8 伯爵
ブルック伯爵が捕縛された件は国民に大々的に報じられた。
その立役者となった第一王子アイザックの名も同時に伝えられ、アイザックに対する国民の支持はますます高まったと言える。
しかし同時に、貴族の間には激震が走った。
後暗いことに手を染めている貴族は少なくないからだ。
これでますます兄上が国王から遠ざかってしまうような気がするが、大丈夫なんだろうか。
そう尋ねてみたが、本人は特に気にしていないようだった。
「確かに多くの貴族たちは、次は我が身と私から離れていくだろうね。けれど、王国の貴族は後暗い者ばかりではい。私は、そんな者たちを見方につけたいと思っているんだ。今回のことで私の考えは知れ渡っただろうから、そういった貴族と接触しやすくなったよ。」
というのが、兄上の談だ。
今回のことに対して国王による公判が行われた。
主犯オスカー=ブルックは爵位剥奪のため、ブルック家当主は弟に交代。
爵位は1つ落とされ、伯爵家から子爵家となった。
本来であれば取り潰しとなるはずだったが、オスカー以外の家族は一切関与していなかったこと、そして今回の立役者である第一王子から嘆願があったことにより、降爵に落ち着いた。
ただし王都のブルック伯爵邸にあった金品は全て没収。
さらに数年は、領土の税率が引き上げられることとなった。
そのお金は被害者たちに還元され、薬の後遺症に対する治療費に充てられるそうだ。
また、オスカーの兵たちは数年間無償で王家に従事するよう言い渡された。
厳しい環境での任務や、戦いの前線に送られることとなる。
しかし、その後は再びブルック家に戻るか、王家の兵として残るか選ぶことができるそうだ。
偽シスター(名前をモナというそうだ)は兵でないことを考慮され、王宮でメイドとして働くことになった。
そして、
オスカー自身は死刑と言い渡された。
ある日の夜、リアンは地下回廊を歩いていた。
普段あまり使うことのないルートを通り、王宮から少し離れた監獄塔にたどり着く。
この時間帯であれば、幽閉されている者はほとんど寝静まっているため、騒がれる心配はない。
看守は塔の入り口を守っているだけのため、問題ないだろう。
リアンは、階段を使って塔を上がっていく。
重罪人ほど上の階に幽閉されているようだ。
最上階から1つ下のフロアに辿り着いた。
このフロアに幽閉されているのは、たった1人。
「起きろ。オスカー。」
リアンは、独房内で眠っていたオスカーに声をかけた。
オスカーは寝ぼけ眼で辺りを探り、こちらに気付いて驚いた表情を浮かべる。
右腕は肘から下が無くなっているが、包帯が巻かれちゃんと治療されたようだ。
「どうしてこんな所にアイザック殿下が……。いや、アイザック殿下ではないですね。」
一瞬、ドキッとしたが平静を装った。
そんなことを言われたのは初めてだ。
「何故?」
「ただの勘ですよ。王宮に連れて来られた時から違和感を感じていたんです。最初は気のせいだと思ったんですが……今確信しました。あなたは屋敷へいらした方ですね。王宮でお会いしたアイザック殿下ではない。」
正直驚いた。
僕がしくじった覚えもないし、本当に勘だけで気付いたというなら侮れない。
とは言え、彼は処刑されるのだし隠す必要もないか。
「僕はリアン。アイザック兄上の双子の弟だ。よく気付いたね。」
オスカーは驚きの表情を浮かべた。
無理もないだろう。
第一王子に双子の弟がいるなんて情報は、王家から一切公表されていない。
「驚きました。アイザック殿下に双子の弟君がいたなんて、聞いたことがありませんでしたが。」
「僕は王子として認知されていないからね。兄上の影なんだ。」
それに不満はないという意思を、言外に滲ませる。
「それはそれは。そのリアン様が、こんな所へ何のご用でしょう。」
「オスカーに聞きたいことがあるんだ。今の国を壊してまで作り直したかった国とは、どんな国なんだ?」
オスカーは一瞬考えこんだ後、大声で笑いだした。
何がそんなに面白かったと言うのか。
「やはりあなたはアイザック殿下とは違いますな。いや、この国のどの王子とも違う。他の王子方は罪人にそんなことを聞いたりしません。」
そうなのか。
確かに兄上が聞いている様子は想像できないが。
そもそも僕だっていつもそんなことを聞いているわけではない。
ただ、気になったのだ。
王家に歯向かってまで作りたかった国が。
「失礼しました。ですが、それはリアン様の長所でもあると思います。気になったことがあれば、目下の者にも教えを請う。出来そうで出来ないことです。」
そうだろうか。
オスカーは大したことだと言うが、僕にとってはどうと言うことはない。
僕より目下な者がいないだけだ。
だって存在を認知されていない者なと他にいないだろう。
「私が作りたかったのは、誰もが自由に過ごせる国です。生まれによって人生を左右されることがない、そんな国ですな。・・・リアン様、私が屋敷で言ったことは覚えていますか。私はあなたの下にならついてもいいと思いました。あれはアイザック殿下でなく、あなたにお伝えしたのですよ。」
「僕、に?」
「今は分からなくても問題ないです。同じような者が今後現れるはずですから。その時は私の言ったことを思い出して頂けると、あなたに腕を切られた甲斐もあるってものだ。」
オスカーは茶化すように言った。
何だかとても大事なことを言われているような気がするが、僕にはいまいち理解できなかった。
しかし、この日のことは生涯忘れることがないだろう。
何だかそんな気がした。
――1週間後
オスカーは処刑された。
人物設定
◆モナ(19)
王宮で働くことになったメイド。




