親交を深めるためのお茶会
翌週。お茶会の予定を立てたセレーネ達は、お茶会用のドレスに着替えて、魔動車に乗っていた。この魔動車は、ルージュ公爵家の私物でユイから迎えだった。運転手は、ユイの専属メイドの一人メイが務めている。招待状は、既にメイに見せているので、本人確認も済ませている。
セレーネは、向かい席の運転席側に座っていたが、反対に座って小窓から正面を見ていた。
「大きな魔動車だね」
「ルージュ公爵家特注の魔動車にございます。送迎などを目的としたものですので、使用人を乗せられるようにしているのです」
「へぇ~、じゃあ、お客さんの方が良く使うの?」
「はい。お嬢様専用の魔動車がございますので」
「おぉ、お金持ち」
侯爵家のセレーネがそう言うので、メイは苦笑いするしかなかった。ユイからセレーネとフェリシアがどういう人物か聞いていたので、セレーネが平然と話し掛けてきてもメイは動揺しなかった。ただ、想定以上にセレーネが気さくなので、そこにだけは、内心戸惑っていた。
「お嬢様。ちゃんと座ってください」
「は~い」
カノンに言われてセレーネはちゃんと席に座る。五分程すると、ルージュ公爵家の別邸に到着する。敷地内に魔動車を止めて、メイ、カノン、マリアが先に降り、カノンとマリアのエスコートでセレーネ達も降りる。
「おぉ……屋敷は普通なんだ」
ルージュ公爵家の別邸は、クリムソン侯爵家の別邸とほぼ変わらない大きさだったので、セレーネから普通の大きさという印象だった。
「別邸ですので、本邸程の大きさはありません」
「本邸は、もっと大きいの?」
クリムソン侯爵家の本邸と別邸の大きさは、そこまでの差がない。なので、セレーネは、ルージュ公爵家の本邸も同じ大きさと思っていた。メイの言葉からそうではないという事が分かり、どのくらいなのか気になっていた。
「はい。私達メイドが五十人程働いてようやく管理出来る程の広さです」
「わぁ……大変だね」
「やり甲斐があります」
メイの表情から大変さだけではなく、本当にやり甲斐を感じている事が分かる。メイドとしての仕事を楽しんでやっているという事だ。
「では、ご案内します」
メイの先導でお茶会の会場へと向かっていく。別邸の中に入ると、多くのメイドがセレーネ達に頭を下げた。そんな出迎えを受けてから、奥へと進んでいき中庭に出る。
そこにあるガゼボで、ユイが待っていた。
「いらっしゃい」
「本日はお招きいただき、ありがとうございます」
そう言って、セレーネとフェリシアはユイにお辞儀する。そんなセレーネを見て、ユイは思わず口に手を当てて笑ってしまう。
「ふふふ、慣れていないのが丸わかりね。いつも通りにして良いわ。メイだけ残って、他は仕事に戻って。ここにはカノンとマリアもいるから大丈夫よ」
ユイがそう言うと、後ろにいたメイド達が会釈をしながら戻っていく。セレーネ達の世話は、カノン達がやるから大丈夫だと言われたと判断したのだ。カノンとマリアが、メイと一緒にお茶会の準備をし始める。セレーネとフェリシアは、ユイと一緒に席に着いて待つ事にした。
「本当に普通に話して良いの?」
セレーネは、まずそこを確認した。一応社交辞令という事もあるからだ。
「ええ。ここにいるのは私達だけだから。まぁ、舞踏会とかでもそのまま話して良いのだけど、大人も面倒くさいから。大事なのは、私がセレーネとフェリシアを別邸に招待したという事ね。これだけで私達に繋がりがあるというアピールになるから、家同士もより近い関係になりやすくなるわ」
「やっぱり、そういうところを考えてくれてたんだ」
「まぁそうね。お父様に後で確認したけど、二人とは繋がりを持った方が良さそうだったから。ね、吸血鬼の真祖さん」
「ん? 知ってたの?」
特に驚いた様子もなくセレーネは確認する。
(割と肝が太いわね)
ユイは、動じないセレーネを再評価する。
「ええ。まぁ、知ったのは最近ね。さっきも言ったけど、お父様に確認したのよ。セレーネとフェリシアとお茶会をするってね。そうしたら、セレーネとフェリシアの情報をくれたわ。どこかから漏れた情報だと思うから、正直必要ないと思ったけど、念のため目を通しておいたら驚きよ。二人が婚約しているなんて」
「あ、そっち?」
セレーネは、真祖に関する事では無く、フェリシアと婚約している事に驚いたと言われて、そっちの方に驚いていた。
「まぁ、そっちも普通は驚くわよね」
これにはフェリシアも納得していた。二人がそれぞれ婚約者がいるというのではなく、二人が婚約者という事には驚かれると思っていたからだ。
「真祖について、そこまで詳しくないのだけど、セレーネが表に出ないのは、それが理由?」
「うん。私の不老不死を利用して、他家を乗っ取るとか思われるかもしれないからってさ」
「ああ、なるほどね。確かに、不老不死だと家の上役で居続ける事が出来るものね。そうなると、吸血鬼族の家はどうしているの?」
「さぁ?」
「あ、そこの繋がりはないのね」
「あるにはあるけど、家の話はそこまでしたことないかも」
セレーネは、リーシアとミーシャの事を思い出したが、二人と家についての話を詳しくした覚えはない。なので、吸血鬼族の家がどういう風に当主を決めているのかは知らなかった。
「確かに、私がいる時もそんな話をしているところを見た事がないわね」
「まぁ、する意味も大してないし」
「大有りよ」
ユイがそう言ったタイミングで、カノン達がお茶を配膳していく。中央にケーキスタンドと軽食が入ったバスケットが置かれて、お茶会が始まる。既に会話自体は始まっていたが。
「そうなの?」
「そうよ。これから先、独立する事になるのだから、家の運営方法くらいは訊いておいた方が良いわ。二人の間に子供は出来ないけれど、長く生きる上で周囲との付き合い方を知っておいた方が良いもの」
「ああ、なるほどね。そういう事なら、森の中に何十年かいたとかは聞いた事あるよ」
「何十年……規模が違うわね」
「研究していると、そういう風になったりするらしいよ。それでも時々本を出したりしていたみたいな話も聞くけどね」
「う~ん……個人出版なら大丈夫なのかな……」
ユイは、それで本当に大丈夫なのか少し悩んでいた。だが、自分の中で答えを出せずに唸ることにしか出来なかった。
そんなユイに、セレーネは別の話題を出す。
「そういえば、私も訊きたい事があるんだけど、ユイは飛び級しなかったの?」
貴族は家庭教師を雇う事が多いので、セレーネ的にはユイも飛び級出来たのではと思っていた。
「私は、兄妹の中でも、そこまで優秀な方じゃなかったから、一から学ぶ事にしているの。だから、飛び級もしていないのよ」
「ふ~ん……お姉様みたいなものかな」
「テレサ様は、学園の本を全て読むためと言ってなかったかしら……?」
「あ、そっか」
「私よりも変わった理由で残る人がいたのね」
そんな風な話をしながら、セレーネ達はケーキや軽食などを食べながらお茶を飲んでいく。三人の会話は止まる事なく続いていき、大いに盛り上がった。




