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ふと目が覚めたコリンナは、視界に映る見覚えのある天井から、自身が寮の自室にあるベッドに眠っているのだとすぐに気が付いた。
(……あれ? 私、いつの間に寝てたんだろう……)
混乱する頭で思い出しながら静かに起き上がると、傍でコリンナの手を握りしめ眠っているクリスティアナの姿を発見した。
いつも美しい姉の目元に薄らと隈があることで、姉がどれほど自身の心配をしたのか察することが出来たコリンナが優しい姉の愛に感動し「お姉様……」と小さく呟くと、クリスティアナはその微かな声に反応し目を覚ました。
「……コリンナ!!」
コリンナの意識があることに気付いたクリスティアナは、瞳を潤ませながら最愛の妹を抱き締めた。いつも羨ましかった姉の胸に抱かれ、コリンナもその温かみに瞳から大粒の涙を溢れさせると「お、お姉様ぁ……怖かったよぉ!」と、未だ誕生日を迎えていない15歳の少女らしく泣き喚いた。
そんなコリンナを、二つ歳上なだけの同じく少女であるクリスティアナは優しく慰めた。
姉妹二人抱き合って少しすると、一頻り泣いて落ち着いたコリンナが思い出したかのように「殿下たちは……?」と口にした。その声に反応するかのように、室内に双子殿下の声が響く。
「「酷いなぁ、ずっといたんだけど」」
突然クリスティアナの後ろから出てきた双子王子に「えっ!?」と声を出して驚くコリンナだが、実はコリンナが目覚めクリスティアナと抱き合ったとき、すぐ外にいた双子王子は室内から漏れていた声でコリンナの意識が戻ったと知り入室していたのだ。
姉妹が涙しながら抱き合っていたため、声もかけずしばらく見守っていたようだった。
「いたなら言ってよ……」
「普通気付くでしょ〜」
「そーそー」
いつものように会話する三人を、クリスティアナは混乱したように見つめ「コ、コリンナ……その口の聞き方は……」と、堂々と王族に無礼な口調で話す妹へ問いかけた。涙はとうに引っ込んでいる。
「あ、いや、これには事情があって……」と姉への言い訳を考えるコリンナだったが、
「クリスティアナ嬢、どうか彼女を叱らないでくれないかな」
「砕けた口調で話してほしいって僕らが頼んだんだ」
と王子たちが言うと、「そ、そうなのですか……」とクリスティアナもすぐに納得した。
「まぁ、それよりもさ……」
「コリンナ嬢、他に気になることがあるんじゃない?」
ヘラリと笑った双子王子は、コリンナの寝惚けた脳の隅に置き去りにされているであろう問題を引きずり出そうとしている。
それに気付いたコリンナがなんのことかと考えてみると、その問題はすぐに脳の隅から頭を出した。
「あっ!! アンジェリアはどうなったの!?」
「それそれ〜!」
「待ってました!」
何故か楽しげな双子王子に困惑しつつも、コリンナは自身を魔の森へと追いやった女の処遇を聞かせるよう急かした。
「君が気を失ってから、いろいろ大変だったんだよ」
「クリスティアナ嬢が彼女と妙な約束をしていたからさ、拗れに拗れたんだ」
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません……」
「妙な約束って……?」
事情が分からず不思議がるコリンナに、クリスティアナに変わって双子王子が件の約束について説明をした。生きて戻ったコリンナの証言を真実とする、という一種の博打的な約束のことである。
事情を聞いたコリンナは「どうしてそんな約束を?」と子供のように首を傾げている。
クリスティアナは背筋を綺麗に伸ばし、アンジェリアに賭けならぬ約束を持ちかけた理由を話し始めた。
「まず、アンジェリア様の言葉の節々にプライドの高さが滲み出ていたことから、あの方が罪を認めることはないと感じたの。様々な言い訳や理由を並べて否定し続けるはずだわ、と。目撃者もおらず、貴女と同じグループだった女生徒たちの証言だけでは事件として立証することも難しくて、どうにかして彼女の罪を暴くため賭けに出たわ」
ペール山の山頂でアンジェリアと一言話してからずっと彼女を怪しんでいたクリスティアナは、会話の往復を重ねる毎に彼女が妹へ何かしたのだと確信していった。そして、高慢なだけでなく貴族としての一般的な知識も持ち合わせているアンジェリアは、平民や下級貴族の立場の弱さを十分に理解していた。
そんな彼らの立場の弱さを利用するアンジェリアの罪を暴くためには、逆に彼女の高慢さを利用するしかないとクリスティアナは思ったのだ。
「無実を訴えるアンジェリア様に『無実なら断る理由なんてないでしょう?』と煽れば、必ず話に乗ると思っていたの。そして現にあの方は賭けに乗ったわ」
いつも冷静なクリスティアナにしては珍しく、少し怒りの混ざった口調で「コリンナが生きて戻るわけがないと思っていたんでしょうね」と呟いた。
話を聞いて静かに納得したコリンナだったが、目を伏せたクリスティアナの表情が一気に陰ったことに気付き「お姉様……? どうしたの?」と姉の手に自身の手を重ねた。
クリスティアナは純粋に心配するコリンナの手を握り返し、「……ごめんなさい」と脈絡もなく謝罪の言葉を吐いた。
「……生きて戻った貴女が気を失うだなんて、少し考えれば分かることなのに……私のせいで貴女をまた危険な目に遭わせてしまったわ……」
「……どういうこと? 私、別に危険な目になんて遭ってないわ」
「……遭ったのよ、貴女の知らないところで」
「ええ?」
再び話についていけなくなったコリンナに、双子王子が待ってましたとばかりに「「ここからは僕らが説明しま〜す!」」と明るい声を上げた。




