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目の前の男たちは蹲るコリンナへ向かって手を伸ばしている。このような場合でどちらの手を取るべきか分からず、コリンナは一先ず両方の手を握り立ち上がった。先程までとめどなく溢れていた涙は、不思議な彼らの登場によって既に止まっていた。
「貴族のお嬢さんとお見受けしますが、こんなところに一人でいると怪しい人間に目をつけられてしまいますよ」
「そーそー。危ないから、僕たちが表通りまでご案内しますよー」
(あなたたちも十分怪しいけど……)
怪しみながらも彼らに手を引かれ無事に表通りまで戻ってきたコリンナは、歩き方やリードの仕方からどうやら平民ではなさそうだと勘づき「ご心配をおかけしてすみません。どうもありがとうございます」と貴族令嬢らしさを心がけ礼を述べる。
恐らくどこかのヤンチャな貴族令息がお忍びで街を探索でもしているのだろう、と勝手に推測し礼を言うコリンナに、二人の男は「貴族のお嬢さんに丁寧な礼をされるような身分ではありませんよ」とクスクスと笑い声を漏らしている。
「僕たちは貴女と違って卑しい身分ですからね〜」と何が面白いのか楽しそうに言う彼らに、さすがにおちょくられていると気付いたコリンナは多少の苛立ちを感じつつも必死に感情を抑え、
「そうですか。何はともあれありがとうございました」
と早足でその場を去ろうとした。
「「何故泣いていたんですか?」」
去ろうとした瞬間、先程まで楽しそうにしていた二人が声を重ねて問いかけてくるものだから、コリンナは思わず足を止めてしまう。
妙に息の合った二人を奇妙に感じながら、相手が貴族令息である可能性を考えると投げかけられた質問を無視は出来ない。アッカーソン伯爵家の次女、コリンナであると知られていれば下手に無礼な態度を取れば家族に迷惑がかかるかもしれない。
コリンナが上手く交わそうと言葉を考えていると、二人の男は再びクスクスと笑い始めた。
「振られたんだな」
「振られてるねぇ、これは」
「……は?」
唐突に放たれた無礼極まりない言葉に、コリンナは耳を疑う。
(この人たち、今なんて言ったの?)
信じられないという目で男たちを見つめると、二人は悪びれる様子もなく「これは失礼」と申し訳程度に謝罪をした。
「お嬢さんが言葉に詰まっていらっしゃるので、勝手に想像してしまいました。その様子だと、もしかして当たっていましたか?」
被った布からニヤリと笑う口元が見え、そのバカにしたような態度にコリンナは遂に「……だったらなんなのよ」と貴族令嬢らしさを捨てた言葉を吐いてしまう。最早自身の振る舞いで家の評価が下がることなど、意識から外れていた。
「お嬢さんのような素敵な女性を振る男がいるなんて、考えられませんね。その男には見る目がないようだ」
「自信を持ってください。お嬢さんにはこれから素晴らしい出会いが待っていますからね」
勝手に励ましの言葉をかけてくる彼らに、コリンナは怒りのまま「大きなお世話よ! さようなら!」と勢いよく言い放ちその場を去った。
「「お気を付けて〜」」
去り際、振り向くと彼らが悠長に手を振って見送るものだから、コリンナは更に苛立ちを募らせた。
(もう!! なんなのよ!!)
この時のコリンナの脳内は得体の知れない彼らに対する怒りで溢れ、ダグラスへの恋が終わってしまったことなどしばらくの間思い出すことはなかった。