謹慎明け
セレーネの謹慎明け。休日を挟んだため、計五日間も休む事になったが、カノンの授業もあり、セレーネは退屈せずに過ごす事が出来た。そうして学園に来たセレーネを待ち受けていたのは、フェリシアだった。
学園の入口の端で仁王立ちをしているので、周囲からの視線を浴びているが、本人は特に気にした様子もない。隣に侍っているジーニーも特に気にした様子もなかった。
それを見たセレーネは、真っ直ぐフェリシアの元に来た。セレーネの姿を見たフェリシアは、短く息を吐く。
「フェリシア、久しぶり!」
「んなっ!?」
セレーネは、何の迷いもなくフェリシアに正面から抱きついた。突然抱きしめられたフェリシアは、顔を真っ赤にしながら狼狽していた。だが、決してセレーネを突き放すという行為はしなかった。
「あぁ……フェリシアって安心するね」
「な、何を言ってるのよ……取り敢えず、ちゃんと復学出来て良かったわ」
「まぁ、これで出来なかったから、学園側が訴えられるだけだからね。何か変わった事はある?」
セレーネはそう言いながら、さりげなくフェリシアと手を繋いだ。フェリシアは、耳まで赤くする。すぐにセレーネが歩き出してしまったので、その状態のまま歩く事になった。そんな二人をカノンとマリアは苦笑いで見ていた。ジーニーの方は特に表情も変えずに付いていく。
「と、特にはないわ。でも、周囲からの目は避けられないと思うの。実際、私もジロジロと見られたりするから」
「ふ~ん……まぁ、それはどうでもいいや。シフォンは?」
自分が見られる事自体は、封印の紋様で慣れているので、特に気にする事ではない。なので、次にシフォンの事を質問した。こっちも重要な上、とても気になっている事だったからだ。
「二日程休んではいたけれど、休日前には戻って来たわ。やっぱり、ちょっと怖かったみたいね」
「それはそうだよね。でも、戻ってこられたなら良かった」
「ええ。後は、加害者達の事だけど、学校内でも公表がされたわ。それでいて、今回と似たような出来事に心当たりのある生徒から事情を聞く事になったみたいよ。そこの詳しいところは分からないのだけど、他にも何人か停学処分になったわ」
「じゃあ、他にもシフォンのような被害に遭った生徒がいたって事?」
「加害者もね。当時の被害者と加害者に関しては、分かる範囲での対処になるみたいよ。あまりに古すぎたら、対処の仕様も無いから。現場となる場所は、基本的に教授陣が普段は近づかない場所。同時に警備の目も薄い場所だったそうよ。今後は、そこら辺の警備を増やして、学園内での死角を減らす動きになるわ」
「ふ~ん……取り敢えずは、良い方向に進んでるって事だね」
「そうね」
今回の事件発覚を受けて、学園は変わり始めていた。これまで同じような事をしていた生徒は、自分の事件の発覚を恐れる事になる。そこから口封じに動こうとして、新たなる事件になる事もあった。だが、それでもシフォンのような暴力を振われた後の被害者はいない。その前に捕まえる事が出来たからだ。既に被害に遭った人達に関しては、学園側でも救う事は出来ない。
だが、これに関しては最大限の援助をする事になっていた。その申請を受けて、更なる加害者の発見に繋げられればというのが、学園側の考えでもある。
「では、お嬢様。私達はここで」
「うん。また後でね」
使用人待機室が近づいたので、カノン達とは中等部校舎に入ったところで別れる事になる。校舎に入った後でも、セレーネはフェリシアと手を繋いだままだった。そのせいで、顔の赤みが引いたフェリシアでも、耳だけは真っ赤になっていた。
「そういえば、課題の方は?」
「わ、私が進めておいたわ。休日前には、シフォンも一緒にやったから、少しは進んでいるわね」
「そっか。ごめんね。参加出来なくて」
「仕方ないわ。セレーネを庇いきれなかった私のせいでもあるもの」
「そんな事はないと思うけど、ありがとう」
セレーネがフェリシアを見て微笑むと、フェリシアの頬が赤く染まる。
(もう……この子の笑顔は反則ね……)
フェリシアは、小さく微笑む。そうして会話している間に、セレーネ達の教室に着いた。
「大丈夫?」
「大丈夫。ここまでも別に気にしてなかったでしょ? これのせいでチラチラ見られるのは慣れてるからね。うざいとは思うけど、不安にはならないよ」
「そういうところは強くて羨ましいわ。じゃあ、入るわよ」
「うん!」
セレーネが教室内に入ると、クラスメイト達の視線が一気に集中した。セレーネ自身が言った通り、一瞬その視線をうざく感じたものの、その場で止まる事なくフェリシアと一緒に自分の席へと移動する。
「シフォンは……まだ来てないみたい」
「あれから、いつもよりも遅く通う事にしたみたいよ。早く行けば、また捕まる可能性があるからって」
「授業に出ていなかったら怪しまれるからね。外で待っておくべきだったかな?」
「よしなさい。シフォンは、今自分と戦っているわ。ここを乗り越えられるかどうかが、あの子の今後を左右する事になる。私達は、いつも通りに接するのが一番良いのよ」
「フェリシアって、大人だよね」
「そうでもないわよ」
フェリシアは否定するが、セレーネからすれば、フェリシアの考え方は十分に大人らしいと感じるものだった。知識などの頭の良さは、フェリシアとほぼ変わらないどころか、上と言っても良いくらいのセレーネだが、こうした考え方の違いからフェリシアが大人っぽいと思わされていた。
(お父様もフェリシアみたいな考え方をして欲しいんだろうな……でも、私には無理だ。私には、それが最善、最適な方法だとは思えない。だって、人は何をしてくるのか分からないのだから……)
セレーネは無意識に自分の手を首に持っていく。あの時、男に絞められた首。正確に言えば、絞められた後にへし折られた首。あのような行動をする人間を知っているセレーネからすれば、今後何をするか分からない奴等を野放しにしている状況は、ある意味での恐怖だった。その恐怖心から、思わず手が伸びていたのだ。
「首がどうかしたの?」
「え?」
セレーネの無意識の行動にフェリシアは疑問を持つ。急に自分の首を絞めるように手を持っていくのだから、少々心配してもおかしくはない。
言われて自分の行動に気付いたセレーネは、首に持っていっていた手を離して、両手を横に振る。
「ううん。何でもない。あ~あ、早くシフォンに会いたいなぁ。早く来ないかな」
「そうね。シフォンもセレーネに会いたがっていたわ。助けてくれたお礼を改めて言いたいそうよ」
「当たり前の事をしただけなんだから、そこまで気にしなくても良いのにね。私は、好きでやっていたわけだし」
「それでも命の恩人である事には変わらないわ。ちゃんと受け止めてあげなさい」
「だね」
セレーネは、シフォンが早く来ないかと足をぱたぱたさせながら待っていた。だが、この日シフォンが学園に来る事はなかった。




