じて、君は待っていてくれ」
【私】
「出来ないよ。
今までだって、私の作った病気で弱った魔王軍にもギリギリだったのに」
【戦士】
「そうだったのか…」
……ウソでしょ?
みんな、知らなかったの?
【勇者】
「それでも、だ」
勇者は私を優しく抱き包む。
逃がさないみたいに、少しだけ強く。
【勇者】
「僕が君を守るから」
【勇者】
「もう何も考えなくて良い」
その言葉は、慰めというより――
祈りみたいに聞こえた。
こうして私は、勇者パーティーを追放された。
そのあとに残ったのは、
魔王軍に支配されていた城塞都市と――
動かなくなった、二万二千四百八十一人の体だった。
私はそれを置いて、聖王国の首都へ向かった。
――
私は、タウリナ聖王国にある賢者ディエゴ様の御屋敷だった孤児院に来ています。
大きな門。広い庭。立派な建物。
でも――人の気配が、少ない。
なんで御屋敷が孤児院になっているかって?
もう、親族がいなくなったからだそうです。
魔王軍との戦いで、みんなお亡くなりになったんだって。
……かわいそう。
許せないよね、魔王軍。
今、目の前にいるのは、この孤児院の院長先生。
背中が少し曲がった、お婆さん。
でも、その目は――ちょっとだけ鋭い。
【私】
「はじめまして。
私はエンフェリア。8歳です」
【院長】
「まあまあ。ご挨拶できて偉いですね」
にこっと笑ってくれた。
優しそうな人で良かった。
――うん、大丈夫そう。
【賢者】
「エンフェリアさん。アナタは、ここで働いてください」
【エンフェリア】
「はい」
この国は大人が少ない。
みんな戦争で死んじゃったからね。
だから、子供だって働かないといけない。
それは当たり前のこと。
そう思っていたけど――
【院長】
「……わかりました。」
院長の声が、少しだけ重かった。
さっきまでの笑顔が、消えている。
どうしてだろう。
【賢者】
「ばあや、この娘を……どうか普通の子供として育ててください」
“普通の子供として”
その言い方が、少しだけ変だと思った。
でも、何が変なのかは分からない。
賢者様はそれ以上何も言わず、踵を返す。
まるで、ここに長くいたくないみたいに。
【院長】
「ぼっちゃま、どうかご無事で」
院長は深く頭を下げた。
その声は、祈るみたいだった。
私は手を振る。
賢者様も、少しだけ振り返って――
すぐに視線を逸らした。
どうして、みんなそんな顔をするんだろう。
私は、ただここで暮らすだけなのに。
――
それから、四年後。
屋敷はそのままなのに、街の音だけが変わっていた。
ざわざわと、落ち着かない気配。
遠くで、何かが壊れる音がする。
――ああ、来たんだ。
【院長】
「みなさん、集まって!」
院長の声は、いつもより少しだけ高い。
私は理由も聞かずに、子供たちを集める。
みんな、不安そうな顔をしている。
【院長】
「魔王軍が、この首都まで攻めて来ました」
その一言で、空気が凍った。
【子供A】
「勇者様達は?」
【子供B】
「勇者様がやっつけてくれるんじゃなかったの?」
院長は、ゆっくりと首を横に振る。
【院長】
「とにかく隠れましょう」
……隠れる?
逃げる、じゃないんだ。
じゃあ――
もう、城門は突破されてるのかな。
それなら、時間がない。
まいったなあ。
でも、大丈夫。
私が戦えばいい。
【エンフェリア】
「私、戦ってくる」
【院長】
「ダメよ、アナタも子供なのよ」
院長の声が少しだけ強くなる。
でも、違う。
【エンフェリア】
「ひっひっひ。
こう見えても私、勇者パーティの一員だったんだよ」
【エンフェリア】
(追放されちゃったけどね)
そもそも――
勇者様も、賢者様も、戦士様も。
みんな、私より五つか六つくらい年上だっただけの子供だ。
忍者君なんて、私より二つ上なだけだったし。
大人だったのは、魔法使いのお爺ちゃんくらい。
……そういえば。
忍者君、言ってたな。
“みんなも活躍したい”って。
そっか。
じゃあ――
みんなが戦いやすいように、してあげればいいんだ。
良し。
それなら――
≪強化赤痢LV2≫。
私は、いつも通りに病原菌を作る。
苦しくなりすぎないように、少しだけ調整して。
風に乗るように、そっと広げる。
これで、動きは鈍くなるはず。
あとは、みんなが倒してくれる。
さてさて。
魔王軍は、どうなっているかな?
私は、静かになり始めた街へと歩き出した。
――
おー、やってるやってる。
聖王国の兵隊さんが、魔王軍の兵をやっつけてる。
……うん、ちゃんと効いてるみたい。
魔王軍の兵は、みんな動きが鈍い。
しかも――
あちこちで、倒れてる。
糞まみれで。
プークスクス。
ちゃんと、苦しくなりすぎないように調整したけど、
ちょっと見た目はよくないかな。
でも、これなら戦いやすいはず。
うん、上手くいってる。
もう国中、糞まみれだ。
さて。
城門の方は、どうなってるかな?
私は、そっちへ歩き出した。
……。
…………。
なんだろう。
さっきより、静かだ。
【エンフェリア】
「あれ?誰か磔にされてるの?」
門の前。
高く組まれた木の上に、誰かが吊るされている。
風に揺れて――
……見覚えのある、服。
【エンフェリア】
「ウソ?勇者様、負けちゃったの?」
近づく。
足が、少しだけ速くなる。
やだ。
違うよね。
そんなはず――
私は、駆け出した。
目の前まで来て、ようやく分かった。
本物だった。
勇者様だ。
動かない。
呼吸も、ない。
私の頭を優しく撫でてくれた手もボロボロだ。
【エンフェリア】
「あ……」
胸の奥が、ぎゅっとなる。
なんで?
どうして?
勇者様は、強かったのに。
信じて待てって言ってくれたのに。
【エンフェリア】
「ああああああああああああああああああああああああ」
涙が、止まらない。
視界がぼやける。
許せない。
やっぱり――
私が、戦わなかったからだ。
私がいれば、負けなかったのに。
もういい。
もう、みんなに任せない。
【エンフェリア】
「≪強化天然痘LV4≫」
私は、いつも通りに疫病を作る。
今度は、少しだけ強めに。
すぐ終わるように。
苦しまないように。
風に乗せて、広げる。
それだけ。
あとは――
全部、終わる。
――
私は、孤児院に戻る。
さっきまで騒がしかったはずの街は――
もう、静かだった。
音が、しない。
風の音だけ。
【院長】
「なにがあったの?」
院長は駆け寄ってきて、泣いている私を抱きしめた。
背中を撫でる手が、少しだけ震えている。
【エンフェリア】
「勇者様が、死んじゃった」
言った瞬間、また涙があふれる。
院長の体が、ぴくりと揺れた。
【院長】
「……そう」
一瞬だけ目を閉じて、それからすぐに言った。
【院長】
「早く隠れましょう」
その声は、落ち着いているようで――どこか焦っている。
【エンフェリア】
「それは大丈夫」
【院長】
「なにが大丈夫なの!?」
今度は、はっきりと強い声だった。
【エンフェリア】
「やっつけた」
【エンフェリア】
「私が、全部やっつけた」
院長は、言葉を失った。
そして、耳を澄ます。
……。
確かに、何も聞こえない。
戦う音も、叫び声も。
【院長】
「……待っていなさい」
私をそっと離して、外へ向かう。
その足取りは、少しだけ重かった。
扉が開く。
光が差し込む。
――そして、止まった。
【院長】
「これは……」
外は、死体で埋まっていた。
倒れたまま動かない人たち。
動かなくなった兵士たち。
誰も、声を上げていない。
【エンフェリア】
「だから、言ったでしょ?」
私は、院長の後ろから顔を出す。
【エンフェリア】
「私が、全部やっつけたんだよ」
院長がゆっくり振り返る。
その顔は――
さっきまでと、少し違っていた。
【院長】
「どうやって……?」
【エンフェリア】
「私のスキル《疫病マスター》で、生み出した疫病でだよ」
ちゃんと、すぐ終わるようにした。
苦しまないようにした。
だから、問題ないはず。
【院長】
「それなら……どうして、私たちは感染していないの?」
【エンフェリア】
「私が守ってるからだよ」
簡単なことだ。
広げるのと同じくらい、守るのもできる。
院長は、何も言わなかった。
ただ、もう一度私を強く抱きしめる。
逃がさないみたいに。
【院長】
「ああ……ぼっちゃま……」
震える声。
【院長】
「私は……この娘を、普通の子供に育てられませんでした」
何に謝っているのか、分からない。
それよりも――
勇者様が死んでしまったことの方が、ずっと悲しくて。
私は、ただ泣き続けた。
――
三日後。
私と院長は、王城に呼び出された。
ご褒美をもらえるらしい。
……でも、少し変だ。
玉座の間には、王様と――ほんの数人しかいない。
本当なら、もっとたくさんの人がいて、
大きくお祝いするものじゃないのかな。
広い部屋が、やけに静かだった。
【タウリナ王】
「そなたが、エンフェリアか」
【エンフェリア】
「はい」
私は跪く。
視線を上げると、王様と目が合った。
その目は――笑っていなかった。
【タウリナ王】
「本当に、魔王軍を打倒したのだな?」
疑われている、というより――
確かめているような言い方だった。
【エンフェリア】
「はい。私のスキル《疫病マスター》でやっつけました」
【タウリナ王】
「……まだ、攻撃は続けているようだな?」
【エンフェリア】
「はい。もう少しで絶滅できるかと」
玉座の間にいた人たちの空気が、ぴたりと止まった。
誰も、声を出さない。
【タウリナ王】
「そうか」
短く、息を吐く。
【タウリナ王】
「攻撃を、解いてくれぬか?」
【エンフェリア】
「何故ですか?
もう少しで勇者様のカタキが取れるんですよ」
【タウリナ王】
「終戦協定を結ぶ」
【エンフェリア】
「終戦協定?結ぶ?意味が分からないです」
【タウリナ王】
「分からないのならば、それで良い」
少しだけ、言葉を選ぶ間があった。
【タウリナ王】
「攻撃を、止めよ」
【エンフェリア】
「で……でも」
【タウリナ王】
「命令だ」
その一言で、空気が固まる。
……仕方がない。
王様の命令だもの。
【エンフェリア】
「止めました」
私は、広げていた疫病を消す。
それだけでいい。
遠くで何かが途切れるような感覚がして――
部屋の空気が、少しだけ軽くなった。
【タウリナ王】
「……そうか」
王様は、ようやく息をついた。
そして、ゆっくりと笑顔を作る。
【タウリナ王】
「そなたは、我がタウリナ聖王国を救ってくれた英雄じゃ」
【タウリナ王】
「望む物を、なんでも与えよう」
望むもの。
そんなこと、急に言われても。
勇者様のカタキを取るのがダメなら――
……あ。
【エンフェリア】
「勇者様のお墓が欲しいです」
その一言で、周りがざわつく。
【タウリナ王】
「……そうか。分かった。作ろう」
【エンフェリア】
「ありがとうございます」
【タウリナ王】
「戦没者の慰霊のため、立派な神殿を建てよう」
【エンフェリア】
「でしたら、私を神殿で働かせていただけませんか?」
勇者様も、きっと喜んでくれると思う。
それに、孤児院よりも、こっちの方が――
ちゃんと役に立てそうだ。
王様たちは、小さな声で相談を始める。
その間も、誰も私に近づこうとしない。
【タウリナ王】
「……良いだろう。みなの魂に、安寧を与えてやってくれ」
【エンフェリア】
「それと、もう一つだけよろしいでしょうか?」
【タウリナ王】
「なんだ?」
【エンフェリア】
「他の勇者パーティのみんなも、探して欲しいです」
少しだけ、間があった。
【タウリナ王】
「……いいだろう」
【タウリナ王】
「他にはないか?」
【エンフェリア】
「うーん。それだけです」
【タウリナ王】
「そうか。では、下がって良いぞ」
それだけ言われて、私は立ち上がる。
広い玉座の間を、静かに歩く。
振り返ると――
誰も、笑っていなかった。
……。
エンフェリアが去ったあと。
玉座の間には、しばらく誰も口を開かなかった。
重たい沈黙。
やがて――
タウリナ王が、ゆっくりと息を吐く。
【タウリナ王】
「……作った疫病を、止められるのか」
その一言は、確認というより――
恐怖だった。
【大臣】
「なんたる……化け物だ」
【タウリナ王】
「余に逆らう気になるか、ヒヤヒヤしたぞ」
【大臣】
「魔王国の全人口の八割。
五千万を殺す怪物です」
【タウリナ王】
「劣勢だった我が聖王国と人口差が無くなるとはな」
【大臣】
「あの娘をこのまま放置するのは……いかがかと」
誰も否定しない。
できない。
【タウリナ王】
「……どうしたものか」
【大臣】
「暗殺、というのは――」
その言葉が終わる前に。
天井から、影が落ちた。
音もなく。
そこに立っていたのは――
勇者パーティにいた忍者。
【忍者】
「それは、オススメできませんよ」
【大臣】
「何故だ?」
【忍者】
「エンフェリアは、疫病を撒きながら――
疫病からタウリナ国民を守っている、と言っていました」
【忍者】
「もしエンフェリアが死ねば……
疫病だけが残る可能性があります」
【忍者】
「守っている“何か”が、消えるかもしれない」
【忍者】
「そんな可能性が……」
空気が、さらに冷える。
【大臣】
「……ぐむ……なんたる怪物だ」
【タウリナ王】
「……ならば」
【タウリナ王】
「やらかした事を自覚させ、反省を促すのはどうだ?」
【忍者】
「オススメしません」
即答だった。
【忍者】
「自発的にやった事ですから、他責にできません」
【忍者】
「心が崩れれば――何をするか、分からない」
【大臣】
「自暴自棄になられたら……」
その先は、誰も言わなかった。
言う必要がない。
【タウリナ王】
「余に怒りが向かぬ、良い方法だと思ったのだがな」
【忍者】
「勘弁してください」
短い言葉。
だが、それだけで十分だった。
再び沈黙が落ちる。
やがて、忍者が口を開く。
【忍者】
「……やはり、当初の予定通り」
【忍者】
「欲で縛るのが、現実的かと」
【大臣】
「しかし……あの娘の望みは、死者への追悼」
【大臣】
「欲望というには……あまりにも」
【タウリナ王】
「ならば――」
王は、ゆっくりと言葉を選ぶ。
【タウリナ王】
「男で縛る、というのはどうだろう」
【忍者】
「男?」
【忍者】
「……あれは、まだ子供ですよ」
【大臣】
「いや、子供であるならば」
【大臣】
「父親を欲するかもしれない」
【忍者】
「家族を与え――縛る、か」
誰も、それを否定しなかった。
【タウリナ王】
「……それが、ベターかもしれんな」
その決定は、静かに下された。
こうしてタウリナ王国は――
エンフェリアという災厄を“管理”するため、
色男たちを集め始めた。
――
――ドレイケルド王国。
「魔王国」と呼ばれた国。
だが彼らは、自らをそうは呼ばない。
彼らにとっての“魔王国”は――タウリナの方だ。
街は、静かだった。
人がいない。
いや、正確には――減りすぎている。
倒れているのは、戦えない者たち。
子供。
老人。
そして、病に耐えられなかった者たち。
ドレイケルドの王は、その中にいた。
次に玉座に座ったのは、若い王子。
まだ年若いが、その目は冷えていた。
【ドレイケルド王】
「……魔王国め」
吐き捨てるような声。
【ドレイケルド王】
「このような卑劣な攻撃をするとは、許しては置けぬな」
周囲の大臣たちも、言葉を失っている。
怒りというより――理解できない恐怖。
【大臣A】
「しかし……我が聖王国の立て直しには、戦などしている余裕はありません」
【大臣B】
「都市国家群に援助を依頼しておりますが……
あのような蛮行に対抗する術がなければ、応じてくれるかどうか」
【ドレイケルド王】
「恐怖による支配、か」
短く呟く。
【ドレイケルド王】
「……しかたあるまい」
【ドレイケルド王】
「正義だけでは、国は動かん」
その言葉に、誰も反論しない。
そこへ、伝令が駆け込んできた。
【伝令】
「情報をお伝えします!」
差し出された書簡。
王はそれを受け取り、目を通す。
そして――
わずかに口元を歪めた。
【ドレイケルド王】
「……ほう」
【ドレイケルド王】
「面白い情報だ」
大臣たちが身を乗り出す。
【ドレイケルド王】
「例の疫病の“原因”が分かった」
【大臣C】
「それは……?」
【ドレイケルド王】
「エンフェリアという、小娘のスキルだそうだ」
空気が張り詰める。
【大臣D】
「では、その者を排除すれば――」
【ドレイケルド王】
「違うな」
即座に否定した。
【ドレイケルド王】
「排除するのではない」
一拍。
【ドレイケルド王】
「引き入れるのだ」
その言葉は、あまりにも自然だった。
まるで――
最初から、それしか選択肢がないかのように。
【大臣B】
「……しかし、どうやって」
【ドレイケルド王】
「タウリナがやることなど、見えている」
【ドレイケルド王】
「“人で縛る”だろうな」
沈黙。
理解が広がる。
【ドレイケルド王】
「ならば、こちらも同じだ」
【ドレイケルド王】
「より良い条件で、奪えばいい」
その声に、迷いはなかった。
こうしてドレイケルド王国は――
エンフェリアという災厄を手に入れるため、
“選び抜かれた男たち”を集め始めた。
――
孤児院の前に、見慣れない馬車が何台も止まっていた。
立派な馬車。
黒塗りのものや、白い装飾が施されたもの。
どれも、この辺では見たことがない。
……お客さん?
でも、こんなにたくさん?
扉が開く。
一人、また一人と降りてくる。
知らない男の人たち。
みんな、綺麗な服を着ていて――
ちょっとだけ、怖いくらい整った顔をしている。
誰も笑っていないのに、形だけは完璧で。
なんだか、作り物みたいだ。
【エンフェリア】
「……なに、これ?」
私がそう言った瞬間。
男の人たちは――
まるで合図でもあったみたいに。
一斉に、跪いた。
音が、揃う。
土に膝が触れる、同じ音。
【男の一人】
「お会いできて光栄です、エンフェリア様」
え?
なんで?
どうして、私に?
【エンフェリア】
「……院長先生。この人たち、なに?」
振り返る。
院長は――
少しだけ、顔を青くしていた。
そして、ゆっくりと。
私の肩に手を置く。
逃がさないみたいに。
【院長】
「……エンフェリア」
その声は、いつもより低くて。
少しだけ、震えていた。
【院長】
「この方たちは――」
男の人たちが、顔を上げる。
全員の視線が、私に集まる。
逃げ場なんて、どこにもないみたいに。
【院長】
「アナタのために、用意された方たちよ」
【エンフェリア】
「……私のため?」
誰が?
どうして?
分からないことばかりなのに。
みんな、私を見ている。
まるで――
大事なものみたいに。
それとも、
壊れやすいものみたいに。
――
これは、とある乙女ゲームに存在する“はずだった”スクリプト。
けれど――
どこかで、間違えた。
この世界は、
“選択を誤れば、終わる”。
※もう1本、新作も投稿しています。
番長の主人公が、生徒会長に雇われて異世界ダンジョンへ行く学園冒険ものです。
『【日給5万】番長の俺、異世界ダンジョンで生徒会長に雇われた結果』
軽めのテンポ作品を読みたい方はこちらもぜひ。




