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「君が僕の背で気を失ったあと、山頂へ戻ると僕らもクリスティアナ嬢とアンジェリア嬢の約束の話を聞いたんだ」

「だけど、君は大雨に濡れたことで高熱が出ていてとても証言ができるような状態ではなかった」

「魔物に襲われた恐怖や疲れもあるだろうからしばらくは目を覚まさないかも、って学園専属の医師も言っていたから、君の証言に関してはしばらく保留ということになったんだ」


 高熱で苦しむコリンナを『僕も運びたい』と駄々を捏ねたエイベルがフレッドの背から奪い学園の寮まで運んだ、というのはコリンナには秘密である。


「アンジェリア嬢もまさか君が生きて戻るとは思わなかったんだろうね。君が目を覚まして証言をすれば自分の身が危うい、と焦ってさらに大胆な行動に出たんだ」

「崖から突き落とすよりも大胆な行動って、一体私に何したのよ……」


 コリンナが呆れたようにため息を吐くと、代表してエイベルがアンジェリアの取った大胆行動とやらを発表した。


「君が眠っている間に、この部屋へ殺し屋を送り込んだんだ」

「は…………はぁ!?」


 想像よりも遥かに大胆な行動にコリンナが驚愕の声を上げると、フレッドは大きく首を縦に揺らし「僕らも聞いたときはそんな感じだったよ」と言っている。


「クリスティアナ嬢が一時的に君の傍を離れた瞬間を狙ったようだ」

「本当にごめんなさい、コリンナ……」


 申し訳なさそうに謝るクリスティアナだが、最早コリンナは何故自分が生きているのか、ということの方が不思議だった。


「幸い、兄さんが君の傍に護衛を控えさせていたからすぐに殺し屋を捉えることに成功した」

「そして拷問により殺し屋が雇い主を吐いたことで、アンジェリア嬢の罪は呆気なく暴かれたんだ」

「まぁ、それでも尚アンジェリア嬢は罪を認めなかったけどね」


 衝撃的な事実に驚きっぱなしのコリンナは、ふと思い出した。


「さっき『拗れに拗れた』って言ってなかった? 言うほど拗れたようには感じないけど……」

「分かってないな〜、コリンナ嬢。スウィングラー公爵家の令嬢が殺し屋を雇ってまで他家の貴族令嬢を殺そうとしたんだよ? 最早ただのイタズラでは済まされなくなったんだ」

「崖から突き落とすのはただのイタズラで済まされるってこと?」

「彼女が上手いこと言い訳出来ていれば、それで済まされることも可能だったろうね」


 双子王子のもしも話に、どこか納得のできないコリンナは分かりやすく眉間に皺を寄せる。見かねたクリスティアナが小さく「こらっ」と呟きコリンナの額を指で弾くと、コリンナは「えへへ……」と甘えるように笑顔を浮かべた。


「だけどそれは不可能になり、正式な殺人未遂事件になってしまった」

「兄さんの配下が送った近衛隊所属の護衛騎士が目撃者になったんだ。最早君の証言なんてなくても裁判で有罪判決が下るはずだ」

「そして、アンジェリア嬢一人の問題でもなくなってしまった」

「名を汚された公爵が、裁判を前にアッカーソン伯爵家への謝罪と共にアンジェリア嬢の勘当を宣言したんだ」

「えっ!?」


 最早必要が無いとはいえ、コリンナの証言を王太子自ら聞くまでは裁判は行わないことになり、クリスティアナや双子王子だけでなく皆がコリンナの回復を待ち望んでいた。

 殺し屋に全てを暴露されたアンジェリアは瞬く間に拘束され王城の地下で幽閉されていたが、話を聞いたスウィングラー公爵が裁判を行う前に実の娘を勘当すると宣言したのだ。

 それはつまり、アンジェリアの身分を証明するものが消滅したということ。アンジェリアは一瞬で苗字を失い孤児となったのだ。


「身分を失った彼女は、裁判で平民として裁かれるだろう。平民が貴族の殺害を企てることは大罪だと法的にも定められているから、恐らくそれに則って死刑になるはずだ」

「入学式翌日の不敬罪も君が嘘を吐いてまで守ってあげたのに、それを逆恨みして愚かな仕返しを考えてしまった彼女の責任だね」

「…………」


 変わらず飄々とした口調で言う双子王子の言葉に、コリンナは「……なんとも言えないわ」と複雑な心境を吐露した。


「確かにアイツにはムカついてるけど、死刑だなんて言われたら……どうしていいか分からない」


 次にアンジェリアに会ったら『やーい! 殺人犯!』と言うつもりだったコリンナは、もう二度とあの腹の立つ高慢が滲み出た顔を見ることはないのか、と自身の微妙な感情に戸惑った。


「……コリンナ、確かに過剰な判決だと思うかもしれないけれど、全てはアンジェリア様が自ら招いたことよ。貴女が気負う必要はないわ」

「……慈悲深いお姉様がそんなふうに言うなんて、よっぽど怒ってるのね?」

「それは……否定できないわね」


 誰に対しても温かい姉の冷ややかな発言に、コリンナはアンジェリアを救う術などないのだとため息を吐いた。救いたいわけではない、ただ死刑よりも相応しい末路がないものか、とコリンナは考える。

 そんな想い人の心境を読み取った双子王子は、二人して顔を見合わせ微笑んだ。


「「コリンナ嬢」」


 突然息を合わせ声をかけてきた王子たちに、コリンナは声を落として「なに?」と返事をした。


「「僕らが、君の望む通りにしてあげるよ」」


 双子王子はニヤリと微笑み、愛しいコリンナへ謎の宣言をした。

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