聖域の情報共有
砦に帰還したセレーネは、マリアナを執務室に呼ぶように頼んでから、自身の執務室に戻って検索等に使っている思考機に【空間探知】で測量した情報を分析させていく。その間に、カノンがマリアナを連れてきた。
「セレーネ様。聖域で何かございましたか?」
「うん。座って」
セレーネがそう言うと、カノンが部屋を出て行った。部屋には、セレーネ、スピカ、マリアナが残る。それを確認したマリアナは、話の内容がとても重要なものだと察する。
「カノンにも話せない事という認識で宜しいでしょうか?」
「うん。まず聖域に調査用の魔術道具を設置する事が出来たよ。ユニコーン達が許可してくれたから」
「達?」
「うん。五頭いたかな。大きな個体と普通の個体が四頭。取り敢えず、私達が会えたのは、それで全員だよ。一頭だけじゃないみたい」
「なるほど……そうでしたか……その報告はありませんでした」
「うん。まぁ、それは大して重要な話じゃないの。重要なのは、そんなユニコーン達に案内して貰った場所。聖域には洞窟があってね。その奥にユニコーンの骨が立っていたの」
「ユニコーンの……骨……立っていた……?」
マリアナは、セレーネの話を飲み込むために自分でも口にした。だが、口にした事で更に謎が深まり、スピカの方を見た。マリアナの視線を受けたスピカは、マリアナを見て頷いた。
「本当に立っていたよ。誰かが剥製として作ったとかそういうものじゃなかった。私の目からは、人の手が入っているようには見えなかったかな。そういう神秘的なものって感じだった。だから、私はあの洞窟にあるユニコーンの骨が聖域の中心だと思ったの。泉も相当な力を持っていたけど、あの骨には、それ以上の力があったから」
「そう……なるほどね。カノンに席を外させた理由も分かりました。ユリーナへの口止めは、私の方でもやっておきます。こちらの情報は制限しましょう。下手に侵すとユニコーンの怒りを買うことになります。国への報告もしばらくはやめておきましょう」
「うん。信用は出来ても、王都に情報が漏れたら広がるのなんて一瞬だもんね」
「はい。他に、報告する内容はありますか?」
「【空間探知】を使った聖域内の測量結果を分析中。正確な地図に出来るかは分からないけど、ある程度のことは分かると思う」
「聖域の測量……セレーネ様は【空間探知】で測量も出来るのですか?」
「真似事だけどね。地図を作る魔術だから、測量にも使えると思ったの。まぁ、正確に出来るか分からないから、本当にお試しだね。後は、魔術道具を色々な場所に置いたから、聖域内の危険な場所とかも分かるようになるかも」
「なるほど。そちらも分析していく必要がありますね。取り敢えず、奥にあるというものはこの場だけの秘密。関係者外秘とします。資料にも記載しないようにお願いします」
「うん。分かった。他の聖域に関する事は資料にまとめて良いよね?」
「はい。そちらはお願いします。では、私はユリーナへの口止めを行ってきます」
「うん」
マリアナは、セレーネに一礼すると、部屋を出て行った。その一分後に、フェリシアを連れたカノンが入ってくる。
「おかえりなさい。もう入って大丈夫よね?」
「うん。平気だよ。聖域の情報がそっちに思考機にも入ってるはずだけど、問題ない?」
「問題はあるわね。水質じゃないものまで交ざっているでしょう?」
「ん? ああ、うん。空気の情報。上手く動かなかった?」
「私が混乱したわよ。いきなり、水とは違う成分表示が出て来たから」
「なるほどね。情報的には問題ない?」
「ないわね。正確に分析出来ていると思うわ」
「なら、新しい思考機を用意して、空気分析特化にしよう。コアくらいなら、ここでも作れるし、作っちゃおう。魔術結晶を沢山作って良かった」
「全く……まぁいいわ。取り敢えず、最初に届いた分析結果よ。地点別にまとめてはいるけど、私は具体的にどこだか分からないわ」
「うん。照合する」
セレーネは受け取った分析結果の紙を見て、それがどの位置にあるものなのかを書き込んでいく。その作業中に、測量の分析が終わり思考機から紙が吐き出される。それをスピカが受け取ってセレーネに手渡した。
「ありがとう。思ったよりも全体的に測量出来ていたみたいだね。まぁ、分かるかな」
地図を確認し終えたセレーネは思考機の元に向かい、設定を少々弄って、聖域とカルンスタイン領の境界だけを記した地図を印刷する。
「このくらいで良いかな?」
「はい。この程度分かっていれば良いかと」
「それじゃあ、こっちを資料に入れて置くとして、地点別の記載も地図にしておこう。こっちは私個人の資料にすれば良いかな」
「その地図は聖域の地図かしら?」
「うん。あまり深部の方まで外部に出さない方が良いから公に出来る資料としては、こっちを使う感じ」
「そうなのね」
詳しい事情はフェリシアにも話す事が出来ない。ただし、セレーネの事をよく知るフェリシアからすれば、セレーネが何かしらを隠しているという事は丸わかりだった。
(何か私にも知らせられないような事があるって事ね。領主としてのものだろうし、深く聞かない方が良さそうね)
領主ともなれば秘密にしないといけない物事も出て来る。フェリシアもそこは承知していた。
ここで扉がノックされ、ユイとミュゼルがカノンに招き入れられる。
「セレーネ、新しく届いた情報を持って来たわよ。一気に数が増えたけれど、取り敢えず思考機は問題ないわ。混同する事もないから安心して」
「ありがとう」
セレーネは、ユイから紙を受け取って内容を読んでいく。それらも地点別にメモをしていき、しっかりと場所の把握をする。
「うん。大丈夫そうだね。この辺りの情報は聖域の情報になるから、注意しておいて。後は泉とか川じゃなくて、水溜まりになっている場所の水位調査も含まれてるから。ここら辺は、大きな変動があったら報告お願い。危険かどうかは私が判断出来るから」
「分かったわ」
「う、うん!」
聖域の管理という領主の仕事をセレーネはしっかりと全うしようとしている。その意志は、ユニコーンの骨を見たあの時から強くなっていた。ユニコーン達にとって大事な場所。それを守るために。




