初めての研究
学園生活が始まって、二週間経った頃。セレーネは、フェリシアと一緒に図書室に来ていた。個室を借りて、図書室から持ってきた本を読みながら、互いに色々な考察などをしている。
「う~ん……やっぱり、錬金術で土壌を変えるのは、現実的じゃないかも」
「当たり前と言えば当たり前なのだけれど、少し気になるわよね。これだけ錬金術に関する論文を読んでいて、土壌の改良がないだなんて」
二人が図書室に来ている大きな理由は、前にも話していた畑で鉱石が採れないかというものからだった。それから図書室に通っていながら、互いにああでもないこうでもないと話していた。
「お嬢様。次の論文をお持ちしました」
そこにカノンがやって来る。ここには、カノン、マリア、ジーニーも来ており、それぞれで二人が探す文献を探して持ってきていた。
「ありがとう、カノン。あれ? これって、錬金術じゃないよ?」
「はい。錬金術だけでは、行き詰まるだろうと思い、魔術薬などの文献をお持ちしました」
「確かに、カノンさんの言うとおりよ。一つの分野だけ見ていても、新たな気付きはないわ。色々な視点を取り入れるべきよ」
「う~ん……確かに……あれ? これって、リーシアちゃんの?」
「はい。ちょうど、お嬢様方がお調べになっている内容に合うものがありましたので」
カノンが持ってきた論文は、リーシアが書いたものだった。なので、セレーネの興味も一気に湧いてきた。
「お知り合いの論文?」
「うん。魔術薬の研究をしてるの。魔術薬の作物への影響か……」
セレーネは素早く中身に目を通していく。その間に、フェリシアも別の論文に目を通していた。
「意外と効力はあるみたいだけど、鉱石を作る件は書いてないかな」
「普通は、畑で鉱石を作ろうとは思いませんので、リーシア様も同じかと」
「まぁ、そうだよね。でも、魔術薬のアプローチはありかも。作物が作る実に影響を与えるらしいから」
「植物から鉱石を採るつもり?」
「うん。こっちの方向なら土壌の変化じゃなくても、何かしら出来るんじゃないかな?」
「では、魔術薬の方向で集めてきます」
「うん。お願い」
カノンは一礼して、個室を出て行く。
「魔術薬も興味深いわ。実際に作るとなれば、色々な理論を覚えて、材料と器具も集めないといけないのだけど」
「うん。結構難しいみたいだよね。私も実際にやった事はないんだよね」
「授業でも一年生の間は、理論のみという話だから、調べても実践出来ないのが悔しいわね」
「今の内にある程度理論を固めておくのも重要だよ」
「そうね」
二人はどうにか自分達の考えを実現出来ないか調べ続けていた。そんな個室に、別の人がやって来る。
「おぉ、勉強熱心な奴等だな」
「あれ? ミルズ先生」
入ってきたのは、二人の担任であり、レイアーが助手を務めている教授のミルズ・シクラメンだった。長いピンク色のぼさぼさした髪に碧眼の女性だ。気怠げな表情と姿勢からやる気のない教師という印象を受ける。実際、初日は二日酔いで死んでいた。
「お前達が色々調べているって聞いてな。ちょっと様子を見に来た。飛び級生ってだけでも、周囲から浮いているのに、そこまで真面目だともっと浮くぞ」
そんな事を言いながら、二人が書いていたノートを覗き見る。
「ほぅ……面白いな。色々な文献から調べているのか。本当に、お前達には授業が必要ないように感じるな」
「ミルズ先生の授業も面白いよ……です」
「嘘つけ。お前が楽しんでいるのは、魔術の授業くらいだろうが。まぁ、私も魔術の授業以外楽しくはないが。まぁ、自発的に勉強するのは良い事だ。調べた内容をレポートに纏めて、共同研究として提出しろ。レポートの書き方は、お前達のメイドに聞け。カノンなら、綺麗に纏められるだろう」
そう言ってミルズは個室を出て行った。
「見透かされているみたいね」
「そんなにつまらなさそうな顔してる?」
「まぁ、今の先生くらいは退屈そうな表情ね」
「失礼します。先程、ミルズ先生が来たようでしたが、大丈夫ですか?」
入ってきたのは、マリアだった。この場には、フェリシアもいるので、丁寧な口調になっている。
「うん。私達の様子を確認しに来てくれたみたい」
「あぁ、ミルズ先生は、あの性格のわりに、生徒への配慮がしっかりしていますからね。お二人が飛び級生という事もあって気に掛けていらっしゃるのでしょう。私の時もそうでした。こちら、錬金術の論文です。こちらは片付けておきますね」
「うん。ありがとう」
マリアが文献を入れ替えている間にも、どんどんと論文を読み進めていく。そして、カノンが戻って来た時に、先程のレポートの相談をする。
「なるほど。中等部に単位はほぼ関係ないはずですけど……まぁ、仕上げてみるのは良いかもしれませんね。基本的な書き方をお教えしますので、お二人でしっかりと書き上げましょう」
カノン、マリア、ジーニーの助言の元、二人は調べ上げた事を纏めていき、自分達の考えを纏めていく。それを纏めるために、それから二週間程掛かった。だが、そのおかげで、ある程度納得のいくものが出来上がっていた。
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ミルズの研究室にて。
「何をニヤニヤしているんですか? 不気味ですよ?」
「お前は、本当に遠慮がないなレイアー。まぁ良い。お前の生徒のレポートだ。読め」
「生徒? セレーネ様ですか?」
ミルズからレポートを受け取って読み始めたレイアーは、少しずつ目を見開いていった。
「これは随分と……」
「面白いだろう? 畑から鉱石を採るなんて事、普通は考えん。発想力は良いが、如何せん、あいつらには経験と知識が足らん。だが、それでもそこまで纏められるくらいには調べている。あいつらが神童と呼ばれる意味が分かった。あの知識欲は、このまま中等部に置いておくのも勿体ないくらいだ」
面白そうに笑いながらミルズがそう言う。それに対して、レイアーも頷く。
「中等部と言っても、子供である事には変わりありませんからね。勉強よりも遊びに興味を持つ方が普通です。ですが、セレーネ様にとっての遊びは、それこそ知識の収集と言っても過言ではありません。カノンさんの授業も続けているようですから、早々に中等部の内容も全て理解するのではないでしょうか?」
セレーネに魔術を教えていた経緯もあり、セレーネの知識欲をレイアーは知っていた。なので、このまま中等部を飛び級しても問題ないのではとも考えていた。
「あいつの授業か。まさか、カノンに、教育の才能があったとはな。まぁ、それはさておき、一つ考えている事がある」
ニヤリと笑うミルズを見て、レイアーは嫌な予感がしていた。その結果、露骨嫌そうな表情をする。
「おい、お前にとっても良い話だぞ。あいつらに研究室に入ってもらう。指導員はお前だ」
「はぁ!? 助手の仕事はどうするんですか!?」
「それもしろ。上手くあいつらを使え。分かるか? 授業では出来ない経験を積ませてやれ。元々生徒が望み、教授が許可すれば中等部でも研究室に入れるんだ。誰も文句は言わんよ」
「はぁ……分かりました。ですが、それはセレーネ様達が望めばの話です」
「望むさ。知識に飢えているのならな」
セレーネとフェリシアの知らぬところで、そんな案が出ていた。それだけ、ミルズの興味を引いたという事だった。
(体の良い雑用が欲しかっただけでは……)
ニヤニヤと笑うミルズに、そう思わずにはいられなかったレイアーであった。




