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街で怪しい二人組にからかわれた日からひと月後、コリンナは王立魔法学園の入学式に出席していた。現生徒会長でありこの国の王太子、オリヴァー・ラザフォード第一王子が壇上で新入生に向けて祝いの言葉を述べているのを、コリンナは話半分に聞いていた。
王太子の隣には、生徒会役員書記である姉が堂々と立っている。クリスティアナは見た目だけでなく、中身も評価されるほどの完璧な淑女であった。成績は常に学年の上位を維持し、学内で問題が起きた際には積極的に問題解決を試み生徒たちからの信頼も厚い。そんな彼女に王太子自ら生徒会役員へと勧誘したとの噂は既に新入生たちの耳にも入っており、入学式が行われている間はヒソヒソと彼女の話題が囁かれていた。
姉に対する劣等感で自信喪失気味のコリンナにとっては、地獄のような時間であった。
入学式を終えると、保護者として参列していた両親と挨拶を交し、遅れてやって来た姉と共に帰宅する両親を見送った。
王立魔法学園は寮制であり、貴族には貴族の寮、平民には平民の寮、そして王族には王族の寮を与えられる。コリンナとクリスティアナもそれに準じ、貴族用の寮で生活するのだ。
(そういえば、あの双子殿下も今年から入学だっけ)
ふとコリンナが思い浮かんだ双子殿下とは、この国の第二王子と第三王子のことである。
十数年前、王妃が双子の王子を出産したという歴史的にも稀な出来事は国中で騒がれ、今も尚注目を集めている。コリンナも幼い頃から彼らのことは耳にしており、王家主催の舞踏会などで何度か顔を拝見したことがある。
黒髪で誠実そうな見た目のオリヴァー殿下とは違い、双子王子の容姿は王妃に似た明るい髪色と整った顔立ちのせいか、コリンナの目には些か軽薄そうに映った。
家族の後ろに隠れて挨拶をしたこともあるけれど、パーティーに興味が無いコリンナの記憶は曖昧である。
そんな双子が十歳になり魔法に覚醒した時も、世間は大きく騒いだものだった。
早い時期での覚醒に期待する声だけでなく、彼らの覚醒した魔法が国中に嵐や災害を巻き起こすと言われる風魔法であったことから否定的な声も多かった。
(イメージだけで悪い魔法だと決めつけるなんて、バカみたい)
自身の土魔法と同様の反応に、コリンナは今更ながら双子王子の心境に共感した。
(そんなこと言ったら、火魔法は火事、水魔法は洪水を引き起こすじゃない。悪い所を並べ立てたらキリがないわ)
「……コリンナ、どうかしたの?」
全ては使い方次第なのに、と静かに怒りを感じるコリンナの意識を戻したのは、先程共に帰宅する家族を見送った姉、クリスティアナだ。
「お父様とお母様には夏になれば会いに行けるわ。だからそんな顔をしないで」
不機嫌そうな表情のコリンナを『家族と離れ離れになって寂しいのだ』と勘違いし優しく慰める姉は、周りから見れば正しく聖人君子だろうとコリンナは考える。不機嫌な表情の理由は見当違いだが。
自身の醜い劣等感により優しい姉との接し方が分からず、コリンナが不器用に小さく微笑むと、
「勿論、ダグラスにもね」
と姉は励ますようにコリンナが今一番聞きたくない名を出した。
姉は知らないのだ。コリンナが虚しく失恋したことを。
あの街での出来事からすぐ、コリンナは学園への入学を口実にダグラスを自身の専属世話係という役職から外した。突然のことにダグラスは理由を求めたが、コリンナは街で見聞きしたことは伝えず「寮での生活には女性の使用人を連れて行かなければならないから、あなたはこれを機に屋敷で新しい仕事をして」と突き放したのだ。
それまで長くコリンナに仕えてきたダグラスは驚いていたが、早くこうするべきだったのだ、とコリンナは胸の痛みを必死に隠し平静を装った。
「ダグラスに会いたいだなんて、微塵も思ってない」
「……え?」
子供じみた返事をしたコリンナに、クリスティアナが耳を疑い
「コリンナ、一体ダグラスと――」
何があったの? と問いかけようとしたその時、つい最近聞いたばかりの声がコリンナを呼んだ。
「「探したよ、コリンナ・アッカーソン伯爵令嬢」」




