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118話 巨大樹

 ミゼアの後を追うように派手な水しぶきを上げながら湖に飛び込むと、飛び込んだ先は水中ではなく何故か上空なのだ。


 重力に押し付けられるように落下しながら上空を見上げると、黄金の魔法陣が空に描かれているのがはっきりと見えた。

 そこから判断するに、妖精族の遺伝子に何らかの魔法術式が組み込まれており、故郷を想って涙を流し、それが水に溶けることで転移魔法の類が自動的に発動するようになっているのだろう。


 地上に転移するのではなく空中に転移する事を考えると、トラップ的な要素も含まれているのだろうな。


 妖精族は羽を持つ種族だから上空に転移しても問題はない、だが人間や翼を持たぬ種族がこの方法で妖精の都にたどり着いたとしても、転落死という最悪な結末が待ち構えているという訳か。


 これは意図的に何者かが妖精の都に簡単に攻め込まれない為に取った策なのだろうな。


 俺は黒炎の翼を広げ上空に停止する形で周囲を見渡しミゼア達の姿を確認した。

 ミゼアは光沢のある黒い翼を羽ばたかせながらゆっくりとこちらに向かって飛んできている。


 ゼセットはコウモリのように逆さになって腕を組みながら額に縦皺(たてしわ)を作りながら俺に鋭い眼光を放っている。


 慌てて親友のタコルを追いかけて湖に飛び込んだメルトは、両腕で抱きかかえるようにタコルをしっかりと捕まえている。

 メルトに抱きかかえられたタコルは九死に一生を得たと言うのに、ジタバタと触手をばたつかせながら暴れている。


「離してくれぇー」

「暴れんなタコル、お前は羽がないんだがら落ちたら脳みそ弾げ飛ぶぞ」

「そんなことオイラだってわかってるよ。わかってるけど……臭くて死にそうなんだ!」

「…………」

「あああああああああああああああああああああっ!」


 メルトは余程ムカついたのか、(まぶた)をそっと落としながら抱き抱えるタコルを三秒ほど見つめると、ぷいっとそっぽを向いて両手を広げタコルを離してしまった。


 メルトに見捨てられたタコルは大粒の涙を宙にばら撒きながら、どんどんとその姿が豆粒のように小さくなっている。


 このままでは転落死確定のタコを流石に見殺しにはできなかったので、急降下しタコルを拾い上げて再び上昇した。


「ひでぇえええええええ! 友達を殺そうとするなんて信じられねぇよ」

「俺っちが臭いがら離せって言ったのはタコルの方だべ! 俺っちは言う通り離しでやっただげだ」

「本当に離すバカがどこにいんだよ! もうちょっとで死ぬところだったんだぞ!」


「俺っちはタコルの所為で酷ぐ心が傷ついたんだ!」

「くせぇからくせェって言ったんだ! 心が傷ついたぐらいじゃ死なないだろ!」

「俺っちは赤ハゲと違っで繊細なんだ!」

「ああかハゲだと! もうお前とは絶交だ!」

「望むとごろだ!」


 なんというどうでもいい争いだ。俺の左手で掴まれたタコルはフンッと目線を逸らしプンスカプンスカ怒っている。

 一方のメルトも膨れっ面で腕を組みあさっての方向を向いている。


「くだらん奴らだな」

「なんだと! 元はと言えばお前が悪いんだろ!」

「んだ! お前がいい匂いの俺っちをごんなに臭くしだんだろ!」


 口は災いの元だったな。二匹の怒りが俺に向けられ始めている、非常にめんどくさい。


「そんな事よりあの馬鹿でかい木はなんだい? 世界樹……じゃないよね?」


 ゆっくりと近づき声をかけてくれたミゼアのお陰で助かった。

 ミゼアがまた興味津々と言った顔で指差す方角に顔を向けてみると、とんでもなく馬鹿でかい巨大樹が(そび)え立っている。


 その巨大樹は上空にいる俺達が見上げてしまうほど高く伸び、文字通り天まで届く勢いなのだ。


「なんなのだあの巨大樹は? 一体どこまで伸びているのだ?」

「あれは妖精王だ!」

「「「妖精王!?」」」


 逆さになって飛んでいたゼセットも興味があるらしく近づい来ているのだが、それよりもあれがスノーの父の残した本に記されていた妖精王なのか?


 だとしたら妖精王をサラの元へ連れて行くなど不可能ではないか?

 というか、あの馬鹿でかい巨大樹がどうやって呪いを解いてくれると言うのだ? 意味がわからん。


「本当にあれが妖精王なのか?」

「ここで生まれ育った俺っちが言っでんだがら間違いない。それに今はまだ妖精王は寝でんだ」

「木が寝るとはどう言う意味だ?」


 ゼセットの言う通りさっぱり意味がわからん。


「よぐ妖精王を見でみろ。目と鼻と口がちゃんどあるだろ! 目つぶっで寝でんだろ?」

「「「…………っあ!」」」


 確かにメルトの言うように、遠目からでもはっきりとわかるほど顔がある。

 目に口、それに太い木の枝だと思っていたのは鼻だったのか!


「あれ生きてんのかい?」

「当だり前だろ! 妖精王はごの世界で一番長ぐ生きでんだ。正確な年は知らないげど、確が数万年は生きでるぞ」

「「「数万年!?」」」


「嘘をつくな!」

「いくらなんでも言いすぎだろ?」


 二人が疑いたくなる気持ちもわからんではないが、木と言うのはそもそも寿命が長い、例えば木の種族ドルイドやトレントもこの世界の生物の中ではダントツで長寿だ。


 それを踏まえた上であの化け物のような巨大樹の事を考えると……数万年生きているというのも、ある意味納得できる。


「おい! さっきからどうでもいいこと話してるけど早いとこ地上に降りてくれよ! オイラはお前達と違って飛べないんだから、居心地悪りぃんだよ」

「不便な生き物だな」

「言っとくけどな、普通の人間は飛べないんだぞ! 飛べるお前がどうかしてんだ」

「じゃあ取り敢えず街に降りで見るが?」

「妖精の街の飯……旨いのか?」

「いいね! そうしようよ、いいだろアルトロ」

「確かにずっと飛んでいても仕方あるまい。よし、では下に降りるとするか」


 街に向かって降下しながらチラッと横目で巨大樹こと妖精王を見ながら考えているのだが、妖精王は毎日ちゃんと起きるのか? それとも特定の時期にしか目を覚まさないのか?


 もしも後者だとしたら…………今は考えても仕方ないか。

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一話だけでも……!
是非お読みください!
モンスターボールを投げたらノーコン過ぎて女勇者を捕まえてしまった件。
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