港建設の下準備
それから一週間の間に、セレーネは空気質調査魔術道具も作っていき、聖域内の情報の整理もされ始めていた。雨が降った事もあり、それぞれの魔術道具が正常に動いているという確認も取れた。
調査内容は、フェリシア、ユイ、ミュゼルがまとめている。セレーネは、屋敷建設の進捗の確認及び雨によって軽く増水した川の確認を行い、港建築の予定を立てるために、海岸の確認などをしていた。
今は、そうして増えていった情報の整理に追われている。
「港の建築をする場合、こちらに港町を作るのが良いと思われます。幸い砦の近くが一番建築しやすい場所でしたので、砦の横に街を作るというのが良いかと思われます。壁に関しては、調整が利きますので」
「取り敢えず、予定地にして造船所とかも作らないとでしょ?」
「はい。砦から離れる事になりますが、この辺りが良いかと」
「街は横に広くなる感じかな?」
造船所までカバーする事を考えれば、街の範囲は海岸線に沿っていく事になる。そのために、セレーネのイメージでは横に広くなるという風になっていた。
「そうですね。最初はそうなるかと。防衛機構の方は如何されますか?」
「ナタリアと考える。自動で攻撃するような感じが良いよね?」
「敵味方の識別は如何されますか?」
「船を落とす感じだから、船に識別用の何かを付ける……奪われると困るかな?」
この辺りの問題は以前にも出ていたために、セレーネもすぐに問題点としてあげた。これにマリアナは頷いた。
「そうですね。旗など分かり易いものにしますと、奪われて侵入される可能性が出て来ます。なので、船全体に刻み付けるのは如何でしょうか? 全体が揃わなくては機能しない……いえ、駄目ですね。破損した途端に攻撃対象になります」
マリアナは自分で提案しながら、その問題点に気付き却下した。船全体に識別のための処理を施した場合、全体を揃っていなければ攻撃対象とされる可能性が高くなる。その辺りの融通は【思考演算】でも付かない。仮に融通を利かせられるようにしてしまっては、侵入を許す事になるので、結局何も意味がないのだった。
「壊れて戻って来た時に攻撃されたら駄目だもんね。なら、皆が使いやすい道具にするかな。後は侵入を拒むものとかが欲しい?」
「そうですね。上陸させるまでの時間稼ぎはあった方が良いでしょう」
「じゃあ、ナタリアと相談してくるね」
「はい。他の情報はこちらでまとめておきます」
「うん。ありがとう」
セレーネは自分の執務室を出て、ナタリアの居室に向かう。今はそこがナタリアの研究室となっている。
「ナタリア、相談があるんだけど」
「はい。新しい分析装置ですか?」
「ううん。海岸線を守るための迎撃装置と防衛装置」
「なるほど。そちらにおかけになってください」
セレーネはテーブルの周りに置かれている椅子に座り、対面にナタリアも座る。そして、テーブルの上に筆記用具を置いた。
「港を作るという話は本格的に進み始めているのですか?」
「微妙。でも、作った方が色々と便利だよねって感じ。漁業とかも出来たら、輸送して貰う以外に食料を自給出来た方が良いでしょ?」
「そうですね。ゆくゆくは農業もする事になるでしょうから、漁業もあると良いかもしれません。そういった研究をする生徒も出て来るかもしれませんので、一通り揃えておくのは有りでしょう。同時に辺境として侵攻を防ぐ必要がありますから、そういった装置も必要になりそうですね」
現状食料自給率がゼロであるため、ある程度は一次産業を増やしておく必要がある。そのための港だった。港があれば、海から来る外敵が狙う可能性が高くなる。その外敵から国を守るためにも防衛のための装置は必要だった。
「防衛という点で言えば、フェリシア様の氷魔術を扱うのは如何でしょうか?」
「氷魔術? 海を凍らせるの?」
「はい。船は動かなくなり、海中からの魔物に対しても有効に扱えるかと思います」
「でも、氷の上を渡ってこられたら?」
「氷の上を走る事が出来るような装備をしている可能性は低いかと」
「確かに……でも、船って揺れるでしょ? 滑りづらいような感じの靴を履いたりしてない?」
セレーネの確認にナタリアは顎に手を当てながら考える。
「氷のある環境で使われたという話を聞いた事がありませんので、はっきりとした事は分かりません。ですが、その可能性もありますね。氷を足止めではなく、攻撃としても利用しますか?」
「【氷槍】を生やして串刺しとか?」
「はい。この辺りはフェリシア様とも相談しましょう。氷魔術に関しては、私達よりも詳しいはずですので」
「だね。じゃあ、普通に迎撃用の方を考えようか。私は壁から撃ち込むような形が良いと思うの」
「壁ですか……確かに高さが稼げている分、長距離に飛ばせますが、街に被害が出る可能性もあります。壁の形を調整して、港の手前まで壁を突出させた方が良いと思います」
ナタリアがそう言うため、セレーネは海岸線の地図を出してテーブルに広げる。
「港を作る候補地はここら辺。こっち側に造船所を作るから、街の広さはそれに合わせた形になると思う。街に合わせて壁の形を変えるとして、港部分と街を分割するような形で壁を建てるのが良いかな?」
「そうですね。海から街を攻撃される可能性も考えて、街は壁で覆っておいた方が良いでしょう。倉庫なども壁の内側が良いと思います」
「じゃあ、本当に港だけが外側にあるって感じね。近くに灯台も建てないとだよね。こっちは壁の外?」
「はい。灯台と壁には【装甲結界】を張りましょう。他にも結界があると良いかもしれません」
「街を守るための結界ね。一応、構想はあるよ。今回の調査用魔術道具で思考機の統率力が分かってきたから、等間隔に結界発生装置を設置して管理する事が出来ると思うの」
「結界発生装置は、どのくらいで作れますか?」
「基礎は魔術結晶だから、スライムの体液がいっぱい必要かな。他は調査用の魔術道具と同じでいけると思う。後は試作してみないと分からないかな。迎撃用は、もう少し考えてみる。ナタリアも案が出来たら言って」
「はい。では、総合研究室で作るという形でいきましょう。予算は十分にありますので、素材の調達などもしておきましょう。迎撃用の装置としては、先程の氷魔術を中心に考えつつ、セレーネ様の仰る通りの壁から撃ち出すものも思案していきましょう」
「うん。設計図が出来たら提出するね。壁の形に関してはマリアナとも話してくる」
「はい」
こうして港建設に必要な防衛機構の開発が始まった。




