ドレスの着せ替え
それから一週間が経った休日。セレーネとフェリシアの元にお茶会の招待状が届いた。
「……態々出す必要あったのかな?」
招待状が届いた事で、改めて招待状なんて必要だったのかとセレーネは疑問に思っていた。
「貴族のお茶会なら、必要になるわよ。屋敷に入るための通行証みたいなものね。それにお茶会というのは、貴族にとって繋がりを見せるためのものだから、こういうところでアピールするのよ。これは、ルージュ家とクリムソン家とウルトラマリン家の繋がりをアピールするためのものね」
「ふ~ん……つまり、ユイが私達と関係があるというアピールをするために呼んでいるって風に見られるって事?」
招待状を貰って正式に家を訪れれば、他の貴族の耳にも入る事になる可能性が高い。そうした貴族からは、ユイがセレーネとフェリシアとの繋がりを得たという風に見られる。
「そうね。そうすることで、私達に何かあればルージュ家が来るかもしれないという風に見せる事も出来るわ。ユイ様からの贈り物という風にも考えられるわね。最初に舞踏会に誘ったのも、そういう意図があったのだと思うわ」
「へぇ~……でも、舞踏会は嫌だな。最近会う人は誰も気にしないけど、ドレス着たら割と広範囲で見えちゃうでしょ?」
セレーネは自分の手を見せながらそう言う。そこには封印の紋様が刻まれている。最近会う人達は、全く触れてこないので、セレーネ自身も忘れそうになるが、この封印の紋様は目立つ。舞踏会などに行けば、余計に目立つ事は間違いなかった。
「正直、そこまで気にしてはないけどさ。訊かれた時に返事に困るんだよね。真祖の事も広まってはいるけど、どこまで話して良いのかも分からないでしょ?」
「まぁ、そうね。カノンさんとかが調整してくれるって言っても、舞踏会の中でどこまでの範囲をカバー出来るかも分からないもの。そういう意味では、お茶会は最適解ね。そういえば、セレーネのドレスはあるの?」
フェリシアは、セレーネではなくカノンに確認していた。
「一応ありますが、お嬢様が嫌いな服ですね」
「えぇ~、普段着で良いよぉ」
「駄目よ」
「駄目です」
「駄目だね」
フェリシア、カノン、マリアはほぼ同時に否定した。三人から否定されたセレーネは、クロを撫でながら頬を膨らませる。不満を訴えても、三人は普段着を良しとしなかった。
「取り敢えず、セレーネのドレスを選んだ方が良いわね。カノンさん、持ってきてくれる?」
「はい」
「クロ、セレーネを押さえつけといて」
「にゃ」
マリアに言われて、クロはセレーネを押してベッドに腰掛けさせ、頭を膝に乗せる。これでセレーネは逃げ出す事が出来なくなった。
「別に逃げないよ。ユイの家に行くのに必要なら着るし」
セレーネはそう言いながらクロを撫でるので、クロは頭を退ける気がなくなった。そうして、セレーネがクロを撫でている間に、フェリシア達はセレーネのドレスを選んでいく。
「赤は派手じゃないかしら? 私は水色が良いと思うわ」
「水色はフリルが多すぎるので、お嬢様が嫌な顔をされるかと」
「そこを気にしたら、ドレスの全てが駄目になるのでは……?」
「そうですね……では、水色のドレスにしておきましょう。お嬢様、こちらに」
カノンに呼ばれたので、クロはセレーネの膝から頭を退かす。自由になったセレーネは大人しくカノンの元に来て、されるがままに着替える。
「ちょっと淡すぎるかしら」
「そうですね。もう少し濃いものを選びましょう」
「これとかどうですか?」
そうしてセレーネの着せ替えが始まった。セレーネは大人しくしているだけで良いので楽ではあるのだが、ドレスを着るのは、割と大変なので、そこだけは不満だった。露出はほぼ無く、若干動きにくいドレスがほとんどなので、そこにも不満はあった。
「このドレスなら夜会とかでも出られるかな」
「夜会は、もう少し露出が増えますよ。場所によって適したドレスがありますので」
「ふ~ん……もうちょっと動きやすいのない?」
「ないです」
「むぅ……」
なんやかんやでドレスが決まった後、夕食とお風呂を済ませたセレーネは、カノンの膝に乗って本を読んでいた。セレーネも大きくなっており、既にカノンの膝に乗ればカノンと同じ高さに頭が来るようになっている。
「お嬢様も大きくなりましたね」
「ふふん!」
セレーネは嬉しそうにカノンに寄り掛かる。お風呂を済ませているので、花のような香りが漂う。そんな風にイチャイチャとしていると、フェリシアとスピカがお風呂から上がって帰ってきた。
「見て見て、フェリシア。私大っきくなったって」
「まぁ、身長も伸びているから当たり前よね。それでも私の方が高いけれどね」
「むぅ……」
セレーネは頬を膨らませて、カノンの膝から降りると、フェリシアの方に小走りで駆け寄って抱きついた。身長差により、肩が目線の位置になる。
そんなフェリシアの肩にセレーネが頭を擦り付けているのを見て、カノンは立ち上がり、クロを手振りで呼んでから、スピカと手を繋いで部屋を出て行った。マリアは、他のメイド達と一緒にお風呂に入っているので、ここにはいない。
カノンは、扉の掛札をひっくり返して、就寝中という文字を出した。これで、夜の間は基本的に誰も入らなくなる。
「前から思っていたけど、よくセレーネ様の気持ちが分かるね?」
「あれは分かり易いよ。フェリシア様の血が飲みたいって意味だから」
スピカは、カノンが即座に部屋を出る選択をしたのが凄いと感じていたが、カノン的にはセレーネの気持ちは分かり易かった。眷属の繋がりがある事もあるが、それ以上にセレーネの行動が分かり易いというのが大きかった。
クロを連れ出したのは、セレーネ達を二人きりにするためだ。その方が二人とも周りの目を気にせずに血を飲めるからである。
「にゃ~」
クロは自分から移動して、マリアの部屋の扉に前脚を置いていた。これはクロなりの気遣いである。これから、カノン達もイチャイチャするだろうから、マリアの部屋で寝ているという事だ。カノンが扉を開けると、その中に入っていって、中にあるクロのベッドで丸くなった。クロが入ったので、カノンは部屋の掛札をひっくり返して、黒猫の絵が見えるようにした。これで、マリアが帰ってきてもクロが居て驚く事はない。
「クロにも気を遣われちゃったね。私もカノンの膝に乗せて欲しいなぁ」
スピカは上目遣いにお強請りする。そんなスピカの頬にカノンは手を添える。
「良いよ。今日は、ちょっと夜更かししようか」
カノンとスピカは恋人繋ぎをしながら部屋に向かって行った。その後ろ姿を目撃したマリアは、ちょっとだけ羨ましいと思いながら、自分の部屋でクロを撫でて過ごしていった。




