70話 嘘か誠か
片膝を立て左腕を膝に置き、呑気にあくびをしながら水掻きのついた手で耳をほじくる態度の悪い魚人が、ニヤつきやがった。
「選び終わったみたいだな! じゃあ詳しいゲーム説明といくか!」
魚人は盤上を見ろと指差した。
「盤上は縦50マス、横30マスだ。互いに二つダイスを振り、赤いダイスは行動数、青いダイスは動かせる人数を指し示す。見てわかるように、盤上のフィールドは五つの地形に分かれている。東は森、西は湖、南は荒野、北は雪山、そして中央は草原だ。儂は北側が所定の位置になり、お前さんは南の荒野だ!」
ややこしくてようわからん!
それに東西南北と中央に一箇所ずつ青いマスがあるが、これはなんだ?
「おい! 青いマスはなんだ?」
ムカつく笑いを見せる魚人が、得意げに話しているのが更にムカつくわ!
「青いマスは宝箱、武器が入手できる。魂の駒となった者は武器を持っておらんからここで入手するんだ。ちなみに魂の駒となった者とは意識を集中させることで、意思の疎通が可能だ!」
蓄えた髭を触りながら、余裕の笑を浮かべる魚人が気になる。
「随分と親切に教えてくれるんだな?」
魚人は馬鹿にしたように俺を見ながら言いやがった。
「お前さんに初めから勝ち目なんてないからな」
初めから俺に勝ち目がないとはどういう事だ!
こいつインチキする気じゃないだろうな!
「どう言う意味だ!」
「馬鹿なお前さんにもわかるように教えてやるわ!」
そう言うと魚人は手にしていたアリアの駒を俺に見せつけ、信じられないことを口にする。
「俺のキングはこれだ! 意味わかるか?」
一瞬、この魚人が何を言っているのかわからなかったが、すぐに理解し、怒りが込み上げてくる。
コノヤロォォオオオ! ハメやがったな!
アリアがキングなら、どうやってこのゲームとやらに勝てと言うんだ!
確かルールでは、敵の全滅かキングの破壊で勝利と言っていた!
アリアが相手のキングなら、初めからどうしようもないではないか!
こんなものは認めん!
「こんなものは無効だ! 今すぐお前を殺してやる!」
俺が立ち上がると、魚人は余裕の笑い声を上げ、勝ち誇ったように言い放ってくる。
「ホホホホ! お前さんもう忘れたのか? 儂を殺せばこの娘は死ぬぞ! それに参加を表明したお前さんはもうこのゲームからは降りられん! それがルールだ!」
くそったれが! 魚人の言うとおり、テリトリー系の技はルールを破ってしまうと何が起こるかわからん!
俺は再び盤上の前に座り直し、自分自身を落ち着かせるため深呼吸をする。
落ち着け、考えるんだ。こいつを殺したらアリアが死ぬというのなら、俺が死んだらリリアーナたちはどうなるんだ?
魚人に鋭い視線を送ると同時に問いただす。
「ちなみに俺が死んだら、こいつらは……俺の駒になった奴らはどうなる?」
「お前さんが自害でもして死んだら、その時点でゲームは終了。駒になった者たちは解放される!」
言ってることがおかしいだろ!
矛盾し過ぎであろう!
俺が死んだらリリアーナたちが解放されるなら、お前が死ねばアリアは解放されるということだろ!
「じゃお前が死んでも開放されるということだろ!」
今まで以上に人をコケにしたような気味の悪い笑を顔に張り付け、挑発してくる魚人に苛立ちを募らせながらも、今は堪えろと必死に耐えている。
そんな俺を更に挑発するように、魚人は頬を突き出し、殴ってみろと自らの頬をペチペチと叩いている。
「試してみるか? ほれ、殺してみそ? ホホホホ!」
マジでイライラするわ!
嘘か誠かわからんこの魚人の言葉に惑わされる自分自身に、更に苛立ちを覚えるわ!
目の前で調子に乗るこやつを殺すことは簡単だ。だが、仮にこやつの話が事実だったとすれば……アリアを殺してしまうことになる。
真実を知る術は……俺にはない。
だが、このままゲームとやらをしても、俺に勝ち目はないではないか!
そもそもタコルの時もそうだが、一体いつ技の発動条件を満たしたと言うのだ?
それがわからん以上、この技を解いてもまたすぐに技を発動されれば意味がない!
時間を稼ぎながら、ヒントを探すんだ!
試しに本人に聞いてみるか? 今なら調子に乗っているから喋りおるかもしれん。
「お前の技は複雑なようだが、一体いつ発動条件を満たしたと言うのだ?」
プー!
この野郎! 馬鹿みたいに手を叩きながら尻を浮かせて屁をコキやがった!
屁で返事したとでも言いたいのか?
頭を掻きながら少しも悪びれた様子なく、完全に人をコケにしておる。
「これはすまんな、王子様の前で屁をこいてしまったわ! お詫びに教えてやろう! アリア=セスタリカは儂の声に応えたと同時に盤上に目をやった、それが駒になる者の発動条件だ。だが、それだけではただ駒になっただけ、駒になって5分以内にゲームの対戦者が現れなければ、解放されておったんだよ! ところが、どこかのおバカさんがすぐにゲームに参加してくれたおかげで助かったわ! ゲームとは駆け引きが鍵なんだよ、わかるかい? おバカさん!」
怒りで震え、今にも爆発してしまいそうな体に力を込め抑え付けていると。
そんな俺の様子を見て、少し離れた所でアリアとリリアーナの体を介抱するシスが声を掛けてくれる。
「アル! そんな相手の挑発に惑わされてはダメです! アーロンさんが言っていました、戦場で最も大切な事は冷静でいることだと!」
シスに顔を向け、アーロンが言っていたと言う言葉を胸に刻むと、少し気持ちが落ち着いてきた。
すると、フルク王子もスノーも気遣い声を掛けてくれる。
「彼女の言う通りだ義弟よ! 必ず皆が助かる方法があるはずだ!」
「そうですよアル! そこの魚人は相手を怒らせ、冷静な判断力を奪おうとしているのです」
彼らの言う通りだ、俺はアリアが駒に変えられてしまったことで、冷静な判断ができず、相手の言葉に誘導され、こんなゲームに参加してしまったんだ。
ここにアーロンがいれば、ゲームに参加する俺をきっと止めていたはずだ。
早く彼らに、仲間に会いたい。
俺は首を後ろへ向け、フルク王子とスノーへ感謝を込め頷き、遥か後方にいるセノリア王に視線を向けると、黙って頷いている。
その目は何も心配などはしていない、ソナタを信じていると言ってくれているようだった。
俺は正面に首を向き直し、腐った魚野郎を見て思う。
まともにゲームをやれば、悔しいが俺に勝ち目はない。
だが、俺のミスで駒にしてしまった皆を元に戻し、アリアの事も助け出す方法がひとつある!
それはつまり、ゲームを終わらせるということだ!
このゲームに参加している俺が死ねば……皆助かるのだ!
俺にアリアは殺せない。
だが、俺を殺す事ならできる!
でも、それをすれば……もう皆には会えないのだ。
――次回 71話、光の足跡。
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