初めての海水浴
翌日。マリアがセレーネを起こしている間に、カノンはジーニーと共に朝食の準備をしていた。
「まだ眠いのではないですか?」
調理をしながら、ジーニーがカノンに確認する。
「いえ、二、三日眠らなくても大丈夫ですので」
「それは、眠くないという返事にはなりませんよ」
「じゃあ、眠くないです」
「そうですか。外はどうしたか?」
カノンが手に入れた情報は、ジーニーも知っておきたいものなので、その確認もする。
「魔物の数は、かなり少ないです。騎士が討伐してくれたのは本当のようですね。それでも新しく二、三体生まれてはいました。遠くの方にも音が聞こえましたが、さすがに遠すぎたので大丈夫かと。今夜も確認しますが、基本的には問題ないと思います」
「分かりました。こちらも結界を少しだけ強めにしておきましょう」
「道具が保ちますか?」
「現在は大分余裕を持って稼働していますので、もう少し強化する分には問題ないかと」
「そうでしたか。では、お願いします」
そんな話をしている間に、どんどんと料理が出来上がっていく。朝食という事もあり、そこまで重い物は作っていない。食パンにスクランブルエッグ、ソーセージにサラダとスープだ。
セレーネ達が食卓に着いてから、食事を並べていき全員で食べる。食べ終えた後は、マリアとシフォンで片付けをして、カノンとジーニーでセレーネとフェリシアの着替えを手伝う。カノンとジーニーも同じく着替える。
セレーネの水着は、水色のタンクトップビキニだった。太腿も少し隠れるくらいのショーツにしているので、露出は低い。カノンは、青いビキニに花柄のパレオを巻いている。これはセレーネが選んだものだった。
「一応、ゴーグルも付けておきましょう。目に水が入るといたいですからね。髪が巻き込まれる可能性が高いですから、お気を付け下さい」
「うん!」
セレーネ達が着替え終わったタイミングで、マリアが部屋に入ってくる。
「洗い物終わりました……おっ、もう着替えたんだね。可愛い!」
「ふふん!」
「私も着替えて来ちゃいますね。荷物は、私が持っていきますので、先に行っちゃってください。セレーネのわくわくが止められないみたいなので」
マリアがそう言うので、カノンがセレーネの方を見ると、待ちきれないというように身体を揺らしていた。
「そのようですね。では、お願いします」
「はい」
カノンはセレーネを抱き上げて部屋を出る。そのまま屋敷を出ると、セレーネが出て来た事に気付いたクロが起き上がってやって来た。
「にゃ~」
「クロも海で泳ぐ?」
「にゃ」
セレーネの確認に頷いたクロは、カノンの横に並ぶ。そうして砂浜に来たところで、セレーネを降ろす。すると、セレーネは先に来ていたフェリシアとシフォンの元に向かった。フェリシアは、白を基調にした花柄のタンクトップビキニを着ており、腰にはパレオを巻いている。シフォンは、ピンクのビキニを着ている。恥ずかしいからか、下にはショートパンツも穿いている。
「セレーネ、日焼け止めは塗ったの?」
「日焼け止め?」
「ひ、日焼けを抑えるクリームだよ……?」
「知らない」
セレーネはそう言いながら、カノンを見る。
「日焼けは火傷の一種のようなものですので、私達には関係ありませんよ」
「だって」
日焼けによる火傷も、セレーネ達真祖と眷属は再生によって治してしまう。一時的に肌が黒くなってしまうという事もない。その分、魔力は消費してしまうが、吸血衝動を心配するような消費にはならないので、問題はない。
「そこは羨ましいわね」
「そんなにヤバいの?」
「酷ければ魔術に頼る事になるわね」
「へぇ~……それより、海入ろ! 初めてだから楽しみ!」
「セレーネはブレないわね……まずは、準備運動からよ」
「えぇ~……」
「えぇ~、じゃないわよ。セレーネは再生出来ても、私達は魔術が必要になるのよ。それに、セレーネも怪我はしたくないでしょう?」
「は~い」
セレーネ達は全員で一緒に準備運動をする。念入りに身体を伸ばしていると、荷物を持ったマリアとジーニーも合流する。マリアは、黄色のタンクトップビキニにパレオを巻いている。ジーニーの方は黒いビキニとパレオを巻いていた。
マリアとジーニーは、シートを敷き、ビーチパラソルを差して日影を作る。そこに荷物を置いて、二人も準備運動をしてから、皆で海に入る。
セレーネは、海の波が自分の足に掛かって、一瞬怯んだが、ゆっくりと波に向かって進んでいく。
「カノン! カノン! 冷たい!」
「海ですから。この水が海水です。塩分が高いので、絶対に飲まないようにしてください」
「うん! これに塩が溶けてるんだ……」
セレーネは、手のひらで海水を掬う。そして、【水球】を少し改造して海水の水分のみを取り除いて球にする。すると、手のひらに塩の粒が残った。
「カノン、塩」
「本当ですね……錬金術の一種である分離です。ですが、絶対に舐めないようにしてください。塩ですから」
「は~い」
そんな二人を見て、フェリシアは唖然としていた。
「ジーニー、【水球】での分離って、あんなに簡単に出来るものなの?」
「【水球】の生成において、海水中の水分のみを使用するという制限を掛けつつ、魔力を制御すれば出来ます。とはいえ、最初から成功出来るのは、さすがという他ないでしょう」
「そう。それにしても、こんなところで塩の生成をするだなんて、セレーネらしいわ」
「えいやっさ!」
「ぶっ!?」
感心しているフェリシアにセレーネが水を掛ける。
「フェリシア! 遊ぼ!」
「そういう遊びをご所望なら、全力でやってあげるわ! シフォン! 行くわよ!」
「え? あ、わ、私も……!?」
「当たり前でしょ! やられっぱなしでいられないわ!」
「んなっ!? シフォンを召喚するなら、こっちはマリアを召喚するもん!」
「えっ!? ま、まぁ、良いですけど」
こうして二対二の水合戦が始まった。全員ゴーグルを着用し、遠慮無しの水の掛け合いが始まった。基本的にセレーネとフェリシアが激しくやり合っている。マリアとシフォンは二人を援護する形で水を掛け合っている。
そして、何よりも全員が笑顔だった。
「まぁ、魔術を使わないだけ安全ですよね」
「そうですね。後で水分補給をして貰わねばなりませんが」
カノンとジーニーは、少し離れたところで水合戦を見守る。二人は、それぞれで警戒を欠かしていなかった。
そして、四人がくたくたになったところで、一旦海から上がる。シートにタオルを敷いて、セレーネとフェリシアを寝かせる。
「海楽しいね」
「それは良かったです。次は少し泳ぎましょうか」
「うん!」
カノンとジーニーが用意した飲み物などを飲みつつ、軽食を食べていく。そして、再び海へと繰り出した。先程の水合戦ではなく、泳ぎの練習が始まった。セレーネはカノンが、フェリシアはジーニーが、シフォンはマリアが泳ぎを教えていく。
「むぅ……泳ぐの難しい……」
「これまであまりやっていませんでしたからね。王都に戻ったら、プールにも行きますか?」
「うん!」
足が着かない場所なので、セレーネやフェリシアは、それぞれカノンとジーニーに抱えられていた。シフォンを抱える事は出来ないので、マリア達は浅瀬付近で練習していった。
泳ぎの練習はそこそこに再び浅瀬で遊び始める。
「えいっ!」
「きゃっ!? セレーネ、飛びついたら危ないでしょ」
セレーネがフェリシアに飛びつき、フェリシアが尻餅をつく。フェリシアに被さるようにしたセレーネは、悪戯っぽい笑みを向ける。
「えへへ、次はシフォンだ!」
「えっ!? わ、わぁ……?!」
シフォンにも飛びついたセレーネは、シフォンにぎゅっと抱きつく。シフォンは、そのまま後ろに倒れて海に入る。
「ぷはっ! セ、セレーネちゃん……」
「えへへ、ぎゅーっ!」
セレーネに抱きつかれるシフォンは、少し戸惑っていたが、小さく笑った。同級生だが、こうしていると本当の年齢差に戻ったような感じがして、セレーネを妹っぽく感じていたからだ。
「あっ、本当だ。シフォン、少し大きくなってる」
「セ、セレーネちゃん、それ目的だったの!?」
さりげなくシフォンの胸に顔を押し付けていたセレーネは、シフォンに僅かな膨らみがある事を確認した。セレーネの目的を知ったシフォンは、驚愕していたが、セレーネが可愛いので、すぐにどうでも良くなった。
「フェリシアも確認しよっと」
「そんな事をするなら、セレーネのも確認するわよ」
「つまり、早い者勝ち!」
「いや、その理屈はおかしいでしょ……」
呆れているフェリシアから先行して、セレーネが飛びつこうとする。だが、いつもでやられてばかりのフェリシアではない。スッと横に避けて、セレーネの後ろから抱きしめる。その流れで手を胸に当てた。
「まぁ、普通よね」
「よいしょっと!」
セレーネは、その場で回転して、フェリシアと対面になるようにする。至近距離でセレーネの顔を見る事になった。フェリシアは、一気に顔を赤くする。そんな、フェリシアの脇腹をセレーネが軽く突っつく。
「ひゃっ!?」
「わっ!?」
驚いたフェリシアは、その場で尻餅を付く。セレーネを抱きしめた状態だったので、セレーネも倒れる事になり、セレーネがフェリシアを押し倒した状態になった。
「にしし! 私の勝ち!」
「覚えてなさい。絶対に仕返しするから」
フェリシアは強気に笑い、セレーネを膝に乗せた状態で上体を起こす。セレーネの腰に手を回してセレーネを支え、セレーネはフェリシアの肩に手を回している状態だった。
そんな二人をシフォンとマリアは並んで見ていた。
「ど、どう見ても、恋人にしか見えないですよね……?」
「まぁ、仲良きことは良い事だから良いんじゃない」
「マ、マリアさんは、思うところがあるのでは……?」
「ん? お嬢様と? ないない。お嬢様の事は愛しているけど、恋人になりたいとは思ってないよ。お嬢様を守って、最後まで仕えるのが使命だから。そういう風になるとしても、恋人としてじゃなくて、身体だけの関係ってなるんじゃない?」
「うぅ……お、思ったよりも、マリアさんが大人な人だった……」
「これでも年上ですから」
シフォンとマリアも、先程の泳ぎ練習などを通じて仲良くなっていた。こうして、二日目の海水浴が終わっていく。セレーネは、初めての海を大満喫した。




