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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
アカデミー

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販売のための準備

 それから三ヶ月と少し。アカデミーを卒業したセレーネは本格的に総合研究室で働く事になる。フェリシアも魔術研究所で働くために、基本的にバラバラで過ごす事になる。四年生の後半は基本的にそういう風に過ごしてきたので、セレーネとしても慣れてきたが、寂しさがあった。

 アカデミーを卒業するまでの間、セレーネは中継基地の魔術処理を行いつつスライムの改良と生産、ゴーレムの動力などの改良案を出すという事をしていた。

 そして、今日はスライムを売り出すための店を見に来ていた。小さなお店だが、棚が大きく瓶を並べられるようになっている。


「小さいかな?」

「いえ、十分かと。小さく売り出していくのに大きな店にしてしまえば、それだけ在庫を期待されてしまいます」

「そっか。開店は明後日?」

「はい。店員などは、屋敷のメイドから有志の者を派遣する事になっています」

「店の実権を私が握るために経営者をメイドにするんだっけ?」

「はい。元々そういう事に興味のある者がいましたので。お嬢様に心酔している者ばかりですので安心して任せられます」


 セレーネは、クリムソン家の中で無類の人気を誇る。基本的に皆に分け隔てなく接するためメイドからも愛されている。そのため、セレーネを裏切ろう等と野心に燃えるメイドは一人もいない。カノンとしては、売上のほとんどをセレーネに貢がないかとう心配があった。


「セレーネ様」


 店の裏から経営を任されているメイドのリーナ・チェリーが出て来る。大きなピンク色のツインテールとピンクの瞳をしている。スライムのアイデアを出したのもリーナだった。


「リーナ。もうスライム並べる?」

「いえ、品出しは明日やりますので。倉庫の方に並べてください」

「分かった」


 セレーネ達は裏にある倉庫に入っていく。倉庫の中は設置型【空間倉庫】になっており、狭い倉庫の筈だが、ある程度の広さになっている。その中で【空間倉庫】を使って、カノンやリーナ、他の従業員達とスライムの入った瓶を出して並べていく。


「保湿スライムと温調スライムだけで本当に良いのですか?」

「うん。洗濯スライムと掃除スライムは、今後の需要で考えるから。ここであまり売れなかったら、店を畳む事になるし」

「頑張ります!」

「うん。まぁ、スライムってだけで忌避感を覚える人もいると思うから、そこまで売れない気もする」

「いえ! 売ります! 任せて下さい!」


 リーナは張り切りながらそう言った。リーナとしては、ここまで可愛く生活の役に立つスライムが売れない訳がないと考えていた。ましてや、製造者は愛すべきセレーネなのだから、全国民が買うべきとも考えている。


「一応開店日には、顔を出すけど、あまり根詰めないようにね」

「はい! あっ、英気を養っても良いですか!?」

「ん? うん。そのくらいは良いよ」


 セレーネがそう言うと、リーナはセレーネをぎゅっと抱きしめた。


「あっ、こっちね」


 てっきり美味しいものを食べに行きたいなどだと思っていたセレーネは、自分を抱きしめる事で英気を養おうとしているリーナに少し驚いていたが、そのまま受け入れていた。

 経営者として重圧があるのだろうと見抜いたカノンは、注意をすること無くリーナのしたいようにさせていた。


「あっ! リーナ先輩ズルいです!」

「私も!」

「私もお願いします!」

「分かったから順番でね」


 ここからはしばらくの間、従業員達に抱きしめられ続ける事になる。それだけで従業員の面々の心が楽になるのなら、セレーネのとしては何も問題なかった。

 こうして開店準備のための商品補充などを済ませたセレーネは、その足でユイがいるルージュ公爵家別邸に来ていた。お茶会用のドレスではないが、ある程度フォーマルな服を着ている。

 セレーネが通された部屋は、ユイの私室ではなく応接室になっていた。その場にはミュゼルの姿もある。


「この前の納品したゴーレムはどう?」


 セレーネはルージュ公爵家別邸で実地試験をしているゴーレムの様子を訊く。


「大丈夫よ。今のところ問題はないわ。使用人の皆も倉庫の整理をしてくれるから助かっているって話よ」

「そっか。なら良かった。問題があったら言ってね」

「ええ」


 ゴーレムが問題を起こしていないことに安堵しながら、セレーネは改めて二人を見る。


「さてと、二人がお待ちかねのスライム達だよ」


 セレーネがユイの元に来た理由は、製品化したスライム達を引き渡すためだった。二人はスライム店を出すための資金を援助したという事もあるので、これはプレゼントになる。

 瓶に入った保湿スライムと温調スライムの二体をそれぞれにプレゼントする。


「ちゃんと世話をしてね。下手な事をすると、怒って反撃してくるかもしれないから」

「う、うん」

「分かっているわ。この子達って名前を覚えるのよね?」

「うん。さすがに、番号呼びはお客さんが嫌なんじゃないかってカノンが」

「さすがね。名前を付けてペットとして扱う事になれば、その分だけ可愛がる事になると思うもの」


 ユイはそう言いながら保湿スライムと温調スライムを瓶から出す。ミュゼルの方は自室に戻ってから開けるつもりなので、瓶の中に入れたまま触っていた。


「やっぱり良いわね……」

「うん。可愛い」

「気に入ったなら良かった。二人の温調スライムはサウナに出来るくらいの幅にしてるから、調整はミスしないようにね。安易に最大にしない事」

「ええ」

「う、うん」


 通常の市販品である温調スライムは、最大温度は五十度程になっている。そのため火傷の恐れはあるが、身体を温める事や料理の温度維持などにしか使えなくなっていた。

 サウナをする店舗を作る事も考えられており、その計画は少しずつ進んでいる。既存店舗に話を通していたのだが、その全てに断られてしまったからだ。現状で問題ない事といまいち信用出来ないという事が原因だった。

 なので、土地を買って小さな店舗を経営する事になっている。こっちも執事が経営者として名乗りを上げているので、ある程度の事は一任している状態だった。


「明後日からのお店が上手くいったら、お金ががっぽがっぽだよ」

「まぁ、家のお金はともかく、個人のお金が増えるのは良い事ね」

「うん。セレーネちゃんに爵位を与える話もあるし」

『え?』


 セレーネとユイの声が重なる。その反応を見てミュゼルは、慌てて自分の口を塞ぐ。


「今更遅いよ。どういう事? 私、家を出るの?」

「う、ううん。クリムソン家である事には変わらないよ。爵位とクリムソン家とは別の家名を与えられるかもって……まだ噂話だけど……お父様も何も言っていないし……」

「そっか。う~ん……まぁ、噂は所詮噂かな」

「普通に爵位を受け取れるくらいには実績があるから、あり得ない話ではないわよ」

「うそ~ん……面倒くさそう……」

「まぁ、そうね」


 セレーネは噂が噂であって欲しいと願っていた。個人で爵位を持てば、色々なところに顔を出さないといけなくなるかもしれない。

 それは自由に研究をしたいセレーネにとって、ただの障害にしかならないからだった。

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