敷地の視察
翌日。屋敷の寝室で起きたセレーネは、フラフラとしながら寝室を出て洗面所へと向かう。その途中で下から上がってきたカノンがセレーネを抱えて洗面所へと運ぶ。
テキパキとセレーネの支度を整えていき、朝の準備が完了した。
「う~ん……まだ慣れないね」
「まだ一日ですから。食堂にて朝食の準備が出来ていますので参りましょう」
「うん。朝ご飯を食べたら仕事かぁ。執務室は、別の屋敷なんだよね?」
「はい。今日はそちらの中を案内し、壁上の視察及び壁の際の視察を行います」
「歩きそう」
「そうですね。今日は机にいるよりも歩いている時間の方が長いと思います」
「まぁ、完成したなら調べる必要はあるもんね。クロ、ご飯行くよ」
「にゃ~」
クロの食事も食堂に置いてあるため、セレーネと共に食堂へと向かっていく。既にフェリシア達が食堂に集まっていた。セレーネの寝起きの悪さは全員知っているために、セレーネが最後になっていても誰も文句はない。
全員で朝食を摂りながら予定を確認していく。
「取り敢えず、最初に皆の仕事道具になる思考機を執務用の屋敷に設置するね。それ専用に小さな部屋を用意してくれているみたいだし。その後に、私は色々と見て回る事になるけど、皆は思考機の設定を見直しておいて」
「分かったわ」
朝食を食べ終えた後で、セレーネはカノンと共に執務用の屋敷に向かっている。そちらの屋敷はセレーネ達が王都で暮らしていた別邸と同じ大きさがある。浴場などが無い代わりに部屋数が多くなっている。そのうちの一部が、フェリシア達が使う思考機の設置場所となる。思考機の改良などを考えて思考機一つを設置してもある程度ゆとりがあるようになっていた。
セレーネは思考機の設置をしていき、カノンは机などを設置して作業をしやすいように整えていった。何度も思考機の組み立てと解体を行っているため、セレーネも慣れた手付きで組み立てていた。
「こういう組み立ても自動で出来ると助かるんだけどね」
「そうなると新しい魔術陣を組み込む事になるので、干渉してしまうのでは?」
「うん。私もそう思う。だから、やろうと思ってもやれないの。一番良いのは、ゴーレムに頼む事かな。そういう事も出来るようにするために色々と頭を良くした訳だし。やり方を教えればどうにかなると思うけど、ここでしっかりと組み立てないと、後々に響きそうだからなぁ」
「簡単なものの組み立てからやって貰う方が良さそうですね」
「そうなるかな。色々と改良もしたいから、それの後になりそうだけど」
「早くそちらの研究に移れると良いですね」
「うん」
そうして三基の思考機を組み立てた後は、自分の執務室に思考機を設置する作業に移る。この思考機は、様々な情報を保存させており、セレーネが仕事をする上で必要になるものを素早く検索出来るようになっているものだった。
自身の研究用の思考機は、自室に設置する予定だった。そちらには研究用の資料が詰まっている。
「さてと、後は何か設置するものある?」
「ナタリアの思考機に関しては、ナタリア自身で設置すると思います。資料の運び込みも昨日のうちにマリアナが終えていますので、後はこちらの屋敷内の案内になります。基本的には、それぞれの仕事部屋があるという形です。大人数での話し合いには、広さが異なる会議室が三部屋あります。一階には、応接室が四部屋ほどあります。基本的にはお嬢様はご自身の執務室がある三階での作業となるでしょう」
「なるほどね。ここにマリアナの家が繋がるんだよね?」
「はい。この隣に建設中です。ナタリアはしばらく客室にてユリーナと生活します。総合研究室の研究棟が街に出来れば、その近くに住居を建てるとの事です」
「別にこの敷地内でも良いけど、総合研究室に人が入るようになるとしたら、ここの外にあった方が良いって事?」
「はい。既にマリアナと話し合い済みです。お嬢様の安全が第一ですから」
一通り執務用の屋敷を見て回ったセレーネは、今度は壁の視察へと向かう。屋敷から壁までは、多少距離がある。攻め込まれた時やセレーネの野外実験に備えての事だった。
壁に着いた後は、壁に沿って歩いていく。
「壁の上にいく階段は、何カ所かあるの?」
「はい。一箇所しかないのは防衛の面でも不便ですので。当初の予定では梯子にする話でしたが、後々に安全を考え、この形になったそうです」
「そうなんだ。じゃあ、壁上から見ていこう」
「はい」
セレーネは壁に設置された階段を上って壁の上へと移動する。縁には欄干が設置されており、落ちにくいようにされている。
「壁の上には特に何もないんだね?」
「はい。武器の設置をどうするかで騎士団とマリアナが協議しているとの事です。街中に向かって放たれる武器になりますので、マリアナとしても街に向かって放たれるものという事もあって、慎重に考えているそうです」
「まぁ、確かに街の外の壁ならともかく、ここは街中になるもんね」
「はい。この辺りは具体的にどうするか決まり次第お嬢様に相談する事になると思います」
「まぁ、街中に放つものなら、私よりもマリアナ達で話し合った方が良さそうだね。私は、大きな魔術を使った防衛機構くらいしか思いつかないし。街中だと繊細な威力調整が必要になるしね。まぁ、そこまで攻め込まれてるなら、もう関係ないとも言えるけど」
「復興なども考えれば、なるべくなら損壊させたくありませんからね。お嬢様も何か考えがあればマリアナまで」
「うん。私が思いつくのは定点攻撃だけど」
「攻撃が落ちる場所を固定させるという事ですか?」
「うん。街の被害が最小限で済みそうでしょう?」
「運用が難しそうですが」
「だよね。だから、マリアナに任せる。多分、そうなると思ってマリアナも自分のところで練ろうとしてると思うし。私は海の外敵に備えた機構をじっくり考える。フェリシアの氷が一番有効的っぽいけど」
「頑張りましょう」
そんな話をしながら壁の上の視察をしていたセレーネは、外の方に工事を開始している職人達の姿が小さく見えたので立ち止まった。
「あそこが街の端っこ?」
「はい。ここは少し小高くなっていますので、ギリギリ見えるようですね。大体王都の半分ほどの広さになります」
「それと同等規模の街が学術都市になるって事?」
「はい。壁の建造を行い、内部で安全に工事を出来るようにします。その後、学術都市の壁を建造しつつ街の建物を建てていくという形でしょうか。その辺りは、マリアナとの話し合いになるでしょう」
「結局は、あの壁が出来上がってからの話っぽいね」
「はい」
「それまでは、全体的な領内の把握と港の設計と壁の上の防衛機構と思考機の改良とゴーレムの改良と聖域の調査と儀式魔術の勉強かな。空間魔術の研究とかもしたいけど、ちゃんと優先順位を付けて片付けていかないとね」
「はい。その前にこの壁の視察などを全て済ませてしまいましょう」
「うん!」
セレーネは大きく壁を一周しながら壁に問題が無い事を確認しつつ、メイド達の宿舎の建設の様子などを見ていった。その日の仕事はそれで終わり、ゆっくりと休む事になる。




