ユイの課題
お茶会からしばらく経ち、セレーネ達は図書室の個室でユイの課題を見ながら研究をしていた。ユイは、セレーネ達が中等部の時にやっていた魔術陣の基礎化をしている。今回も魔武具から得られた魔術陣の基礎化となっている。
発動する魔術は、生成系の魔術で半透明の剣を十三本出し、自動で動いて設定した相手に向かって飛んでいくというものである。
「何これ」
魔術陣を見たセレーネの第一声はそれだった。ただ、これはフェリシアの内心と同じだった。それくらいセレーネ達には意味の分からない魔術陣だった。
現在は、カノン、マリア、メイが関連していそうな論文等の本を探している。
「空間魔術が関係していない……これは、結界魔術かな。剣自体は、結界を剣の形にする事で構成しているのかも」
「結界で構築するなら耐久に振っているはずだから、この辺りまでは結界魔術の範囲かもしれないわね」
「剣を構築するなら、結界の大きさは小さくて良いから、その部分を圧縮している感じかな」
「……二人ともよく分かるわね」
最初こそ困惑していたセレーネとフェリシアだったが、結局は魔術陣を冷静に読み解いていくだけなので、内容の推測はある程度出来ていた。二人の思考速度に、ユイは少し驚いていた。自分で見た時には、内容を全く読み解けなかったからだ。
「こればかりは慣れかな。色々な魔術陣を見て、特徴を覚えればある程度は考えられるし、魔術がどういうものかで内容を推測する事も出来るしね。私達の場合、結界魔術が研究内容だったりしたから、分かるっていうのが大きいかな」
「そう……魔術陣を沢山見ておく必要があるという事ね。家に帰ったら、そういう資料を集めてみるわ」
「だね。後は、ちゃんと考えないといけない部分が、基礎化の定義かな。基礎魔術にするなら、属性を特定するだけで良いけど、これはこの魔術を基礎魔術並みに簡略化するという事だから、この魔術の特性である剣を作り出して敵を認識して自動で飛んでいくという部分は維持しないといけない。ただ剣型の結界を作り出すという魔術にしないようにね」
「なるほど……思っていたよりも難しい事なのね」
「その分、基礎が出来上がったら、そこからの発展がしやすくなるからね。結構重要な事だよ」
「そうね」
そんな話をしている間に、カノン達が本を持ってきて置いていく。その量にユイは唖然としていた。
「こ、こんなに読むの……?」
「私も驚きました」
メイが驚いた理由は、本の量ではなく、カノンとマリアが必要な本を即座に選択していく姿だった。既に本の中身を知っているかのように選んでいる姿とパラパラと中をページを高速で捲っていってから判断する速度が異常だと感じていた。
「まぁ、書いてある内容を全て読み込んだら時間が掛かるけど、今は欲しい情報を見つけて読むだけで良いと思うよ。ただ、こういう魔術による剣の作り方とかは、全部読んだ方が良いかな。普通の魔術で剣を作る方法は普通にあるから」
「確かに、【氷剣】とかがあるか。でも、そうなったら、普通に戦闘魔術にありそうな気も……」
「この魔術の肝は、さっきも言った通り、自動で敵を認識するって部分にある。剣の生成は、おまけ程度に考えておいた方が良いかもね」
「ああ……確かにそうね……自動で認識……そんな事可能なの?」
「う~ん……こういうのは実際に使ってみるのが一番! カノン」
「屋内運動場の申請をしてきます」
カノンが屋内運動場の申請をしに向かっている間に、セレーネは自分の多重魔術陣を出して、調整を始めた。【空間倉庫】の中に入れている紙を取り出して改良案をメモしていく。
フェリシアとユイは、カノン達が持ってきた本に目を通していく。フェリシアとしても何かのヒントになる可能性があるので、こういう機会に読んでおこう考えたのだ。
マリアとメイは、そのまま見守っていた。十分程すると、許可を取ってきたカノンが戻って来たので、本の取り置きを頼んでから、屋内運動場に向かう。
「ユイ、魔術陣見せて」
「はい」
セレーネは、魔術陣を見て、そのまま詠唱無しに構築する。無詠唱での構築なのだが、セレーネはつっかかる事なく構築していく。その姿を見て、ユイは自分の中の常識が崩れていく音が聞こえていた。
「初めて使う魔術を無詠唱なのに、その速さで構築するのはどうなの?」
「え? う~ん……言っちゃえば、これも慣れなんだよね。ずっと空間魔術を無詠唱で使ってるから、複雑な魔術陣でも構築がスムーズに出来るようになったの」
「結局は経験という事ね」
自分より年下が自分よりも濃密な経験をしているという事に、ユイの中での自信は完全に砕かれた。その分、セレーネ達から少しでも学んでいこうという向上心が芽生えたので悪い事で終わる事はなかった。
「それじゃあ、あの的に発動するよ」
「ええ」
ユイは、全てを見逃さないように集中して見る。それを確認してから、セレーネは魔術を起動した。すると、セレーネの周りに半透明の剣が十三本生成されて、その全てが別々の軌道を描いて的に飛んでいき、次々に斬りつけていく。攻撃は一回では終わらず、何度も的を斬りつけていく。
そうして的がボロボロになるまで斬りつけていき、自然と消滅していった。
「魔力は最初に放った時から消費してない……って事は、最初の消費で注いだ分が活動するための動力になる。破壊されるもしくは注いだ分の魔力が切れるまでは活動を続ける剣……軌道は設定していないから、剣自身が考えていた……いや、何かしらの定型があるのかも……」
「魔力の消費量はどのぐらいかしら?」
「一割くらいかな。それで三分の活動って考えると、結構良いかもね」
「私達の一割は、常人の半分に相当するわよ」
「ああ、私達にとってはが付くのか……」
消費魔力の問題は、セレーネが現在研究している空間魔術においても大きな問題になっている。なので、セレーネにとっても他人事とは言えなかった。
「ユイは、何か気付いた事あった?」
「…………基礎的な動作は、斬撃と突き。斬撃の場合は、大きく弧を描くような動きで、突きは少し離れてから直線で動くって感じに見えたかな」
ユイが見ていて気付いた事を述べると、セレーネとフェリシアは瞬きを繰り返していた。
「どうしたの?」
「いや、ユイは自分も卑下していたみたいだけど、しっかりと優秀だと思うよ」
「そうね。予備動作に最初から気付けたのは大きいわ。私は、結界に欠けが出来ていないかを確認するので限界だったもの」
「そっちはそっちでおかしな事しているじゃない……でも、そう言ってくれるのは嬉しいわ。何か役に立つ?」
「当たり前でしょ。動作設定が分かれば、それに該当する箇所を探すだけで、この自動制御の秘密が分かるかもしれないんだから。興味あるから、私も調べよっと」
「あまりやり過ぎないようにしなさいね」
「うん。ユイの課題だから、そこは気を付けるよ」
こうして、セレーネとフェリシアもユイの課題を手伝いながら、研究を続けていった。




