71話 光の足跡
皆に会えなくなることを考えると……呼吸が乱れる。
だけど、俺のせいで皆を巻き込んでしまったのだ。
俺が相手の言葉に乗ってゲームとやらに参加しなければ、こんな事態は避けられたのだ。
まるで一人、暗闇の牢獄に閉じ込められたみたいだった。
ここには光は無く、目の前に広がるのは音の無い真っ黒な世界。
そんな光も音も無い世界に、聞こえるはずのない光の音が響いた。
暗闇の中で、聞こえるはずのない音の方へ振り返れば、堂々と胸を張り、道に迷わぬようにと光の足跡を残しながら、真直ぐ俺に近づくポルドがいた!
「何を情けない顔をしておる! アルトロ王子!」
「……ポルド」
ポルドは真直ぐ俺の元まで来て、俺の横で姿勢を正し床に座ると、俺に顔を向け自分も共に戦うと言ってくれる。
「アルトロ王子よ、一人で戦おうとするな! 孤独になれば闇に支配される! 闇に支配されれば愚かな考えが脳裏を過る! 忘れてくれるな、一緒に飯を食う約束を! 共に戦うぞアルトロ王子!」
ポルドは俺の考えを見透かし、俺を救うため、恐怖に身を震わせながら俺の横に座ってくれたんだ。
現に腕を組むポルドの肩は微かに震えている。
俺はもう一度息を整え、ポルドに向けていた顔を魚人に向け直し、ゲームを始めるよう急かした!
「お前も残りの駒をさっさと選べ!」
「ホホホホ、儂に勝つ気でおるのか? お前がこの娘を殺せん以上勝ち目などないものを! まぁいいだろう」
魚人は近くにいた、生き残っていた黒ずくめの4人を駒に変え、アリアの駒を含めた5つの駒を盤上の手前、北側にセットした。
俺も魚人の真似をし、手前の南側の荒野のフィールドに5つの駒を配置した。
互いに駒を配置し終わると、盤上から一筋の光が天井に向け放たれ、光は宙で半透明のスクリーンを創り出し、スクリーンの中にはリリアーナたちの姿がある。
なんだこれ? 一体どういう事だ!
状況が理解できず驚いているのは俺だけじゃない、この会場にいる全ての者が光のスクリーンを見上げ、響めきを上げている。
魚人は俺たちが驚いた姿を見て愉快そうに膝を叩いている。
「これは盤上の中の光景だよ! 魂の駒となった彼らの精神は今、盤上の仮想空間へと送られ、魂の戦いが始まるのだよ。わかりやすく言えば精神世界だな! こちらの声はあちらには聞こえんが、あちらの声はスクリーンを通し聞こえる仕様だ! 仲間が叫び死にゆく様は見ものだぞ、ホホホホ」
スクリーンを通し見えるリリアーナたちは、それぞれ離れた場所にいるみたいだ。スクリーンはランダムで映す者を変えていっている。
そこでひとつ気になった、俺はリリアーナたち5つの駒を横30マスの東側に固めて配置したのだが、リリアーナたち5人は皆バラバラの所にいる。
「おい! 俺は駒を固めて配置したのになんでみんなバラバラにいるんだ!」
「ああ、このひとマスは半径1キロずつなんでな、隣同士に置いても1キロ離れていることになるんだ。ちなみに半径1キロ以上先は結界で進めなくなっているが、駒が隣同士になった際は互のフィールドが繋がるので行き来は可能だ。しかし駒が離れればまたフィールドは半径1キロだけになる。先に進むためには駒を動かすしかないということだ」
つまり、リリアーナたちが自由に行動できるのは半径一キロだけということか。
だが今は5つの駒が連なっているから、会いに行こうと思えば行けるということか。
このゲームとやらで重要になってくるのは、いかに駒を連結させて動かすことができるかということか。
連結させずに行動すれば一対複数にもなり得るし、すぐには助けにも行けなくなってしまう。
そこで重要になってくるのが二つのダイスの目ということだな。
確か赤いダイスは行動できるマスの数を表し、青いダイスは動かせる駒の数を表していると言っていたな。
仮に赤いダイスが6に対し行動できる青いダイスが1だったら、仲間との距離が離れてしまう。
でも6面ダイスに対し駒は5つだ。
「駒が5つなのに青いダイスが6だったらどうなるんだよ?」
「その場合はひとつの駒が二回行動できる」
なるほど、それだと最大で12マス分移動できるという事か!
俺が盤上を見つめ顎に手当てながら考えを巡らせていると、魚人はこのゲームでの重要ポイントを口にしている。
「お前、駒を連結させて動かすことが重要だと考えていただろう? だが、それは間違いだ! このゲームに置いて重要なのは、各フィールドに一つ存在する宝箱を取れるかどうかにあると言ってもいい!」
確かに各フィールドに一箇所ずつ青いマスが存在する、取れなければリリアーナたちは丸腰で戦闘を行わなければいけないということか。
確かに、臆して固まって動かしていたら後手に回る事になるかもしれんな。
しかし、気に食わん!
そんな重要なことを俺に教えるのは余裕からか? それとも他にもまだ何かあるのか?
目の前の魚人はニヤリ顔をしているが、俺を見る目は鋭く研ぎ澄まされている。
「それではゲームを開始しようか! 先攻は儂からでいいな!」
魚人は指で摘むようにダイスを持ち、盤上にダイスを転がした。
盤上を転がる2つのダイスが、双方6の目を上面に停止した。
魚人は二つのダイスが6の目を指し示すと、腰を浮かし喜んでいる。
「これはツイている! 幸先がいいな! では、2回行動はアリアにするかな!」
魚人はアリアの駒を12マス分、西の湖に向かわせ、残りの駒を中央に前進させた。
その瞬間、俺の後方でスクリーンを見ていた貴族たちが騒ぎ始めた。
一体どうしたのかと振り返ると、隣で正座をするポルドがスクリーンを指差している。
「アルトロ王子、アリアのいた場所の景色が変わっておる!」
スクリーンに目をやるとアリアが映し出され、怯えたようにその場で屈んでいる。
怯えているアリアの周囲の景色が流れるように移り変わり、その場を一歩も動いていないのにアリアは場所を移動していた。
駒が動かされると強制的に場所を移動させられるようだ。
スクリーンを通しアリアの様子を伺っていた俺に、双方6の目を出し浮かれている魚人が、早くダイスを振れと急かしおる。
「ほれ、お前さんの番だ! 早くせんか」
俺は盤上の上にあるダイスを手に取り、再び盤上へとダイスを転がせた。
赤いダイスの目が5、青いダイスの目が1、動かせるのは一駒だけのようだ。
俺は少し考え、リリアーナの駒に手を伸ばした。
――次回 72話、イカサマ。
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