レモンカッシュ
ダンジョン近くの街であるレモンカッシュに着いた。そこにある高級宿に移動していく。部屋割りは、セレーネ、フェリシア、マリアの三人、テレサ、ルリナの二人、カノン、スピカの二人で一部屋ずつという割り振りだ。一番広いセレーネ達の部屋が全員で集まる部屋となる。
カノンは自分の荷物を部屋に置いて、セレーネの部屋でセレーネとフェリシアの荷物を整理していく。セレーネとフェリシアはベッドの上に隣同士で腰を掛けていた。
「基本的にはマリアさんがいらっしゃいますので、マリアさんの言う事はしっかり聞いてくださいね?」
「うん。そういえばマリアは?」
セレーネはマリアが部屋からいなくなっている事に気付いてカノンに訊く。
「今は、スピカと情報を集めて貰っています。これから行くダンジョンと街の様子に関して調べておいた方が良いので」
「ふ~ん」
そんな会話をしていると、正装をしたテレサとフォーマルなメイド服を着たルリナが部屋に入ってきた。
「お姉様、そんな格好してどうしたの?」
「ここの領主であるシャルトルーズ卿が領主の館にいらっしゃるようだから、挨拶をしてくるわ。面識がない訳でもないし、一応挨拶しておいた方が良いのよ。お父様から、この待ち滞在するって話も通してあるらしいから、余計にね」
「私も行った方が良い?」
「セレーネは表に出て来ていないから良いわ。フェリシアも今はセレーネに付いていなさい。取り敢えずは、街に出ないように」
「は~い」
「はい。分かりました」
テレサはそう伝えると、そのまま部屋を出て行った。ルリナもセレーネ達に頭を下げてから部屋を出て行く。
「あれが貴族のしがらみか」
「貴族のセレーネが言う言葉じゃないわね」
呆れたように言うフェリシアに、セレーネは少しむくれる。
「だって、貴族らしい事なんてしたことないもん。そういう事をせずに育つようにお父様が手を回してるし」
「永遠を生きる上で、貴族らしく生きるのは、色々と無理があるものね。どこかで死んだことにならないと自由になれないでしょうし」
「フェリシアは、そういうのに詳しそうだよね」
ついこの間までウルトラマリン家で貴族について学んでいたフェリシアの方がそういった貴族同士のやり取りや礼儀作法に詳しそうだとセレーネは考えていた。
それに対して、フェリシアは少し澄ましたような顔になりながら応える。
「ある程度はね。私も貴族に嫁ぐ可能性があったから、嫁ぎ先を立てるために、色々と学ぶ必要があったから。テレサ様も同じじゃないかしら?」
それに対して、前に話を聞いた事があるセレーネは首を横に振った。
「ううん。お姉様は嫁ぐ気がなかったから、そういうのはないと思うよ。お父様は、そこまで強要したくないって人らしいから、お姉様も無理矢理婚約者を作られるって事もなかったみたい。お父様もそういうところは貴族らしくないんだってね」
ラングリドの考え方を聞いて、フェリシアは頷く。
「そうね。娘の事は、家同士を繋ぐ道具くらいにしか思わないのが普通だものね。お父様もその意識が多少あったはずよ。道具とまではいかなくてもね」
「ふ~ん……やっぱり貴族って要らないと思う」
ここまでの話を加味して、セレーネはその結論が口に出た。これまで巻き込まれた事件に加えて、面倒くさい慣習など、そもそも必要ではない要素が揃いすぎているのではないかと思ったのだ。
「そうでもないわよ。やっぱり、国の領土となっている土地の管理とかに人が必要だもの。それを管理する役割を担うのが貴族の仕事の一つなのよ。後は、社会秩序を整えるためにもね。セレーネの言うとおり、存在しない方が良い家があるのは事実だけれど、お父様達のように、その悪い部分を切り落とそうとする良い貴族もいるわ。そうして、秩序を保つために動くのも貴族の役目よ。そのための政略結婚みたいな事もあるのよ。有事の際に、互いに協力しましょうねって事ね」
「仲良くして悪さをしようって感じ思えちゃうけどね」
セレーネの本音に、フェリシアは苦笑する。
「そういうためのものもあるわ。まぁ、どちらにせよ、当事者である私とかの意見が通る事は、ほぼないわ。今回みたいな事がない限りはね」
「ふ~ん……でも、フェリシアの婚約者って、問題児だったんでしょ? よく政略結婚の相手に出来るよね。面子を保つなら、そういうところも意識しそう」
「そうね。まぁ、子供が問題児しかいなかったら、問題児と政略結婚させるしかないもの。仕方ないわ」
「でも、フェリシアは私と結婚するもんね」
「そうね」
セレーネは嬉しそうにフェリシアの膝に頭を乗せて寝転がる。そんなセレーネの頭をフェリシアは優しく撫でた。柔和に笑ったセレーネは、ふと気になった事があった。
「そういえば、カノンは情報収集に行かないの? カノンはよくやりそうな感じがするけど」
カノンのこれまでの行動から考えて、こういう時には率先して情報収集に向かうのではないのかとセレーネは思ったのだ。マリア達だけに任せっきりにはしないだろうとも考えている。
「はい。私は夜にスピカと情報収集に行ってきます。夜で無ければ分からない事もありますので」
「ふ~ん……カノンの好きな人ってスピカ?」
「ぶふっ……けほっ! こほっ!」
唐突なぶっ込みにカノンは気管に唾液が入ってしまい咽せる。それをセレーネはジト目で見ていた。
「本当にそうだとは思わなかったよ。私のところに帰ってくるなら、スピカと恋人になって結婚しても平気だよ? さすがに、スピカが望まない限り眷属にはしないけど」
「あ、はい……スピカも眷属になる事は望まないでしょうから、そこは大丈夫です。眷属になれば、教会を変えるというスピカの目的も達成出来なくなるかもしれませんから」
「ふ~ん……でも、結婚は出来るって事だよね」
「そうですね」
セレーネは、フェリシアの膝の上からカノンをジッと見る。カノンは、軽く目を逸らしていた。セレーネの眼差しを正面から受けきれなかったのだ。
「前も言ったけど、カノンが後悔しないようにね」
「はい」
カノンは素直に頷く。それを見たセレーネは、フェリシアの膝から頭をどかして、カノンの元に向かい抱きついた。
「カノン大好きだよ。ちゃんと自分の気持ちに素直になってね。私は長く待てるけど、普通の人はそうじゃないんだから」
「っ……はい。そうですね」
今の会話でカノンはセレーネの想いを胸に刻む。そして、セレーネを抱きしめて、頭を撫でた。フェリシアは、そんな二人を微笑みながら見ていた。




